【能登半島地震 進まぬ再建】「創造的復興」生活後回し(2)京都橘大学教授 岡田知弘氏2024年5月29日
今年1月1日に石川県輪島市などで最大震度7が観測された能登半島地震。今も多くの瓦礫が残り、水道もままならない場所が散見される。大規模被災のニュースも近年相次ぐように感じる。災害に対する備えは万全なのか、「能登半島地震からの復旧・復興――被災者の生活・生業の再建を進めるために」をテーマに地域経済学の視点から地震災害の現場を調査してきた京都橘大学教授の岡田知弘氏に寄稿してもらった。
【能登半島地震 進まぬ再建】「創造的復興」生活後回し(1)京都橘大学教授 岡田知弘氏 より
中央の思惑 見え隠れ
「復興プラン」への懸念
京都橘大学教授 岡田知弘氏
一方、石川県は、2月1日に復旧・復興本部を設置し、「創造的復興に向けた基本方針」の検討を開始した。6月をめざして、「石川県創造的復興プラン」の策定を、国と「連携」し、関係市町と「調整」しながら進めるとしている。
「創造的復興」は、阪神・淡路大震災や東日本大震災の復興理念に据えられたが、時の政府や自治体トップが進めたい大規模開発事業や先端的プロジェクトに予算や人員の多くを投入し、被災者の生活再建が後回しになってしまう例が多く、東日本大震災では岩手県のように「人間の復興」を優先する復興理念を掲げた自治体が登場した。
2月1日に石川県が示した創造的復興プランの素案の冒頭にある「理念」には、「必ず能登に戻す」という言葉が躍っており、正直、愕然とした。2004年の中越地震の際に、県は「創造的復旧」という言葉を使ったが、これに対して激甚被災地であった旧山古志村では「山古志に帰ろう」をスローガンに、避難した集落、旧村単位での仮設住宅では、連日、地区ごとの復旧・復興計画をつくるワークショップが行われ、3~4年後に7割の住民が帰還した。
この経験から見ると、「必ず能登に戻す」というスローガンは、明らかに県や国のトップの「上から目線」であり、住民主体の理念に修正すべきであろう。
しかも、馳浩石川県知事が真っ先に口にしたのが、奥能登4病院を統合した能登空港病院構想であった。陸上交通が不便で高齢化が進む奥能登において、厚生労働省が推進してきた病院統合論を先取りすることが、果たして合理的な政策なのだろうか。そのほか、プランでは、マイナンバーカードを軸にしたDX対応の強化等、中央省庁の意向を反映した構想案が目立つ。
石川県の復旧・復興本部会議の座席表を見ると、各省庁からの派遣職員が半数を占め、県の部長級幹部のうち少なくとも5人が国から派遣されている職員となっている。これでは、現地からの要望よりも各省庁の施策が優先されかねないといえるであろう。
加えて、発災直後から「復興よりも移住促進」「選択と集中で中心都市に移住を」というキャンペーンがなされ、4月9日の財政制度等審議会の分科会では、今後の復旧・復興にあたっては、コストを念頭におくべきだという提言まで打ち出した。
そこには、被災者の生活再建やそれを支える生業の再生への視点だけでなく、今後予想される首都直下型地震や南海トラフ地震への警戒心がほとんど見られない。当座のコストパフォーマンス論だけである。むしろ、能登半島地震の教訓は、大災害の時代において、水道や電気エネルギー、食品供給を含めて小規模分散型の都市や農山漁村の再形成をどのように行い、そこでの自然と人間の共生のために地方自治体が住民や地元の農家や企業とともにいかに地域内経済循環を太くしていくことなのではないだろうか。
棄民政策を超えて
しかし、すでに被災3カ月で、能登半島地震被災6市町では、2750人の転出があり、例年の4倍弱になっているという。今回、奥能登地方から県外を含む宿泊施設への「二次避難」が推奨され、多くの被災者が地元から離れた。3月には北陸新幹線開通に備えた復興割に対応するため、少なくない被災者が宿泊施設からの移動を強いられた。中には収入を得る必要があり、いまだ仮設住宅もできず水道も回復していない故郷を案じながら、「転出」する道を選んだ人々も多い。
今後の復旧・復興を考えると、山古志村の教訓を生かして、コミュニティー単位での復旧・復興計画をつくり、それをもとに政府や自治体によるなりわい再建支援金制度等様々な補助金を生かす必要がある。中越地震では、農家や中小企業者が活用しやすいように復興基金を柔軟に運用した経験があるし、現に能登の各地で被災者を中心にした再生の動きが生まれつつある。
馳知事は、第2回復旧・復興本部会議の総括発言において、「災害と国防の一体化」ということで自衛隊の輪島駐屯地や能登空港の機能強化を示唆する発言をあえて行っている。その方が予算も取りやすいという発想なのだろうか。いわば棄民政策である。そのような方向ではなく、能登の被災現場を調査し被災者の声を聞き、住民からも要望されているコミュニティー単位の復旧・復興計画を市町が中心となってつくり、何よりも被災者の生活再建、地域社会の復興を最優先し、復興資金の地域内経済循環を高めるような復興方策の実現を強く望みたい。
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