森林の遮断蒸発 激しい雨の時より多くの雨水を蒸発 森林総合研究所2024年11月22日
森林総合研究所の村上茂樹研究専門員は、森林に降った雨水の一部が蒸発する遮断蒸発と呼ばれる現象が、激しい雨のときにより盛んになり、蒸発する雨水の割合がより大きくなることを明らかにした。これにより、激しい雨の際に森林内の地面に達する雨水の割合が減少するため、その分だけ洪水発生時の河川流量が減る可能性がある。
これまでの研究で、遮断蒸発は雨の強さに比例して多くなることが知られていた。同研究ではスギ林で精密な測定を行って、1時間当たり20mm以上の激しい雨のときにはその比例の度合いが大きくなることを新たに発見。これは激しい雨のときに雨滴が枝や葉に衝突してできる飛沫が特に多くなり、飛沫の蒸発が増えるためと考えられる。
図1:林外雨と林内雨の測定。林外雨から林内雨を引き算したものが遮断蒸発。林内雨は、樋で集めた雨水と幹を伝って流れ下る雨水からなる
同研究では、森林総合研究所九州支所の構内にあるスギ林で、森林内の地面に到達する雨水を測定(図1)。測定は、同じ時期に植栽された2種類のスギ林において植栽後7年目と8年目に同時に行った。山でスギやヒノキを植栽するときは、通常、1ヘクタール(100m四方)当たり2500~3000本の苗木を植えるが、測定対象としたスギ林は1ヘクタール当たり5700本(面積184m2)、及び9700本(113m2)が生育しており、かなり密な林となる。
森林内の雨は枝と葉の影響で不均一に降るため、均一になるように、長さ4m、幅23cmの長い樋(とい)2本で集め、さらに幹を伝って流れ下る雨水も4本の幹から集め、この2種類の雨水を足し合わせたものを林内雨とし、スギ林の近くの開けた場所では、森林の外に降る雨も測定した。

図2(a)林外雨と幹を流れ下る雨水、樋で集めた雨水との関係。(b)林外雨と遮断蒸発の関係
大雨のときの1時間ごとの林外雨(すなわち雨の強さ)と、1時間ごとの幹を流れ下る雨水の関係をグラフにすると、右上がりの直線になる(図2a)。また、雨の強さが増加して1時間当たり約20mmを超えると、雨が強すぎるために枝や幹が雨水を流しきれなくなることに加え、強い雨にともなう大粒の雨滴が枝や幹に激しく衝突して飛沫となり空中に投げ出されてしまう。このため、1時間当たりの林外雨が20mmを超える付近から直線が折れ曲がり、傾きが緩くなって幹を流れ下る雨水の増加割合が鈍っている。
幹を流れ下ることができなかった林内雨は、樋で集めることができ、樋で集めた雨水は、確かに林外雨が1時間当たり20mmを超える辺りで折れ曲がり、傾きが急になって増加の割合が増えている(図2a)。しかし、幹を流れ下ることができなかった雨水を補うほどには増加していない。これは樋に到達しなかった雨水が飛沫となって蒸発していたためと考えられる。
この研究により、激しい雨のときほど遮断蒸発がより多くなり森林内の地面に達する雨の割合が減ることを明らかになった。これは、今後研究が進展して植栽する樹種の選択や森林の管理によって遮断蒸発を増やせることが明らかになった場合、その知見を活用して森林の洪水緩和機能を増強できる可能性を示している。
同研究成果は3月26日、『JournalofHydrology』誌でオンライン公開された。
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