農政:欧米の農政転換と農民運動
【欧米の農政転換と農民運動】抗議活動と農民団体・EU農政 農政改革議論なお途上(2)駒澤大学名誉教授 溝手芳計氏2024年6月7日
欧米の農業事情に詳しい駒澤大学名誉教授の溝手芳計氏に欧州農民の抗議活動と農民団体、EU農政事情を寄稿してもらった。今回は「欧州ビア・カンペシーナの運動に注目する」としている。
【欧米の農政転換と農民運動】抗議活動と農民団体・EU農政 農政改革議論なお途上(1)から
適切な価格形成を重視
駒澤大学名誉教授
溝手芳計氏
Copa―Cogecaは何を求めているのか
Copa―Cogecaのプレス・リリースを見ると、この団体は、環境に優しい農業への切り替えを提起してきた欧州委員会の方針を真っ向から否定しないものの、具体的要求としては、環境重視の農政にブレーキをかけようとしている。そのことは、①CAP支払いのコンディショナリティの環境要件について、要件の緩和を無条件で歓迎する一方、小規模農民の義務免除は改善だとしつつも、農民間の不平等扱いとして懸念を表明していること、②農薬メーカー等と並んで、農薬削減計画の採択に反対したこと、③新型遺伝子技術の推進を要望していることなどに示されている。
貿易政策では、ウクライナからの穀物輸入優遇に歯止めをかけるよう要求を繰り返しながら、メルコスールとのFTAについては、「現状のままの」協定締結に反対するという、微妙な対応をとっている。また、熱心な輸入規制要求の裏腹で、EUからの農産物輸出に対する支援を求めており、輸出指向型農業も追求しているようである。不公正取引慣行是正への取り組みを要求しているが、具体的な提案を示していないようである。
欧州ビア・カンペシーナは何を求めているか
これに対して、ECVCの取り組みは明瞭である。
ECVCが主導した2月26日のブリュッセルでの抗議活動における要求項目がそのことを示す(下記では、順番を入れ替えている)。
▽アグロエコロジーと持続可能な農法への移行を促進するように、十分な予算とCAP援助支払いの公平な配分を求める。
▽農民の管理・手続き負担の軽減を図れ。
▽GMOや新しいゲノム技術の規制緩和をやめよ。
▽EU・メルコスール協定交渉の最終的打ち切りを始めとして、自由貿易協定と不公正な競争をなくせ。
▽スペインのフードチェーン法を模範に、不公正な取引慣行に関する指令を強化し、生産コスト以下での買い取りを禁止せよ。
2点補足しておく。
第1に、ECVCの考える欧州農業の将来像は、個別の要求の寄せ集めではない。いくつかの国で抗議活動の動機に挙げられる異常渇水や洪水といった自然災害は、地球温暖化にともなう異常気象の表れであり、また、化学物資を多投し、遺伝子技術を安易に利用する工業的農業生産の推進は、資材産業の利益にこそなれ、農民は農薬使用時の健康リスクにさらされ、持続可能な生産環境破壊というしっぺ返しを受ける恐れがあるという認識に立っている。
世界中が持続可能な環境に優しい農業に移行していくためには、各国が目先の市場確保に目を奪われることなく、環境に配慮した生産に取り組めるような食料主権論に基づく国際的な貿易秩序づくりが必要となる。
さらに、環境保護型農業の推進は、土地条件や施設、設備の整備、きめ細かな作付け・肥培管理などの追加的労力投入といったコスト上昇を引き起こすが、これに対応する適切な価格転嫁を実現できるかどうかは、食料主権論を踏まえた域内市場の適切な保護、および農産物販売市場での公正な取引慣行確立を通じた適切な価格形成が不可欠となる。
第2に、ここで取り上げられたスペインのフードチェーン法は、不公正な取引慣行に関する指令の加盟国レベルでの取り組みのなかで最も効果を上げているものである。そこでは、①農産物買取業者は、生産者の適切な所得分を含む生産コスト以下で買い上げてはならない、②不公正な取り扱いを受けた農業生産者は監督機関に通報でき、③監督機関は、違反の事実があれば、是正を命じるとともに、違反者に相当額の罰金を課することになっている。ECVCはこれをEU全域に広げようとしている。
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