『緊急時』備蓄米増やすべき 若手稲作生産者座談会~福岡の糸島から2022年2月25日
福岡県JA糸島が事務局の糸島稲作経営研究会の2世代目若手後継者3人に主食米生産目安が110年ぶりに700万t割れになった米政策について、元JA福岡中央会農政部長の高武孝充氏が忌憚(きたん)のない意見を聞いた。
※高武氏の「高」の字は正式には異体字です
林 耕作氏(稲作20・28ha、麦4ha、作業受託4ha)
食糧法鑑み政府対応を
生産目安が2年続けて700万tを割ったなかでの政府の備蓄米買い増し拒否は「衝撃的」だ
高武(司会) 2020年からのコロナ禍で、21年生産目安が700万tを割る693万t、22年は目安675万tが示されました。本日は糸島稲研の若手後継者に集まっていただき忌憚のないご意見を伺います。まず、JA糸島の青年部長の林耕作さんはどう考えますか。
林耕作(35) 福岡県の生産目安は同じでしたが、全体が減少ですから水稲地帯の北陸・東北・北海道は大変だったと思います。理解できないのは生産量目安を達成したのに、価格が15~20%下落したこと。需給調整のみでは米価格は安定しないと言うことですか。
小金丸洋(36) 私もそう考えます。民間在庫適正は200万tとされ、下落は民間過剰在庫の影響でしょう。無理して主食用米を飼料用米等に振り替えたのに、米価が下落したのでは努力が報われません。政府備蓄米は増やせなかったのですか。
高武 政府備蓄米制度は、1993年米騒動の経験をふまえ、制度化され政府備蓄は100万t程度で、10年に1度の大凶作や不作が2年続いた時に対処できる量です。毎年20万t程度買い入れ5年持ち越した後に飼料用等として売却する棚上げ備蓄です。
松崎治久(36歳) 今回のような固定的な運用では、豊作での過剰やコロナ禍の需要減の責任は生産者や在庫保管の民間になりませんか。700万tを割る目安は110年ぶりです。野上浩太郎前農相は「政府備蓄米を買い増して、価格を維持することは食糧法の趣旨に反する」として拒否しました。この事態は前菅義偉政権が掲げた「公助」にならないのですか。
林 食糧法の名称は「主要食糧の需給と価格の安定に関する法律」です。政府は達成に責任を持つべきです。コロナ禍による減少、700万tを割る目安は異常事態と言える年ですから政府の対応は間違っていると思います。2022年産米はコロナ禍による減少として政府は15万t買い増しとしていますが、足りません。22年産米の生産量目安は675万tです。金子原二郎農相は「食糧法の趣旨に反する」として政府備蓄米を増やすのには消極的です。本年の生産量目安達成は相当難しいと考えています。
小金丸 洋氏(稲作30ha、麦46ha、作業受託20ha)
輸入米削減手を付けろ
輸入米の量も減少すべきだ―政治家の本気度が問われる問題
高武 2000年から76・7万t毎年輸入している輸入米問題があります。基準年(86-88年)消費量1065万tの7・2%に該当し、現在の消費量は730万t程度ですから理屈に合いません。小金丸さん、これをどう考えますか。
小金丸 交渉事の難しさはわかりませんが、輸入量を減らすのは常識です。日本国中の水稲生産者が苦労して目安を守ろうとしているのに、必要とされていない輸入米量には納得できません。単純に計算しても20万t以上は減少できます。また、保管料など経費負担で赤字と聞いていますが、特に2014年は輸入米で約400億円の最高の赤字と聞きました。最近はSBS米が10万tに達成しないので一般輸入米で帳尻を合わせていることも報道されています。
そうまでして76・7万t輸入しなければならないのですか。農水省および関係省は輸入米の削減に取り組むべきではないですか。輸入米の始まりはおよそ30年前です。政治家も変わり、輸入量減少を言い張る政治家はいないのですか。政府の責任でもあり政治家の本気度が問われていると思います。
作況指数の基準ふるい目1・7ミリは流通ふるい目と乖離しすぎ―この解消に努めないと米政策は「負のスパイラル」に陥るという危機感を感じる
高武 輸入米減少の議論は聞いたことがないです。輸入機会提供との解釈が普通で、輸入義務としたわが国は異常です。次に、農水省の作況指数基準「ふるい目」問題に入ります。1956年から1・7ミリ粒厚で作況指数を発表しています。作況指数で米価が左右される現実、生産現場はお米を少しでも高く、また消費者においしく食べて頂くために流通「ふるい目」は1・8~1・9ミリとの現実があります。
農水省データでは10a生産量が1・7ミリでは530キロ、1・8ミリでは519キロ、1・85ミリでは509キロです。2021年産米目安693万tを1・8ミリで換算すれば708万tとなります。2022年産目安675万tでは1・8ミリで換算すると690万tが目安になり、1・85ミリでは703万tです。つまり、作付面積が増やせて、昨年のような苦労をしなくても良くなります。この点について、皆さんの意見を伺います。
松崎 治久氏(稲作27ha、麦類47㌶、大豆9ha、作業受託1ha)
ふるい目の基準に矛盾
松崎 私の販売ふるい目は1・85ミリです。理由は、1・7ミリでは売れません。また、消費者にはおいしい米をもっと食べて欲しい。生産量目安が下がると作付面積が減り、政府の米政策に矛盾を感じます。具体的には、田んぼダムと言われているように「農業の多面的機能」は理論的にどう整理するのか。水稲作は連作障害が起こることもないし、多面的機能の根幹です。政府で理論的に整理し検討すべきです。
小金丸 私も同じ意見ですが、水稲共済は1・8ミリの収量基準と聞いています。ふるい目基準は、米の需給見通し、作況指数、生産量目安、流通実態、水稲共済などに影響する問題です。矛盾を感じていますが、農水省はどこまで検討しているのでしょうか。
高武 7年前から検討を始め、様々な面に影響するので私の知る限り、作況指数の基準を、北海道、東北および北陸1・85ミリ、関東・東山、東海、近畿、中国および九州1・80ミリ、四国および沖縄1・75ミリにすると聞いています。最終的には都道府県ごとになるでしょう。
最後に「コロナ禍が及ぼす食料・農業問題」で対談を締めくくりたいと思います。代表して青年部長の林さんお願いします。
コロナ禍は低い食料自給率の危うさ、貧困層の存在を表面化させた
福岡県稲作経営者協議会はフードバンク福岡に米を支援、生命に携わる仕事に誇り
林 コロナ禍はロシアなどの麦不作により輸出規制が起き、低い食料自給率・穀物自給率の危うさ、「食料主権」の重要性、また、貧困層の存在を表面化させました。ポテトチップなどの販売が制限され、今後、食料品の値上がり、人手不足などにも影響を与えています。私たち糸島稲研の県組織、福岡県稲作経営者協議会は、フードバンク福岡に2021年12月3日、35周年を機に米600キロを支援しました。今後は毎年300キロ、5年ごとに600キロを支援することにしています。私たちは生命に携わる仕事を誇りに思います。コロナ禍は、食料安全保障について他国に頼りすぎることなく、わが国で真剣に取り組んでいかないと国民に生命の責任を持てない、そして第1次産業は生命産業だと教えたと思います。(敬称略)
【対談を終えて】
米対策に対する政府不作為へのいらだたしさを感じさせる対談となった。つまり、水田二毛作への並々ならぬ生産意欲と生命(いのち)と直結した仕事への誇りだろう。なお、事務局林幸男氏には対談の準備に多くの労力をかけた。
(高武)
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