農政:時論的随想 ―21世紀の農政にもの申す
(114)未来への投資 農地売り渡し?2017年4月23日
◆原点は農地確保では?
09年6月に改正された現行農地法は、農地制度の基本を「所有」から「利用」に移し、貸借による一般企業の農業参入を可能にした大改正だったが、同時に農地の転用規制を厳しくした改正でもあった。いや"でもあった"という見方は、当時の立法者の考えを正確に伝える見方ではない。
改正案を審議した09年4月9日の衆議院農林水産委員会で自民党の小里委員の質問に対し、石破農水大臣はこう答えている。
「"これは農地法の体系ができまして以来、最大の改正だというふうに私は理解しております。農地を確保し、最大限に活用したいということであります。(中略)。
具体的には、一つは農地転用規制を厳格化するということでございます。優良な農地が無秩序に転用されるということは防がねばなりません。罰則を引き上げます"
(衆議院農水委議事録第八号 09年4月9日)」
"具体的には"として大臣が二番目にあげたのが"一定の要件のもと、貸借に係る規制を見直し"て"意欲ある者が農地を借りやすくする"ことであり、三番目にあげたのが"分散錯圃と申しますか、分散した農地、これを面的にまとめてい"くために"新たな仕組みをつくる"ということだった。第一に"転用規制を厳格化する"ことがあげられていたのだった。
が、昨今の農水省の対応を見ていると、どうも"農地を確保"すること、"農地転用規制を厳格化する"ことには、余り熱心ではなくなった感がする。こんな対応でいいのか、と考え込んでいるのは、経産省提案の「地域未来投資促進法案」に対する農水省の対応をみてである。
◆形骸化する農地法制
日本農業新聞の報道によると、同法案は
「"精密機械や情報通信技術(ICT)といった成長産業の地方進出を促すため、優遇や金融支援、規制緩和を行う。」
ものだそうだ。"成長産業"を"地方"で展開させようという経産省の政策は、地域振興を経産省も考えているという意味で歓迎に値する政策ではある。
が、問題は、その促進のために、経産省所管にかかわる"金融支援、規制緩和を行う"のはいいとして、明らかに農水省所管事項であるところの"企業用地に農地を転用する場合は、転用許可をしやすくするよう配慮する規定を盛り込んだ"ことである。もちろん農水省とも相談の上のことなのであろう。"これを受けて、農水省は農地法に関する政令を改正し、第1種農地(10ha以上のまとまった農地)の転用が行えるようにする方針だ"と日本農業新聞は報じている。
10ha以上のまとまった農地を第1種農地とすることは、09年改正農地法が転用規制強化の目玉施策として行なった施策である(農地法施行令第十一条及び第十九条)。それを転用できるようにするというのである。"安易な第1種農地の転用を防ぐため、特別な事情がない限り、企業用地としては農地以外を活用するよう市町村に求める基本方針を定める。企業を受け入れる市町村は、基本方針を踏まえて、企業を受け入れる地域で農地や宅地、企業用地の「土地利用調整計画」を作る。市町村が第1種農地の開発が必要だと判断した場合には、都道府県が同意することを転用の条件にする"のだそうだ。「土地利用調整計画」が適正かどうか、審査はどこがするのだろう。都道府県がやるのだろうか。だが、企業誘致に賛成の県も多いことだろうから第1種農地開発容認になってしまうのではないか。
◆本音は企業用地か?
農水省も今国会に農村への企業誘致を支援する農村地域工業等導入促進法改正案を提出している。これまでは"工業、道路貨物運送業、倉庫業、こん包及び卸売業の5業種に限られていたのを全業種に拡大し、"名称も「農村地域への産業の導入の促進に関する法律(仮称)に改める"(2・5付日本農業新聞)そうだ。
"誘致企業の工場や事業所を整備する企業用地として、法案には市町村による農地転用を認める規定を盛り込む"(4・6付日本農業新聞)という。5業種から全業種に対象企業が拡大したことで、当然、用地需要が拡大し、農地転用を求める参入企業も出てくると考えられる。農水省は4月5日の民進党農林水産部内会議で"転用を抑えるための歯止め策を示した"が、それは"企業を受け入れる市町村に対し、企業用地は特別な事情がない限り、農地以外の土地や既存の農工団地(企業団地)の活用を求める基本方針を作成するのが柱。市町村はこれに沿って企業誘致の計画をまとめるため、同省は「農地転用の促進にはつながらない」(農村振興局)としている"そうだ。
"市町村による農地転用を認める規定を盛り込む"のは経産省提出法案と同じだし、「基本方針」が転用を抑える効果を持つとしている弁解も同じである。農政当局には"農地を確保"する信念が無くなった、と感ずるのは小生だけだろうか。石破元農水相にお聞きしたいところだ。
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