【農業機械安全性検査新基準の解説】機械の側から危険な作業をなくす 農研機構に聞く(1)2025年4月1日
農研機構は4月から、農業機械安全性検査を新たな制度で再スタートした。農作業死亡事故に占める農業機械による事故の割合は依然として多く、農業機械のさらなる安全性向上が求められている。そこで、農水省での議論をもとに主要な機種について新たな安全機能の装備を盛り込んだ安全性検査基準を策定し、受検者の負担軽減も盛り込まれた。新基準の背景となっている事故の具体的な事象や今後の取り組みを、農研機構の志藤博克安全検査部部長に聞いた。
農研機構の志藤博克安全検査部部長
――新基準策定の背景は。
新基準では、乗用型トラクターと歩行型トラクター、自脱型コンバイン、乗用型田植え機、乾燥機の5機種が最初の対象となっています。特に、乗用型トラクターは重大事故が多く発生しています。安全性検査の前身である安全鑑定の制度が1976年に発足し、農業機械の安全性はレベルアップしています。しかし、事故は使う人や使われる場所などの要因が重なって起こるので、機械だけでは防ぎきれません。機械の側から危険を伴う作業をなくす方向にアプローチすることが求められており、新基準にもそうした観点から安全性を強化した要件が盛り込まれています。乗用トラクターは4月から、それ以外の機種は令和9年から適用になります。大手農機メーカーのメジャーな一部の機種は前倒しで受検され、基準に適合した農機がすでに市場に出ています。
――乗用型トラクターの基準と事故との関係は。
転落・転倒事故を防ぐ
要因別の死亡事故発生状況、農業機械事故による死亡の要因(令和5年、農水省)
死亡事故全体で農業機械事故が6~7割を占め、中でも乗用型トラクターは死亡事故が一番多く、農業機械死亡事故の4割を占めています。その半分ほどは転落・転倒事故です。運転者を守る安全キャブや安全フレームはすでにありますが、シートベルトをしていなかったために投げ出され、トラクターの下敷きになる事故が後を絶ちません。そのため、乗用車と同様にシートベルトリマインダーを装備することを新基準に設けました。
トラクターを降りて作業する場合、変速ギアが入っていなければリマインダーを鳴らささず、シートベルトを締めて走り出せば警報ブザーが消えるなど、乗用車に準じた基準です。国土交通省の道路運送車両法に基づく保安基準改正により、乗用トラクターもシートベルトの装着が義務になります。法律は今年の夏に成立する予定で施行は令和9年となる見通しです。
次に多いのがトラクターの後部にある作業機に巻き込まれる事故です。PTO軸(駆動回転軸)を回したままトラクターから降りて作業しているときに、耕うんするためのロータリーなど作業機に巻き込まれる事故が多発しています。事故を防ぐため、回転するPTO軸を切らずにシートから離れると、回転軸の動力を自動で断つPTOインターロック装置を要件化しました。トラクターから降りて作業機を回しながら作業しなければならない場合には、一時的にインターロック機能を無効化するインテンション装置も装備します。
――その他の機種は。
離席時や手こぎ作業時の安全を確保
自脱型コンバインにもインターロック機能を加えました。搬送部にゴミや稲が詰まったとき、作業クラッチを切らずに降りて、手で取り除いているときに機械が急に動き出して手が巻き込まれる場合があります。シートから離れると、刈り取り部や搬送部のチェーンが止まる機能になっていますが、手こぎ作業を行うときに止まってしまうと作業できません。そのため、手こぎ作業をするときはインターロック装置を一時的に無効化するインテンション装置も装備されます。
手こぎモードに切り替えると搬送チェーンの速度が刈取り時よりも遅くなり、手が巻き込まれそうになったときは緊急ボタンを押すと、即座に搬送チェーンが止まると同時に、こぎ胴のカバーが15~20センチぐらい開いて、巻き込まれた手がすぐ抜き取ることができます。もう一つは、止まった状態の搬送チェーンの上に稲を乗せて右手で手こぎ操作ハンドルを降ろして押さえ、左手側のボタンを操作すると搬送チェーンが動き出すタイプもあります。
