農政 特集詳細

特集:自給率38% どうするのか?この国のかたち -食料安全保障と農業協同組合の役割

2018.10.21 
【対談】韓国農協「農の価値」国民にアピール(1)一覧へ

<出席者>
キム・ビョンウォン 韓国農協中央会会長
山田正彦 元農林水産大臣
司会:ミン・スンキュ 農林畜産食品部元副大臣

 韓国農協中央会は昨年来、「農業の公益価値」を国民にアピールする1000万人署名を成功させるなど内外の関心を集めている。日本の農業・農協の視察で来日した立役者の韓国農協中央会のキム・ビョンウォン会長にその取り組みを聞いた。同会長は、日本の種子行政の調査で来日したものだが、「日本の種子(たね)を守る会」設立発起人である元農水大臣の山田正彦氏の協力を得て、韓国農林畜産食品部の元副大臣を加え、農業・食料の価値、および農協の取り組むべき課題等について意見交換してもらった。(文中敬称略)

憲法明記へ1千万人署名

 

◆小規模経営が理想

徹夜討論で意思統一。スクリーンの文字は「農家経営費を削減してあげることはできないか?」。 (キム会長=中央=自らエプロン掛けで討論をリード)。(写真)徹夜討論で意思統一。
スクリーンの文字は「農家経営費を削減してあげることはできないか?」。
(キム会長=中央=自らエプロン掛けで討論をリード)。

 

 山田 私は長崎県五島列島の生まれで、若いころ数百頭規模の牛や豚を飼育し、肉屋や牛丼屋なども経営しましたが、大きな借金をつくりました。いわば大規模経営の犠牲者です。その経験から、アメリカ型の大規模経営は間違いで、農業は小規模家族経営であるべきだと思っています。このことは農水大臣に就任したときも所信表明で述べました。
 農業は工業生産とは違います。ヨーロッパでも家族経営が改めて見直されているなかで、日本は企業型の大規模経営を進めようとしているようです。EUの先進国では農家所得の8割が所得補償です。アメリカでもおよそ4割を所得補償しています。

 ミン 私たちは今回、千葉県の農家を訪ねました。そこで、印象的な話を聞きました。「日本は先進国なのに、なぜ食料自給率が38%と低いのか、非常に恥ずかしい。国による農家への直接支払いがなぜないのか」ということでした。
 この対談では、韓国と日本で共通する問題として、(1)食料自給率・輸入自由化・対米FTA(自由貿易協定)の問題、(2)食料の安全保障をどうするか、(3)主要作物の種子の扱い、(4)協同組合の役割、(5)憲法に農業の価値を明記する運動の5つのテーマを取り上げたいと思います。

キム・ビョンウォン 韓国農協中央会会長 キム 韓国は現在54か国とFTAを締結しており、貿易自由化が日本より進んでいます。これが農家所得に非常に大きな悪影響を与えております。その影響について、三つの側面から言えます。一つは畜産です。畜産は農林畜産業の40%近くを占めますが、牛肉や豚肉の輸入が増え、畜産業全体が萎縮しています。次に果物ですが、バナナ、パイナップル、チェリーの輸入が増え、国産のリンゴ、マクワウリなどの価格が暴落しています。限られた市場に輸入物が増え、農業者の所得減少が避けられない状態になっています。政府はFTAの事前対策を取るのでもなく、事後対策はとっていますが十分でなく、農家を苦しめています。

(写真)キム・ビョンウォン韓国農協中央会会長

 

 

 山田 我々はTPP(還太平洋連携協定)に反対してきました。いままたアメリカは日本に対して、韓国とのFTA以上の自由化を求めています。我々はアメリカとFTAを結んだ韓国の状況を調べました。このままアメリカのペースで交渉を進めると、確実に日本の食料自給率はさらに下がり、韓国と同じように農業は大変なことになるでしょう。
 自動車はトヨタ一社だけで約24兆円の売り上げがあり、農業生産額は全部で約8兆円です。政府は農業を犠牲にしてでも自動車の関税を守ろうとするでしょう。TPP交渉当時、我々の試算によるとTPPを締結した場合、食料自給率は14~16%にまで落ち込むという結果が出ました。TPP11締結で、さらに関税率が下がっていくので、この上に日米FTAが加わると、さらに自給率が下がるのは確実です。

 

◆孫の世代まで責任

 ミン 農業への被害は明らかです。日本では反対の声がないのですか。

 山田 政府の対策を信じるという雰囲気です。自分の時代だけは何とかしのごうということでしょうか。しかし、我々は子ども、孫の時代まで食料と農業のことを考え、責任を持たなければなりません。

 キム 韓国にとって南北統一も重要事項ですが、食料自給も大きな問題です。現在、米は十分自給できており、問題ありません。さらに需要を増やすため、米粉にして消費拡大にも努めています。しかし、同じ穀物でも小麦や豆類は1%程度の自給率です。
 転作による麦は政府の補助がないので、契約栽培で農協が小麦の生産者団体に委託し、作ってもらっています。それで面積が3倍ほどになりました。こうした支援によって、米以外の穀物自給率を2022年には60%にまで高めたいと考えています。

 

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