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2015.06.22 
【クローズアップ 憲法違反を考える】脅かす 命と暮らし まさにTPPは違憲一覧へ

岩月 浩二・TPP違憲訴訟の原告弁護団共同代表に聞く

 衆院憲法調査会に参考人として出席した憲法学者3人が国会で審議中の安全保障法案に対し、そろって「憲法違反」と明言した。憲法はいうまでもなく「国の最高法規」(98条)で憲法違反の法律は効力を持たない。政府が提出した法案の性格そのものが揺らいで国会では激しい議論が行われている。問われているのは憲法の基本原理のひとつである平和主義に関わる9条違反かどうかだが、憲法はほかに国民主権、基本的人権の尊重も根幹の原理としており、それに即して命や暮らしに関わる重要な規定もいくつもの条文に盛り込まれている。ここに着目して5月に裁判所に訴えを起こしたのが交渉中のTPP(環太平洋連携協定)は「憲法違反」との提訴である。そこで安保法制をめぐる今回の「違憲」問題を契機に、改めて憲法とは何かを考えてみようと、TPP違憲訴訟の原告弁護団共同代表でもある弁護士の岩月浩二氏を訪ねた。

◆揺らぐ民主主義

岩月 浩二氏・TPP違憲訴訟の原告弁護団共同代表 6月4日の国会に参考人として出席した3人の憲法学者には与党が推薦した学者もいた。また、それぞれ安全保障政策への考え方は異なり、さらにはもともと憲法改正が持論だという学者も参考人だった。
 その3人がそろって今回の安保法案は「憲法違反」と明言した。いずれも今回の法案に盛り込まれた集団的自衛権の行使(これまでは個別的自衛権のみ許されるという解釈)と、それにともなう海外での軍事活動は、「戦争の放棄、戦力の不保持・交戦権の否認」を規定している憲法9条そのもの、あるいはその解釈として認めてきた範囲を超えていると指摘した。 法案の根幹に疑問が生じたことで国会では激しい議論になって野党からは「法案を撤回すべき」との主張も出ている。国会前では連日、国民の抗議行動も起きている。
 今回の件についてどう考えるか。
 岩月氏は、安保法案と憲法9条の問題以前に「まず何より少人数で極めて重要なことも決めるという安倍政権発足以来の問題が現れている」と指摘する。「必要であれば法改正をするが、そうでなれば閣議決定だけで進む。民主主義の正当性が揺らいでいるのではないか」
 この指摘を聞くと、まさに最近の農業・農協改革はそうではなかったか、と改めて思う人は多いのではないか。平成30年産からの米の生産調整の見直しも、現在、国会で審議中の農協改革も、その議論を主導したのは産業競争力会議と規制改革会議の少数の民間委員だ。
 この規制改革会議は内閣府の設置法が根拠となっている。しかし、産業競争力会議には法的な根拠はない。2年半前、平成24年12月に発足した安倍政権が、ただちに“閣議決定”で設置を決めた機関である。そのうえで前述のようにさまざまな改革を主導し、さらにこの3月に決めた新たな食料・農業・農村基本計画策定の議論にまで目を光らせる役目も担っていた(実際には政府の「農林水産業・地域の活力創造本部」だが、そもそもこの本部自体が産業競争力会議の議論をふまえて施策を検討する、と位置づけられている)。
 こうした安倍政権の“閣議決定”のひとつが昨年7月1日の集団的自衛権の行使容認である。この閣議決定でそれまでの憲法解釈を変えたうえで、今回の安保法制の法案化にこぎつけた。閣議決定をてこに政策を推進する、岩月氏の指摘する“少人数で極めて重要なことも決める”という一連の姿勢である。
 しかも、この過程で解釈変更の閣議決定のために安倍首相は内閣法制局長官を交代させた。
 「政府・与党は、今回の参考人質疑の件で憲法の解釈権は最高裁にあって、憲法学者ではないと批判しています。しかし、そもそも政府のなかで憲法を守るため、いわば職人的な専門部局が論理を積み上げていくという仕組みが内閣法制局です。その歯止めを外しておいて開き直りのような議論をしているのではないか」という。