乗用型田植機では、作業が終わった後に掃除をしているときに手をケガする事故が報告されています。植付部を止めて掃除すればいいのですが、植付部はゆっくり回っているためあまり危険を感じません。つい手を伸ばして間に挟まれ、指の先を持っていかれるという事故があります。これを防ぐために植付部を動かしたまま座席を離れると、植付部への動力が遮断されるインターロック装置が装備されます。田植機は席を降りて機械を動かして作業する場面がないのでインテンション装置は装備されません。
バックでの作業には速度をけん制
歩行用トラクターにはハンドルを反対側に向け、前後逆にして作業できるタイプがあります。ハウス栽培で播種床を耕うんする作業などでは耕した場所に自分の足跡をつけないようにバックで作業をする場合があるためです。そのときにハンドルを反対側に回したときに高速度段に入ったままだと、作業者の向きに対してバックしようとするとスピードが出過ぎて、パニックになり、クラッチを切ったりエンジンを止めるなどの操作ができず、トラクターに轢かれたり、背後の障害物との間に挟まれる場合があります。そこで、自動速度けん制装置を装備することにしました。ハンドルを反対側に回したときに、作業者にとってバック方向の最高速度が2.5km/hを超えないように自動で切り替わる仕組みです。
重要な記事
最新の記事
-
「令和の米騒動」と水田政策の未来 事後調整の必要とJAの機能 西川邦夫茨城大教授に聞く(2)2025年7月17日
-
【注意報】早期・普通期水稲に穂吸汁性カメムシ類 県下全域で多発のおそれ 長崎県2025年7月17日
-
【注意報】水稲に斑点米カメムシ類 県内全域で多発のおそれ 愛知県2025年7月17日
-
【注意報】斑点米カメムシ類 県内全域で多発のおそれ 福島県2025年7月17日
-
全国の優績LA322人、27県の62チームを表彰 原点に立ち返り確かな一歩を JA共済連2025年7月17日
-
25年産米概算金、南国そだち2万2700円に 「相場見極め有利販売に注力」 JA高知県2025年7月17日
-
【地域を診る】能登半島地震から1年半 地域の農林漁業と医療・福祉を軸にした地域再生の必要性 京都橘大学学長 岡田知弘氏2025年7月17日
-
造花が増加【花づくりの現場から 宇田明】第64回2025年7月17日
-
ナガイモの産地間競争と国際化【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第349回2025年7月17日
-
【'25新組合長に聞く】JAにしうわ(愛媛) 井田敏勝氏(6/26就任) 高品質のみかん、全国に届ける2025年7月17日
-
令和7年度「田んぼの生きもの調査」を実施 JA全農あきた2025年7月17日
-
令和7年度「第3回農業体験研修」を実施 草刈り作業などに取り組む JA全農あきた2025年7月17日
-
JA全農福島とテレビユー福島(TUF) 新コーナーで直売所「愛情館」から農畜産物PR2025年7月17日
-
令和7年度JA全農東北地区野球大会でJA全農福島が3位に2025年7月17日
-
「福島県産ももセリ台PR」を実施 県オリジナル品種「はつひめ」1箱10万円で取り引き JA全農福島2025年7月17日
-
最新・スマート農機の実演や展示も 福岡で「あぐりフェスタ2025」 JA全農ふくれん2025年7月17日
-
JA鹿本でジャンボスイカ品評会開催 最優秀は119キロの超特大果実2025年7月17日
-
鳴門市×おてつたび×JA里浦「半農半X」推進シェアハウス事業「なると金時編」開始2025年7月17日
-
農業ロボット開発のレグミンへ出資 AgVenture Lab2025年7月17日
-
北海道森林組合連合会のWEBメディア「森のしごと帖」スタート2025年7月17日