世界の政治・経済情報を収集しているINBRのレポート TPPの米国・EUを含めた課題2016年10月22日
米国やEUなどで何が起こっているのか? 一般紙などでは報道されることが少ない現地から情報をもとに、月2回程度、土曜日発信します。
今回のテーマは、日本政府は、クリントン候補のTPP反対のポイントの複雑性からオバマ大統領のレームダック期間を逃せば発効が大幅に遅れ対EU,対中国含めた交渉力におけるリーダーシップを日米がとることが出来ないとの読みからTPP早期発効を急いでいるが、その背景を探る。
現国会においてTPPの国会承認議案審議が始まり政府は今国会での承認を目指している。
8年前2008年1月に交渉が始まり、協定の草案が2015年10月にまとまり今年の2月4日に12カ国代表が最終合意に達し署名がなされた。ただしこの署名によりTPPが発効はされない。各国政府が合意署名がなされた後にそれぞれの国での立法府での審議承認がなされ初めて発効の運びとなる。
◆クリントンが反対するポイントはISDS
米国大統領選挙の論争の中、最終第三回のTV討論で民主・共和両党の大統領候補、トランプ候補が対クリントン候補に対して論戦の焦点としているのがTPPに対するクリントン候補のスタンスである。オバマ大統領の国務長官時代にはTPP推進派としてあらゆるプレゼンテーションの場でTPPの重要性を述べてきた本人が、今年の4月以降、特に7月13日に、「現行TPPの内容に対して米国経済とくに中産階級の便益を損ねる観点から反対を表明」、さらに10月11日のデトロイトでの演説では再交渉の必要性を述べた。
11月8日から1月の上院・下院会議の開催までのレームダック(大統領が有終の美を飾る事のできる最後の期間)での議会承認を進めている最中でのクリントン候補の反対表明である。
重要なポイントは、反対している対象がTPPそのものではなく、TPPの中のISDS条項<Investor-state Dispute Settlement>「投資対国家の紛争解決制度」の交渉結果に対する反対である。
この内容は外資・多国籍企業・投資企業が相手市場国の法律により損害を被る恐れがある場合、被った場合に相手方国家に訴訟をかけ損害賠償を求めるかまたは法律の改訂を要求することが可能となるものである。
今のTPPで署名された内容では米国市場が不利益を被るリスクが大きく、この分野の再交渉を図る必要があるとして反対の論陣をはっているのである。
◆EUとのTTIP交渉でも問題に
同時並行的に行われている、EU米国が交渉を進めている「包括的貿易投資協定TTIP」がこの論争に油を注ぐ可能性がでてきている。2015年に8回目の会議が開催され本年2月に9回目が。その中では規制分野で、衛生植物検疫措置<SPS>並びに知的財産権<IPR>の調整とくに米国が最低12年としている基本特許期間を短縮しているEUに対する挑戦課題が交渉継続となっているが、米国最大の農業団体 米国農業連合会(AFBF:アメリカン・ファーム・ビューロー・フェデレーション)が産地表記等含め激しい交渉ロビーを仕掛けているさらにAFBFやアメリカ大豆協会(ASA: American Soybean Association)など13団体からなる米国バ イオ作物連合(U.S. Biotech Crops Alliance)は、EU保健衛生・食 の安全総局にEU のバイオ作物の承認の遅れを指摘し、EUに対してバイオ作 物に関する基本原則案を提示している。特に安全性リスクに関する非科学的ルールを正当化するEUに対して科学的根拠に基づいたルール以外はスタンダード不可として論陣を張っている。
◆米国の食糧安全保障にも
ここで同時にEUと米国政府がしのぎを削っているのがISDSである。
時同じくして、ドイツに本拠地をおくBayer社が米国に本拠地をおくMonsanto社の買収を発表、米国の食糧戦略の根幹をなすGMO種子ビジネスの知的所有権とノウハウさらには米国での30%以上のトウモロコシ(メイズ)・大豆のシェアを持つことから、米国の食糧安全保障も絡みTPPのISDS「投資対国家の紛争解決制度」の現状条件反対との立場を表明したクリントン候補の大統領就任の確率同様、TPPの米国議会内での承認は今大きな分岐点を迎えている。
重要な記事
最新の記事
-
【JA全農の若い力】家畜衛生研究所(3)病気や環境幅広く クリニック西日本分室 小川哲郎さん2025年9月18日
-
【石破首相退陣に思う】米増産は評価 国のテコ入れで農業守れ 参政党代表 神谷宗幣参議院議員2025年9月18日
-
【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】協同組合は生産者と消費者と国民全体を守る~農協人は原点に立ち返って踏ん張ろう2025年9月18日
-
「ひとめぼれ」3万1000円に 全農みやぎが追加払い オファーに応え集荷するため2025年9月18日
-
アケビの皮・間引き野菜・オカヒジキ【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第356回2025年9月18日
-
石川佳純の卓球教室「47都道府県サンクスツアー」三重県で開催 JA全農2025年9月18日
-
秋の交通安全キャンペーンを開始 FANTASTICS 八木勇征さん主演の新CM放映 特設サイトも公開 JA共済連2025年9月18日
-
西郷倉庫で25年産米入庫始まる JA鶴岡2025年9月18日
-
日本初・民間主導の再突入衛星「あおば」打ち上げ事業を支援 JA三井リース2025年9月18日
-
ドトールコーヒー監修アイスバー「ドトール キャラメルカフェラテ」新発売 協同乳業2025年9月18日
-
「らくのうプチマルシェ」28日に新宿で開催 全酪連2025年9月18日
-
埼玉県「スマート農業技術実演・展示会」参加者を募集2025年9月18日
-
「AGRI WEEK in F VILLAGE 2025」に協賛 食と農業を学ぶ秋の祭典 クボタ2025年9月18日
-
農家向け生成AI活用支援サービス「農業AI顧問」提供開始 農情人2025年9月18日
-
段ボール、堆肥、苗で不耕起栽培「ノーディグ菜園」を普及 日本ノーディグ協会2025年9月18日
-
深作農園「日本でいちばん大切にしたい会社」で「審査委員会特別賞」受賞2025年9月18日
-
果実のフードロス削減と農家支援「キリン 氷結mottainai キウイのたまご」セブン‐イレブン限定で新発売2025年9月18日
-
グローバル・インフラ・マネジメントからシリーズB資金調達 AGRIST2025年9月18日
-
利用者が講師に オンラインで「手前みそお披露目会」開催 パルシステム東京2025年9月18日
-
福島県に「コメリハード&グリーン船引店」10月1日に新規開店2025年9月18日