【株高をめぐる五つの論点】株主優先より人材育て体質強化を(2)経済ジャーナリスト 浅野純次氏2024年3月18日
株価が好調な動きに見える。バブル期を上回る高値も更新した。そこで経済に詳しい元東洋経済新報社社長で経済ジャーナリストの浅野純次氏に「株高をめぐる五つの論点」として株高の背景について解説してもらった。
【株高をめぐる五つの論点】株主優先より人材育て体質強化を(1) から
消費への刺激重要 米中対立でも恩恵
経済ジャーナリスト
浅野純次氏
<4> マクロ経済と株価
企業活動が株価上昇で活性化することはマクロ経済的に大きなプラスであるが、他方で消費面への刺激も重要である。株価が上昇すると個人投資家は、①株を売って利益を確定し消費活動を活発化する②含み益が大きくなることで気分的に余裕ができ消費志向が強まる、と考えられる。
日本の個人金融資産は総額2121兆円、国民1人あたり1700万円(ただし大金持ちと中流階層、それに蓄えほぼゼロの人たちの平均)へと増え続けているが、預貯金が主で株式・投資信託は15%でしかない。株が50%を超える米国が株高による消費への刺激を受けやすいのと対照的である。そこで政府は新NISA(少額投資非課税制度)を拡充し「貯蓄から投資へ」と旗振りを始めている。同制度は毎月、積み立てる方式なので、株価乱高下への備えとしては確かに有効だろう。
このように株高が景気にプラスなのは当然として、マクロ経済の今後は企業と個人にかかっている。両者が将来に明るい見通しを持ちうることは何より重要であり、株価がそれを反映した動きとなっていくことが望まれる。
<5> これからの株価を考える
今後の株価を占うカギは以下の諸点だろう。①円安が続くか②金融環境はどうなるか③米国景気の堅調が続くか④企業業績の好調が続くか。①②④は関連しあっているが、株価は一進一退が続く可能性が高い。
ただし現在の株高は日米とも半導体関連企業が買われて生じているミニバブルの一面もある。いったん生成AIブームに何らかの異変が起きれば比較的大きな調整がないとは限らない。一気に駆け上がってきた相場だけに小休止があってもおかしくはないが、調整局面には押し目買いが入るだろう。カネ余りという大きな器の中の相場であることを認識したい。
今後の日本株の行方を考える上で重要なことは、「失われた30年」から本当に決別できたのかどうかで、これには肯定論と否定論が存在する。
前者は、日本企業の行動パターンが一変し、積極的に投資する前向きの経営姿勢を取り戻しつつあるという。負け組だった半導体でも台湾のTSMCやIBMの力を借りてとはいえ、熊本や北海道で工場建設に取り掛かろうとしている。米中対立という地政学的な恩恵を日本は享受する局面に差し掛かっているという視点も重要である。
一方、日本企業の経営姿勢はなお物足りないという説も根強くある。株価は現在を映すだけでなく先見するというのは常に正しい。40倍、50倍というPERはその企業が10年後に収益構造が一変して今の利益の何倍も稼いでいることを期待して成り立つ。
東証プライム市場全体のPER16倍はほぼ順当とはいえ、18倍、20倍を目ざすにはまだ多くの課題が残されている。短期的に株主を満足させる「株主資本主義」よりも、賃金など人への投資を優先し、優れた人材の確保と従業員の「挑戦」とイノベーションの好循環を生む経営体質を志向する中で、初めて長期的で力強い株高の可能性が開けてくるのではないか。株価が映す今の日本企業は、株高に即応した経営体質を作り上げうるのか、貴重な分水嶺の地点に来ていると考えられる。
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