「にぎやかな農村」100年先へ 雪深い中山間地、移住者夫妻の想い 有機農業映画祭「野良語り」から2026年3月11日
冬は雪が3m積もる中山間地。米を作り、子どもが育てられるのも「村」あってこそ。にぎやかな農村をどう作るか。国際有機農業映画祭での移住者夫妻の語りは、地域政策を忘れかけた農政への問いかけでもあった。

「野良語り」で農村の価値を語る鴫谷玉実さん(中央)
と幸彦さん(左から2人目)。
右は進行の木曽大原さん、左端は大野和興さん=3月8日、東京都内
熊本で地域循環型畜産を営む親子を描いた「村で生きる」など上映
3月8日、東京都内で開かれた国際有機農業映画祭2026では「ウナイ 透明な闇PFAS汚染に立ち向かう」(平良いずみ監督)、「令和の百姓一揆記録編」(堀切さとみ監督)、「村で生きる」(小林瞬・中村朱里監督)、「田んぼに還る」(松井至監督)が上映された。新潟県上越市でたましぎ農園を営む鴫谷幸彦・玉実夫妻を招いて、「村ありてコメあり」をテーマに「野良語り」(トーク)も行われた。180人が参加した。
「村は〝爆撃〟されている」
「野良語り」の進行は埼玉県さいたま市の農家・木曽大原さん(国際有機農業映画祭運営委員)。始めに同じく運営委員の大野和興さん(農業ジャーナリスト)が、「なぜ今さら『村』なのか」と切り出し、「村こそが、農と食のせめぎ合いの最前線だ。村は〝爆撃〟され滅ぼされようとしている。AI、植物工場、大規模化で対抗する動きもあるが、それでは人も村もいらなくなる。農が村を作り、村が農を作る」と趣旨を説明した。
鴫谷さん夫妻が娘の柚希さん、野詩(のうた)さんと暮すのは上越市吉川区川谷地区。4集落に22軒、約45人が暮す。標高200mほどの地に棚田が連なり、県内でも有数の豪雪地帯だ。春の楽しみは山菜取り、夏は清水がコンコンと湧く源流を散策し、無農薬米は天日干しする(他に減農薬米も作っている)。冬は3~4mの雪が積もるが、雪のおかげで水が豊富だ。
ワクワクする方に人生賭けて
幸彦さんはスライドを見せながら川谷地区を紹介し、トークに入った。15年前、東日本大震災の時は出版社に勤めていた。自分が本当にしたいことは何だろう。そんな時、有機農業の先駆者・天明伸浩さんの本に惹かれ、会いに行った。通ううちに気持ちが固まり、2年間の研修を経て独立した(その経過や鴫谷さんの米価格の決め方は『いま知りたいお米と農家の話』農文協に詳しい)。70aから始めた田んぼは2.2haになった。
山登りが好きな玉実さんは、ゴールデンウィークにブナを見に信越トレイルに行こうと思ったら、大雪で行けなかった。その時、「田に引く水を通すためボランティアに来ませんか」という募集を目にし、トレイルに近いこともあって村を訪ねた。
美しい景色の虜になり通ううち、「ワクワクする方に人生賭けてみよう」と移住を決めた。行ってみると「一般的な(会社の)仕事」がある場所からは遠く離れ、プランター栽培くらいしか経験はなかったが農業をすることに。「はっきり言えばなりゆきです」と笑う。
にぎやかな農村、作る試み
村での暮らしについて幸彦さんは「〝爆撃〟という大野さんの言い方はわかる。能登地震後の復興に対する国の姿勢をみれば、手と金がかかって不経済なところに住む人はいなくなった方が効率的な世の中になる。口に出さなくても(為政者の)態度に出ている。新潟は米がありまだ踏ん張っているが、一見美しい農村でも、いろいろ崩れてきたことを住民は感じている」と課題にふれた。
上越市には200haを超える大規模経営もあり、若い人が街から通ってビジネス的な農業が行われているが、そこに集落機能はない。「農家が農業できるのは、農村があり暮らしがあるから」と幸彦さんは強調した。川谷地区では、移住者も呼び込みながら「にぎやかな村」作りに取り組んでいる。「農家がいて、農村がある。みんなで農地をシェアしながら暮していく。その結果としてできるのがにぎやかな農村だろう」。100年後、100人の村を作りたい。
34年ぶりの赤ちゃん、農村の教育力
夫妻の長女、柚希さんは集落にとって「34年ぶりの赤ちゃん」だった。近所の人たちは何かにつけて覗きに来て、おいしいものを持ってきてくれた。この春から、柚希さんに続いて野詩さんも、バスを乗り継いで小学校に通うことになる。
玉実さんは「農村には教育力がある。農産物加工場に子どもを連れて行き、桶洗いを手伝ってもらうと、おばあちゃんが『子どもの方が腰が入ってよく洗えとる』とほめてくれ、コツも教えてくれる。稲刈りでもそう。どんどん経験を得て、周りの大人や環境から学んでいる彼らがどう成長していくか、私たち自身が楽しみ」と話した。
幸彦さんは「今後は学費もかかるし、高校も減っていて大変だ。だが、フロントランナーの天明さんや村の先輩方の生き方を見ている限り大丈夫だなと思える。うちの場合は味噌や漬物の加工も含め所得は400万円ほどだが、工夫次第で年50万円くらいの仕事もいくつか作れる」と補足。「ここで暮した方がいい教育になる。地域でも小中学校の合併が問題になっているが、集約するなら都市部ではなく山間部にした方がいいんじゃないか」と語った。
米価でも生産性でも測れない価値
幸彦さんは「村に人がたくさんいて山や田に行っていると、『危ない』『崩れ始めた』とたくさんの目でわかり、防災機能が高まる」。玉実さんは「山には熊がいるが昨秋は気配も感じなかった。村に人が住み里山にも行くことが獣害対策にもなっていると実感する」とも話した。
木曽さんは、都市近郊で農業をする立場から「その地域に人々がいて役割があって村が成り立っていくと、お二人の話や先ほどの映画(熊本県産山村で赤牛を放牧で育てる親子を描いた「村で生きる」)から感じた」と語った。
農政には産業政策と地域政策とがあるが、「稼げる農業」のスローガンの下、現在は前者に偏重している。だが、中山間地での米作りと集落、村の暮らしは不可分だ。米価や生産性の指標だけでは測れない「村」の価値。夫妻の言葉は、食と農を守ろうとする努力の先を照らす一筋の光のようだった。
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