農政 シリーズ詳細

シリーズ:時論的随想 ―21世紀の農政にもの申す

【梶井 功 / 東京農工大学名誉教授】

2013.12.06 
(79)飼料米への作付転作は期待できるか一覧へ

・新自由主義的提言
・流通での投資も必要
・07参院選大敗の経験から

 "生産数量目標に従ってコメを生産する農家に10aあたり1万5000円が支払われている現行の直接交付金については、農業の担い手の経営努力や経済合理性に基づく判断を大きく阻害する効果を有するものとなっていることを鑑み、来年度から廃止する"とか、"農業経営者の生産性向上と高付加価値化・製品差別化等に向けた経営努力を促し、農業の産業としての競争力を強化する観点から、生産調整を中期的に廃止していく方針を明確化する。

◆新自由主義的提言

 このため、農地の中間管理機構の農地集約化…を踏まえ…平成28年度には生産数量目標の配分を廃止し、生産調整を行わないこととする。なお…仮に過剰米が生じるような場合があっても、政府が市場に直接介入することはあってはならない。”とする産業競争力会議農業分化会のまさしく新自由主義といっていい提言(10・24)などを受けて始まった米政策の転換論議は、1カ月の集中的討議の末、11・26の農林水産業・地域の活力創造本部の会議で“米政策の見直しの全体像”として集約された。米の直接支払交付金は14年産から半減させ18年度には廃止する、飼料米に優遇措置を講じ主食用米からの作付転換を促す、が主な内容だが、変化する交付金等の金額も含め、予定されている政策内容はすでに11・30付本紙で詳細が紹介されているので、本紙読者はすでにご承知のところだろう。飼料米問題と、“平成28年度には生産数量目標の配分を廃止し、生産調整を行わないこととする”がどうなるかについてだけ、ふれておきたい。

◆流通での投資も必要

 飼料米を重視すべきことを、実を言うと私は水田利用再編政策を論じた03年の時点から主張していた。旧稿からの引用(拙著03年刊『WTO時代の食料・農業問題』230ページ)をお許しいただきたい。

 “(水田利用再編政策で)主食用水稲以外の作付として重視しているのは麦、大豆、飼料作物だが、飼料作物を必要とする畜産農家が今日畜産に特化し、点在化している現状、そして飼料作物の流通が容易ではないことから考えると飼料作物…を重点作物に位置付けるには疑問がある。…畜産農家との利用協定が有効に機能出来る場合を除いては力点をおかないほうがよいのではないか。飼料作物ではなく飼料用水稲(実取り)を本格的に検討すべきである。中国では需要の落ちた早期インディカF1米が飼料として流通している。…1500万トンに達する飼料穀物輸入を拱手傍観することはない。強湿田等の飼料米生産を認めることが生産調整下で発生する過剰米の飼料化受け入れも容易にするであろう。”

 10a当たり最高10万5000円最低5万5000円平均8万円という数量払い助成によって、飼料米10a当たりの所得は5万5000円になるイメージだと農水省は試算している。新政策以降後の主食米の10a当たり所得イメージが3万2500円なのに、である。飼料米作付転換が進むことを期待したい。
 もちろん飼料米生産を拡大・流通させるには、畜産農家が飼料米需要を拡大することが大前提であり、そのためには給餌技術の確立・普及が必要だし、流通施設も主食用米とは別の施設を必要としよう、というように、飼料米生産拡大には、生産段階とならんで流通段階でも投資を必要とする。政府助成はそのへんにも目配りが必要なことを指摘しておきたい。

◆07参院選大敗の経験から

 生産調整を継続するのかどうかについて、決定された“米政策の見直し”の項では“きめ細かい需給・価格情報…等の環境整備を進める。…こうした中で、定着状況を見ながら、5年後を目途に、行政による生産数量目標の配分に頼らずとも、国が策定する需給見通しなどを踏まえつつ生産者・集荷業者・団体が中心となって円滑に需要に応じた生産が行える状況になるよう、行政・生産者団体・現場が一体となって取り組む”と書かれている。“生産数量目標の配分を廃止し、生産調整を行わないこととする”というのとちがうのかどうか、極めて曖昧だが、自民党プロジェクトチームの座長として原案作成にあたった宮腰光寛衆院議員は、日本農業新聞のインタビューで、“今回の農業政策に対し、環太平洋連携協定(TPP)をにらみ、生産調整を廃止して米価を下げるのではないかという指摘もあります”という質問に応えて、“全くの間違い…TPPと無関係なのは明らかだ。新たな米政策で、米価下落を誘因することは全く考えていない。生産調整の廃止ではなく、(手法の)見直しだ”と応えている(12・2付日本農業新聞)。
 宮腰議員の発言は、自民党農林族の考えなのであろう。07年参院選大敗の教訓を踏まえての自民党農林族主導の米政策改革が、“農業者・農業者団体の主体的な需給システム”だった生産調整を食料自給率向上のための行政主導生産調整に一変させたことだった。その“生産調整堅持”を09年衆院選公約にしようとした農林族の主張が当時の石破農水相に阻まれ、公約とならず、ために09年衆院選で大敗したのだった。宮腰議員の発言はその痛い経験を踏まえてなのであろう。宮腰発言のようになることを私も期待したいが、そうなるのだろうか。

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