(写真)岩月 浩二氏・TPP違憲訴訟の原告弁護団共同代表


◆立憲主義に反する

安保法制案は「違憲」と連日国会前に大ぜいの人々が集まっている

 このように憲法をないがしろにする政府は“立憲主義”に反するとの批判も高まっている。
 立憲主義とは、そもそも憲法とは権力者の権力の濫用をしばるもの、という考え方だ。とくに日本国憲法の根幹を成す平和主義に関わる部分について一内閣の判断で軽々と解釈を変えるのは「まさに立憲主義、憲法が権力をしばるという考え方を無視した振る舞い」だという。今回、参考人の憲法学者が一様に「違憲」と指摘したことを岩月氏は「憲法に対するこのような扱い方の軽さ、それに対する非常に強い警告だと受け止めるべき」だと強調する。
 とくに平和主義の根幹になっている「戦争の放棄」については「日本国民の戦争体験というものを超えて、人類史に残るようないくつもの悲劇を重ねた末に出てきた。それが憲法前文と9条ということだと思います」という。一内閣の判断、あるいは首相個人の歴史観へのこだわりなどで変えられるようなものではない深みや重みがそこにはある。

(写真)安保法制案は「違憲」と連日国会前に大ぜいの人々が集まっている


◆憲法を読み守る
 こうした深みや重みを前文や9条のほかに、「国民主権」や「基本的人権の尊重」に関わる条文に読み込んでいく必要があるのではないか。TPPは憲法違反ではないのか、と最初に問題提起した岩月氏は「憲法違反というと9条の問題と思われる。しかし、憲法はもっと幅広く私たちの暮らしに関わっている。今まであまり考えたことがなかった問題を憲法のなかに読み込んでいく。それが憲法を守るということだと思います」と話す。
 まさに「この国のかたち、命と暮らし」に関わる問題であるTPPについて訴訟団が憲法違反とする論点と条文はどこか。 5月15日に東京地裁に提訴された訴状ではTPPについて、自由貿易を妨げる関税撤廃はもちろん各国が持っている特有の制度の撤廃が必要だとしており、TPPが締結されれば、その合意内容に反する法令を改廃することが求められる一方、新たな法律が必要になってもTPPに反する立法措置は禁止されることになるとする。
 岩月氏はこれらの問題はそもそも憲法41条「国会は国権の最高機関であって、国の唯一の立法機関である」との規定に違反すると主張している。 また、ISD条項(投資家対国家紛争解決条項)は、外国投資家が国や自治体が市場参入を規制しているなどとして国際仲裁に訴える権利を認める条項だが、これは日本国内で裁判を行うという日本の司法権を奪うことになる。憲法76条1項は「すべて司法権は、最高裁判所及び法律で定めるところにより設置する下級裁判所に属する」と規定しており、これに違反するとの主張だ。


◆違憲には抵抗を

 TPPは関税撤廃による農業への壊滅的打撃はもちろん、食の安全規制の緩和、医療費の高騰と国民皆保険制度の形骸化など、さまざま不安がある。
 一方、憲法13条は生命、自由及び幸福の追求権利を保障し、憲法25条は健康で文化的な最低限度の生存権を保障している。訴状では「生存権を保障する日本国憲法のもとで、多くの立法が積み重ねられることによって日本国民は生存権の表れとしてさまざまな具体的権利が保障されている」と主張し、こうした広範な権利がTPPで侵害されることは憲法13条と25条に違反するとしているほか、秘密交渉は国民の知る権利を規定した21条違反だとも訴えている。
 改めて岩月氏はこう話す。
 「立憲主義とは憲法によって権力者の権利をしばること。しかしそれ以前に、あなた方を権力者と認めるそもそもの発端は私たちの権利を守るという約束のもとでのことですよ、という考えも前提にある。これも立憲主義のひとつの側面です。だから、憲法に規定された国民の権利を踏みにじるようなことにはきちんと抵抗していく。憲法を軸にして考えていくことが大切になっている時代だと思います」。

 

【日本国憲法より】

(個人の尊重、生存権
○第13条(個人の尊重)すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
○第25条(国民の生存権、国の社会保障的義務)(1)すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。(2)国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。

(国民の知る権利)
○第21条(集会・結社・表現の自由、通信の秘密)(1)集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。(2)検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。

(立法権)
○第41条(国会の地位・立法権)国会は、国権の最高機関であって、国の唯一の立法機関である。

(司法権)
○第76条(司法権と裁判所、特別裁判所の禁止と行政機関の終審的裁判の禁止、裁判官の独立)(1)すべて司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する。(2)特別裁判所は、これを設置することができない。行政機関は、終審として裁判を行うことができない。(3)すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される。

(基本的人権)
○第97条(基本的人権の本質)この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であって、これらの権利は、過去幾多の試練に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。

(憲法の尊重)
○第99条(憲法尊重擁護の義務)天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。

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