【クローズアップ バイデン新大統領始動】通商「先送り」だが要注意2021年1月20日
バイデン米民主党政権が20日(日本時間21日未明)始動する。真っ先に取り組むのは新型コロナウイルス対策だ。米中激突の行方はどうなるか。通商問題は〈小休止〉だろうが、農産物市場拡大の動きがいつ再燃するか分からない。

まず「パリ協定」復帰で転換鮮明に
米国内は「トランプ台風」一過でも、分断と憎悪を招いた「トランプ後遺症」が深く残っている。それでもまずは猛ダッシュの〈ロケットスタート〉と言えるだろう。
就任式からわずか10日間、つまり1月中に米国のこれまでの政策の大転換の姿勢を鮮明にする。地球温暖化防止の国際的な枠組み「パリ協定」復帰、イスラム諸国からの入国制限を破棄する大統領令に相次ぎ署名する。
だが、冷静に考えればこれまでの米国の姿勢に戻っただけだ。まずは背中を向けていた国際社会に対し、再び前を向きルールに沿った競技に入るスタートラインに着いたに過ぎない。
TPP復帰は明言せず
4年前を思い出してほしい。トランプ大統領は就任式のその日に、オバマ民主党政権が旗を振ってきた環太平洋連携協定(TPP)からの離脱を表明した。いわば〈ちゃぶ台返し〉である。その結果、米国抜きのTPP11(イレブン)となり、協定は一時、漂流しかけた。その代わりに、トランプは2国間協議の自由貿易協定(FTA)に舵を切る。2国間なら国力で圧倒する米国が有利との判断からだ。
日米貿易協定はTPPの〈枠内〉に収まり、コメは除外され、乳製品も追加的な自由化から免れた。何とかぎりぎりの交渉結果と言えるだろう。
再び民主党政権となったのだからTPP復帰か。そう指摘する見方もあるが、既に日米協定が存在する以上簡単ではない。さらに労働組合が支持母体である民主党内の事情もある。TPP協定は、競争力のある日本からの輸出攻勢を恐れ自動車など米国内の製造業で警戒心が根強い。そこで、すぐにはバイデン大統領がTPP復帰を言い出せる環境にはないとみた方がいい。
新政権は機能するのか
一言でいってバイデン政権の前途は〈波高し〉。国内にはトランプ後遺症が至る所に残る。トランプは敗北したと言っても現職大統領として7400万票と史上最高の得票を得た。高齢のバイデンは4年後の次期大統領選に出る体力はないだろう。関心が既に〈ポスト・バイデン〉に向かうのは必然だ。
上院、下院とも与党が多数を占めているといっても、特に上院は同数。いつ「ねじれ」で法案が動かなくなるか予断を許さない。しかも与党内の不協和音も高まりかねない。左派、リベラル勢力の不満が政権批判となっていつ表面化しても不思議ではない。
関心は来秋の議会中間選挙
バイデン政権は表面上、民主党のカラーであるブルーウェーブ、青い波は起きたかに見える。大統領、さらには議会上下院すべてで民主党が多数を占めたからだ。だが内実は「トランプ台風」の威力はすさまじく、当初、下院は民主圧勝と見られていたが民主222に対し共和211と差は約10議席に過ぎない。上院にいたっては僅差だったことから年明けに2議席の決選投票で、かろうじて民主50対共和50の同数で民主党議長の1でかろうじて多数を確保したに過ぎない。つまりは〈薄氷の勝利〉と言うのが実態だ。
そこで、関心は既に来年2022年11月の米議会中間選挙に移っている。ここで与党・民主党が勝てば名実共に政権の政策、予算がスムーズに通り、気候変動に対応したグリーンニューディール政策を柱としたバイデン色がくっきりとする。だが、逆に同数の上院でが与野党逆転にでもなれば、議会はいわゆる「ねじれ」となり、政権の運営は行き詰まりかねない。そこで、バイデン大統領は、1年10カ月後の中間選挙までは、多くの国民受けする中立的な政策で終始し思い切ったことができない、との見方が強い。
3月に日米関係どうなるか
さて日米関係の今後はどうなるのか。そして国内農畜産物に影響を与えかねない日米貿易協定見直しの行方はどうか。
まずは菅義偉首相の訪米日程のどうなるのか。当初、2月の早い時期で調整したと見られているが、ずれ込むことが確実だ。日本側は、3月になれば年度内の2020年度予算案の国会審議で時間が割かれ、外遊日程が組みにくくなる。
