【米国大統領選2016】TPP仕切り直し 対日要求は変わらず 2国間交渉で圧力強まる(3) ー明治大学商学部 柿崎繁教授2016年11月12日
明治大学商学部・柿崎繁教授
--経済・通商政策はどのようなものが打ち出されると予想されますか。
トランプ政権のスローガンは「アメリカ第一」です。そのスローガンの下、政治・軍事、経済の政策が構築されることになります。今のところ大幅減税でビジネス環境を良くしようということがメインの政策だと思います。この大幅減税と国内で大規模な公共投資を拡大する路線との「合わせ技」で来るのだと思います。しかしそれは財政上可能なのか、非常に大きな問題ではあります。
人々が大いに関心を持っている雇用の問題については、公共投資に加えて、海外の企業誘致やアメリカ企業の国内回帰を通じてアメリカの労働者に雇用機会を作ろうとする政策を強めると考えられます。例えばアメリカのシェール・ガスなどは石油埋蔵量に換算すればサウジアラビアを超えていて輸出も始まっていますから、海外の企業を呼び込んでこれを活用してアメリカ国内で製造することが決してコストアップにつながらないという読みも出てきています。
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それからやはり輸出です。ただ、TPPは離脱するということですから、額面通りだとすれば2国間の交渉ということになると思います。関税で対米輸出を抑え、相手の市場を強制的に開くということから輸出圧力を強めるでしょうから、対米輸出国にとって全体的に厳しい状況になると考えられます。米国にとって貿易上の中心問題は中国です。
トランプは、中国からの対米輸出を抑えるために為替操作国と認定して中国に経済的ダメージを与える可能性があります。それは中国にとっての経済的ダメージになるだけではなく、中間財貿易を通じて恩恵を受けていたアジア諸国にとっても、したがってまた日本も大きなダメージを受けることになります。
中国を安定させて輸出を増やすことが米国にとってもポイントだと思うのですがね。領土や海洋問題など政治・軍事的緊張関係もありますから、新政権がその折り合いをどうつけるのか。注目されます。
対日要求は変わらず、輸出については厳しく対応してくるでしょう。そして今ではアメリカの収益の軸となっている金融サービスの分野では金融・保険についての要求は、トランプ大統領になっても変わらないと思います。
したがって農協の信用事業、共済事業が狙われていることに変わりがありません。農産物の輸出などを含めて農協などは目の上のタンコブと位置付けているはずです。
小泉政権下で郵政の民営化を実現し、あとは農協です。
アメリカにとってはどんな政権になっても金融は命綱であり、日本は世界第2位の金融資産を持っているわけですから、そこを取らずしてどこを取るのかということだと思います。
農産物の輸入や、遺伝子組み換えの種子ビジネスをはじめとしたアメリカの巨大アグリビジネスの自由な展開を許すことになるだけではなく、自民党小泉議員が進めようとしている、農協の力を削ぐことは、アメリカ金融資本が戦略的に位置づけてきたもののお先棒を担ぐことに等しいものだということが出来ると思います。
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また、安保問題の問題もあります。米軍基地費用の全額負担、核問題等、非常に極めて危険な発言がありました。選挙向けの発言とは言え、安倍政権がいわば現代版「富国強兵」政策を強めていることもあって、日本の軍事費負担と軍事的役割は一層強まることになりそうです。東アジアの政治・軍事的緊張が高まってきているなかでのオバマからトランプへの政権移行です。注目してみていく必要があるでしょう。
もっともまだ政権の姿がまったく見えていません。当面は新政権移行のための経済、外交などの政策チームがどういう構成になるか、そのチームの柱がだれになるかが最大の焦点だと思います。
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