農政:緊急特集・衝撃 コロナショック どうするのか この国のかたち
藤井聡 京都大学教授 分散型国土確立しパンデミックと戦う【衝撃 コロナショック どうするのか この国のかたち】(下)2020年5月18日
地方投資で一極集中脱し強靭性向上
◆あらゆる手法使い実態明らかに
例えば、今日時点でコロナ感染死が約30万人と報告されているが、新型コロナの流行がなくてもそれ以外の通常の風邪やインフルエンザが契機で肺炎になり、命を失う方も毎年残念ながらおびただしい数に上る以上、今年だけが(スペイン風邪流行時のように)急激に死者数が増加していたとならない可能性が、現時点においても考えられるのである。
日本に限定して考えても、毎年肺炎で亡くなる方が9万~10万人程度おられ、毎年1万~2万人程度は増えたり減ったりしている。そういうスケール感で考えるなら、5月時点でのコロナ感染死者数700人強という数字は、小さな誤差程度の水準に収まっていると解釈することもできる。一人一人の人命はかけがえのないものであるが、コロナ以外の理由で肺炎になって亡くなる方の命もまた貴重であることは間違いないのである。従って「コロナだけ」を見るのではなく、「肺炎」や「全ての感染病」を見据えたマクロな現状認識が必要なのである。
以上を踏まえると、日本も世界も一昔前なら何もパニックに陥ることもなかった季節性インフルエンザ程度の弱毒性ウイルスに対して「過剰反応」してしまい、「ロックダウンだ、8割自粛だ」と言って経済を激しく傷付けてしまった可能性も十分考えられるのである。もしそうであったとすれば、これは世界中が愚か極まりない判断をしてしまったということになるのであり、言うまでもなく由々しき事態と言わなければならない。
では実態はどうだったのか。一般的な疫学的分析手法を使い、今年の肺炎死者数や病死者数全般が統計的有意にコロナによって「増加」しているのか否か速やかに明らかにしていく必要がある。
◆極めて脆弱な首都一極集中国家
以上が、世界や日本における最も本質的な今回のコロナに対する「脆弱性」であるが、日本はそれ以上に激しい脆弱性があることが明らかになった。それは、「東京一極集中」という国土構造だ。
5月17日現在日本の感染者数は約1万6310人。そのうち首都圏(東京・千葉・埼玉・神奈川4都県)の感染者数は8184人であり、実に全体の50.1%を占めている。そして、京阪神都市圏(京都・大阪・兵庫3府県)の感染者数は2827人。割合にして17.3%である。従って、首都圏と京阪神圏あるいは東京圏と大阪圏だけで合計67.5%と、全体の約7割の感染者を占めている。
そして、これらの東京圏・大阪圏の計7都府県は、他県に先駆けて一早く感染が拡大し緊急事態が宣言され、経済が麻痺状態となったのである。かつ、その収束も最も遅く解除も他県より遅いタイミングとなっている。つまり、東京圏・大阪圏の緊急事態は(北海道を除く)どこよりも長く宣言され続けているのであり、その結果経済麻痺が最も長く継続することになったのである。
以上の状況は、一極集中構造がいかにパンデミックに脆弱であるかを示している。
第一に、「過密」な大都会こそがパンデミックに対し極めて脆弱であることを示している。多数の人々が訪れ、かつ人々が高密度に互いに交流しあうため、都市規模が拡大すれば感染機会も指数関数的に拡大するからである。いわば、大都会そのものが「三密」空間と化しているわけである。
第二に、日本経済の大きな部分を過密都市である東京圏と大阪圏の二つの経済機能がどこよりも長く麻痺するということは、日本経済の主要エンジンが二つ使用不能になることを意味している。結果、日本経済全体へのマクロな被害が飛躍的に拡大することを意味する。
すなわち、日本のような一極集中構造である国土の国家は、分散型の国家に比してパンデミックによって効果的に経済全体が大きく疲弊する結果となるのである。
◆地方投資でパンデミックと戦う
以上の議論は、一極集中構造は地震、津波、洪水、高潮に対してのみでなくパンデミックに対しても脆弱な国土構造だったことを示している。
これからの日本は、コロナ感染症と戦いながらそれに伴うコロナ大恐慌とも戦い、勝利しなければ明るい未来を手に入れることができない。それを踏まえたとき、地方の産業を活性化し都市部から地方に経済や人口の大移動を促す様々な地方投資、例えば新幹線、高速道路、港湾、さらに農地改良や農業関連施設などへの大規模投資が今こそ求められていることを意味している。
それを行えば、第一にパンデミックに対する「強靱性(レジリエンス)」の向上を促すことができる。第二に、大恐慌によって圧倒的に不足している需要不足を埋めることを通し、国民所得の下落や日本経済の凋落を食い止めることに貢献できる。第三に、パンデミック期には大都市部でなく地方部において感染リスクが低いため、日本全体の経済をけん引するにあたって地方都市が重要となるため、地方部で投資を行うことで事業推進に際し危惧される感染症拡大リスクを軽減させながら、マクロ経済対策がより容易となる。第四に、分散化を促す事を通してその他の自然災害に対する強靱性を高めることにもつながる。
我が国政府には、これから本格化する第二次補正予算、さらに第三次補正予算において以上のパンデミックに対する強靱化を見据えた「地方投資」を、主要な柱に据えることを強く要望したい。
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