【米国大統領選2016】TPP仕切り直し 対日要求は変わらず 2国間交渉で圧力強まる(1) ー明治大学商学部 柿崎繁教授2016年11月12日
明治大学商学部・柿崎繁教授
予想を覆してトランプ氏がアメリカの新大統領になった。アメリカ社会に何が起きてこれからどこに向かうのか、TPPから離脱をするというトランプはどのような政策を打ち出すことが考えられるのか。緊急にアメリカ経済が専門の柿崎繁明大教授に聞いた。
--トランプが当選した今回の米国大統領選の背景にはどういう動きがあったのでしょうか。
2008年秋のリーマン・ショック以降のアメリカは7000億ドルを超える財政投入があって金融は10年、11年と持ち直したわけですが、実体経済はよくなっているわけではありません。とくにオバマ政権下で金融が持ち直す中でさらなる格差が急速に広がったということです。それがウォール街を占拠せよという、いわゆるoccupy運動、「1%対99%」をスローガンとした格差反対の大きな運動となって現れたと思います。
その状況は今も基本的には変わっておりません。所得は伸びておりません。経済指標では消費は若干増えているように見えますが、それは借金の前借であり所得の先取りでもあるクレジットで買い物をしているわけですから実体経済は相変わらず停滞している状況だと思います。借金が増えリーマン・ショックによって自分の家も失うなど状況が悪化する一方で、富裕層がさらに裕福となっている中ではアメリカ社会には相当大きな不満がたまっていると見ていました。
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それが予備選で、民主党においても、また共和党においても現状に対する不満や苛立ちというかたちで現れました。民主党ではサンダースの選挙運動の大きな盛り上がりでした。大統領選挙でサンダースはクリントンを応援しましたが、サンダースを支えた運動は、みんなの力で、下からの運動で現状を変えようということを重視したものでした。クリントンが上から、既存の枠組みの中でアメリカを変えようとする既存勢力の代表とみなされ不満が大きかったと思います。
クリントンは中間層を大きくしたいといいましたが、中間層の状況は悪化してます。通り一遍の「分配の公平」では中間層の不満を吸収するには全く不十分でした。また若年層の失業率は高く、また多くの大学生がローンで苦しんでいます。若者は現状に相当の不満を持っていて、ウォール街に支持基盤を持つクリントンを忌避させ、サンダースの運動を盛り上げたと思います。
一方、共和党支持者にとってもブッシュ以来の主流派では何も変えられなかったという思いがあって、既存の政治を変えたいという気持ちをトランプはつかんだと思います。メキシコ国境に壁をつくる、海外に出て行った工場を強制的に国内に持って来させるなど過激な発言をしていますが、本当に困っている人たちにとっては分かりやすい。あの過激さがトランプなら何かをやってくれるかもしれないという期待を生み、泡沫候補だったのが、あれよあれよという間に共和党の大統領候補に押し上げたのだと思います。
政治経験はないものの、不動産業などビジネスマンとして自分の力で成功してきた人間はアメリカン・ドリームの現代的な体現者として尊敬されてもいます。テレビ司会者としても知名度がありました。ニューヨーク・ウォール街を頼らず、自前のお金で選挙運動をはじめ、既存の主流派政治や東部のエリート・エスタブリッシュメント、そして大手マスコミの激しい批判は、現状に不満を持っている人たちに自分とシンクロさせてトランプを見ることに成功しました。トランプが批判されればされるほどシンクロして強烈に共感が広がったと思います。
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得票をみると、トランプが攻撃していたヒスパニックの人々でも、ごく少数とはいえアメリカに定住してそれなりに生活している人たちはトランプに投票したことも明らかになりました。ヒスパニックの人も何とかしてもらいたい現状への不満が既存の政治家ではだめだという気持ちを持った訳でしょう。不安定な状況におかれている製造業の労働者や失業者、そして農家家族など、いわばアメリカの中産階級を代表する人たちが、不安と不満、苛立ちなどいろいろな気持ちがない交ぜになっていて、既存の共和党主流派がトランプを見放せば見放すほど、一層トランプを支え期待感を強めさせ大統領に押し上げたのだと思います。
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