分断を煽ったトランプと団結を訴えたバイデン 萩原伸次郎(横浜国立大学名誉教授)【クローズアップ:どう見る米大統領選】2020年11月6日
2020年米国大統領選挙は、トランプ現大統領とバイデン前副大統領との一騎打ちとなり、11月3日、一般投票が行われた。まだ開票は継続中だが、トランプ大統領は、4日未明、ホワイトハウスで、「勝利している」と一方的に宣言した。かたや、バイデン候補は、開票を見守り、その集計結果を待つと述べた。その後開票は進み、5日現在で、バイデン候補は、選挙人獲得数270に近づきつつある。トランプ大統領は、郵便投票の不正を訴えて、最高裁に提訴するかまえだが、バイデン大統領誕生に事態は動いているといえるだろう。
鍵を握るブルー・ステイト3州
11月3日に行われた投票は、一般投票といわれる。この投票は、全国の有権者によっておこなわれ、その投票は州ごとに集計され、最も票の多かった候補が、州に振り分けられた選挙人の全てを総取りする。米国大統領選挙における選挙人方式は、1788年の合衆国憲法で決められたものだが、総取り方式はユニット・ルールといわれ、1836年から行われている。各州の選挙人の数は、州選出の下院議員の数に上院議員2人が追加される。連邦議会下院議員の数は全部で435人、上院議員の数は100人、合わせて535人となるが、首都ワシントン特別区からは、3人が付け加えられ、米国全体の選挙人の数は、538人となる。過半数は270だから、米国大統領選挙は、270人の選挙人の獲得競争になる。過半数の270人を獲得した候補が次期大統領になるのだ。
共和党のシンボルカラーは赤、民主党のそれはブルー。だから、民主党が強い州をブルー・ステイトと呼ぶ。カリフォルニア州やニューヨーク州のように都市部の人口の多い州には、ブルー・ステイトが多く、中部や南部の諸州には、共和党が強いレッド・ステイトが多い。4年前の選挙で、ヒラリー・クリントンを破り、トランプが勝利した直接的要因は、かつて、産業が栄え、多くの労働者がその産業を支えていた、五大湖周辺の民主党が強かったブルー・ステイトのウィスコンシン、ミシガン、ペンシルベニア諸州で勝ったことにある。
この11月の大統領選挙で、トランプが、終盤、この3州に集中的に力をいれ、世論調査では劣勢である選挙情勢を一気に覆そうとしたのは、4年前の再来を期待したことにあったのは間違いない。一方、ジョー・バイデンも終盤、この3州で最も接戦が予想されるペンシルベニア州で前大統領バラク・オバマの応援も得て力を入れたのは、この州で勝利すれば、トランプ打倒を確実にできると考えたからだ。5日現在で、バイデンは、ウィスコンシン州とミシガン州で勝利した。
1億人超えた期日前投票 郵便投票は「フェイク」か?
2020年大統領選挙の世論調査は、トランプに対して、バイデンがかなり優勢となっていた。しかし、4年前の大統領選挙においての世論調査が、トランプに対して、やはりクリントンが優勢であったものの、実際は、トランプ勝利になった現実から、ふたたび4年前の大統領選の結果になるのではないか、とする見方があったことは事実である。いわゆる「隠れトランプ」の存在だ。
大嘘つきの人種差別主義者のトランプ大統領を公然と支持することは恥ずかしく、世論調査では、トランプ同様嘘をつき、しかし実際は、ドランプ大統領に票を入れるという人たちのことだ。もちろんこうした層がかなり存在していたことは事実だろう。しかし、前回と違い今回は、投票先を決めていない人が少なかった。4年前は、有権者の13%の人たちは、間際まで迷っていた。しかし、今回は、その数値はわずか3%だったという。事実、今回の選挙では、期日前投票が、約1憶117万人に上った。前回の投票数の73%がすでに、郵便投票か実際に投票所に足を運ぶかの期日前投票をすませており、その数は、共和党支持者に対して、民主党支持者が多かった。しかも、共和党支持者とはいっても、G・W・ブッシュ元大統領が、テレビ広告に出て、バイデン支持を訴えたように、トランプ大統領は共和党主流派ではない。
大嘘つきでも、そうした自分の利害には、まことに敏感なトランプ大統領は、だから「郵便投票は不正の温床だ」と根拠のない大嘘をつきはじめ、仮に自分に不利に開票状況が進んでも、それは、「フェイク(偽物)だ」といい続け、最高裁に持ち込み大統領の座に居座る作戦を立てている。また、トランプ支持者というよりは、かなり、トランプ教信者の傾向があるのだが、彼らは「トランプ大統領は、負けるはずがない、負けは、不正によるもので、それを認めるわけにはいかない」という姿勢をとり続けている。
トランプの経済政策を打ち砕いた新型コロナ
今回の大統領選挙が、ここまで接戦となったのは、新型コロナ感染症によるところが大きい。トランプ大統領は、この1月までは、11月の大統領選では、楽勝するという見通しを立てていた。確かに、もしこの新型コロナ感染症が、発生していなければ、トランプ大統領の2期目は確実だったはずだ。従来から、米国大統領選挙は、その時の経済情勢に左右されてきた。トランプ政権は、2017年12月に「減税および雇用法」を通過させ、連邦法人税を35%から21%に引き下げ、投資税額控除によって、企業の設備投資を活発にする政策をとった。だから、米国経済は、2018年、2019年と企業成績の好調さに支えられ、賃金は、いわゆるトリクルダウン効果で上昇傾向にあったし、失業率は、史上最低、株価は史上最高という、これまでにない成果を上げたことは事実だった。
しかし、この甘い見通しを木っ端みじんに打ち砕いたのが、新型コロナ感染症の拡大とそれに対するトランプ政権の対応だったことは明らかだ。2020年1月末、トランプ大統領は、中国国家主席習近平から、空気感染の今までにない感染力強力な疫病が、中国武漢で発生したことの連絡を受けていた。おそらく、オバマ大統領であったなら、中国と世界保健機関(WHO)と協力し、感染症の撲滅に全力を尽くしたことだろう。
しかし、トランプ大統領の対応は全く異なっていた。「4月になれば、インフルエンザと同じで春の風と共に過ぎ去っていく」として、国家非常事態宣言を出したのは、3月13日のことだった。しかも、その後の対策が場当たり的で、自らマスク着用を拒否、ソーシャルディスタンスもとらず、大統領選挙運動では、マスクなし、ソーシャルディスタンスもとらず、支持者を集会に集めるという非常識な行動を最終版の11月2日まで取り続けた。米国における感染者数と死亡者の急増が、引き起こされているにもかかわらず、「コロナウイルスは、消えつつある」「コロナ撲滅のワクチンがもうすぐできる」「99%のコロナは無害だ」などとするデマを吹き散らしたのだ。だから、民主党大統領候補、ジョー・バイデンは、「新型コロナは、トランプ・ウイルス」だと言い放った。多くの米国民は、トランプ大統領のコロナ対策に否定的評価を与えている。とりわけ、65歳以上の高齢者が、身に危険を感じ、このままトランプ政権を続けさせるわけにはいかないとして、多くがバイデン支持に回ったといわれる。外出すれば、コロナに感染するかもしれないということで、郵便投票が、従来の大統領選挙と比較して、劇的に増加した。相手を口汚く攻撃し、女性関係にもふしだらな、トランプ大統領の実際が、この3年間で次々明らかにされ、多くの女性票が逃げた。トランプ大統領の苦戦は、一言で言えば、新型コロナ感染症を甘く見たことによるといっていいだろう。
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