甘味成分の酵母生産に成功 農研機構、大阪大学教授らのグループが解明2020年11月18日
大阪大学大学院工学研究科の村中俊哉教授らの研究グループは、農研機構と千葉大学との共同研究で、植物が産生するトリテルペン配糖体の生合成に関わるグルクロン酸転移酵素を発見。この酵素遺伝子を導入した酵母で、植物の甘味成分グリチルリチンの生産に世界で初めて成功した。
カンゾウ(撮影:理化学研究所の豊岡公徳博士)に含まれる有用サポニンの構造
これまでの研究成果から、漢方薬原料の甘草(カンゾウ)や大豆に含まれるソヤサポニンの機能性成分「トリテルペン配糖体」(サポニン)を含む、多様な植物低分子化合物の配糖体化は、UDP糖依存型配糖体化酵素(UGT)と呼ばれる一群の酵素ファミリーが触媒することが定説となっていたが、トリテルペン骨格に単糖の一種であるグルクロン酸を転移する配糖化酵素については未解明のままだった。
今回、村中教授らの研究グループは、遺伝子共発現解析と呼ばれる機能未知遺伝子の機能予測手法を用いて、UGTとは異なるセルロース合成酵素スーパーファミリーに属するタンパク質が、トリテルペン骨格にグルクロン酸を転移する配糖化酵素であることを明らかにした。
さらに、植物酵素遺伝子を含む7個の植物遺伝子を導入した酵母が、マメ科植物カンゾウの地下部に含まれる主活性成分「グリチルリチン」を生成することを確認。これにより、酵素遺伝子を導入した酵母や、植物培養細胞を用いた有用サポニンの工業生産への応用のほか、メタボリック症候群の予防に役立つ甘味料として注目されるカンゾウの乱獲防止、生態系の保全にも役立つことが期待できるとしている。
11月16日に大阪大学中之島センターで記者発表会が開かれ、その様子をオンラインで配信した。大阪大学大学院工学研究科の村中教授は、栽培されたカンゾウはグリチルリチンの含有量が低く、収穫までに数年を要するため、供給のほとんどを自生のカンゾウに依存しており、国内使用量の全てを海外から輸入していると説明。さらに近年では、主要生産国の中国でカンゾウの採取・輸出を規制する動きが高まっていることから、今後の輸入価格の高騰と安定供給に危機感を募らせた。
また、村中教授は今回の研究成果を用いることで貴重な植物資源を枯渇させずに、酵母や植物組織培養による持続的な有用サポニンの工業生産が期待できることから、これらの課題解決の一助となる可能性を示唆するとともに、さまざまな機能性成分を産生する大豆の品質改良への波及効果にも期待を寄せた。
なお、今回の研究成果は英国科学誌「Nature Communications」に公開されている。
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