いずれにしても年度末の3月に一つの〈節目〉を迎える。バイデン大統領による各国首脳が集う気候変動サミット開催の動きがある。同月は日米防衛負担、在日米軍の駐留経費の日本側負担が期限を迎える。米側は日本に負担増を求める意向だ。ここである程度、米新政権の対日姿勢を見える。強硬なのか柔軟なのかは、その後の対日協議、日米通商協定見直しにもつながってくる。
菅政権は3月にもう一つの決断が迫られる。3月25日に今夏の東京五輪の聖火ランナースタートの期限となる。それまでにコロナ禍がどう収まるのか。あるいは感染拡大に歯止めがかからなくなるのか。国際オリンピック委員会(IOC)との最終的な協議もある。
コメ、乳製品市場拡大に警戒
日米貿易協議の再開は、米通商代表部(USTR)代表の議会承認手続きなどの遅れで、初夏以降だろう。ひとまず「小休止」となる見込みだ。ただ、協議時期と議論の中身は全く別問題だ。それはバイデン民主党の選挙地盤との絡みで読み解く必要がある。
トランプ政権はコメ、乳製品にそれほど固執しなかったのは、あまり共和党の選挙地盤ではなかったからだ。逆に言えば、政権交代で与党となった民主党のお膝元にはカリフォルニアなどのコメ地帯、あるいは酪農地帯が含まれる。つまり与党からコメ、乳製品の市場開放圧力が高まりかねない。
米中「新冷戦」続く
米国の政権移行のもたつきを尻目に、中国は次々と手を打ってくる。
中国にとってトランプでもバイデンでもやっかいな相手であることに変わりはないだろう。いずれも中国警戒論を説く。トランプ路線はある意味でわかりやすい。全てが自分の支持者向け、人気取りに行き着く場当たり政策だからだ。
1月20日の就任式を終え民主党バイデン政権に代わればどうなるのか。伝統的な政策展開に回帰するとの見方が強い。表向きは自由と民主主義を掲げ、内実は自国主義の通商政策を仕掛けてくるやり方だ。安全保障面ではより同盟国との協調路線を求めてくる。中国にとって最も嫌うのは民主化要求だ。人権外交を掲げるバイデン民主党はそれを主張していくはずだ。その前にまずは、香港を中国の手中に完全に収める。習政権の最近の強硬路線はその表れだ。
通商代表は初のアジア系女性
バイデン政権で閣僚がどうなるかは重要だ。特に外相にあたる国務長官と、通商交渉を担当するUSTR(米通商代表部)代表がどうなるのか。トランプ政権のライトハイザーUSTR代表は、かつての日米経済摩擦激化の時の鉄鋼輸入制限交渉などでタフ・ネゴシエーター(手ごわい交渉相手)としてならした。日米交渉でも強硬姿勢を懸念する声があったが、結果は何とかTPP11の合意内容の範囲内に収まった。特に日本政府が憂慮したコメについては一定の配慮がなされた。ライトハイザーは最後まで乳製品の一層の市場開放にこだわったが、最終的にはトランプの判断で見送った。トランプ政権での通商交渉は、対中攻撃に全力を挙げ、他の交渉にまでそれほど手が回らなかったという側面も強い。
新たにUSTR代表に指名されたのはキャサリン・タイ。上院で承認されれば初のアジア系女性の通商代表となる。両親は中国本土で生まれ、台湾で育つ。通商弁護士で国際法務のプロだ。直前まで下院歳入委員会の首席貿易顧問を務め、北米自由貿易協定(NAFTA)改定に手腕を発揮した。宣誓では「米国人労働者を守り、米国の利益のために働くことを誇りに思う」と強調した。民主党らしい保護主義を貫く姿勢を感じる。
「キャサリン台風」上陸か
彼女の名前で、失礼ながら戦後間もない1947年の「キャサリン台風」(カスリン台風)が浮かんだ。9月に日本に接近した超大型台風で多量の降雨をもたらした雨台風だった。関東、東北の甚大な被害をもたらし、1000人以上が亡くなった。むろん、河川決壊に伴う洪水で出来秋の水田地帯をのみ込んだ。同じ名前を持つUSTR代表は、日本にどんな交渉姿勢を取るのか。女性版タフ・ネゴシエーターであることは間違いない。
バイデンは甘くない
バイデンは人柄の良さからアンクル・ジョーと呼ばれる。「ジョーおじさん」は間もなく78歳と最高齢の米大統領誕生だ。激務の大統領職で体力は持つのか。コロナ感染リスク大丈夫なのか。そして、あの温厚な笑顔の裏には何が隠されているのか見極める必要がある。
上院議員を長年務め、オバマの下で8年間も副大統領をこなした。したたかな政治のプロだ。同盟関係を重視ながらも、やはり米国の利害を第一義的に思い行動するに違いない。「バイデンは甘くない」と見ていい。
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