【コラム・森田実の政治評論】暴走する安倍政権 TPP容認・JA解体の裏に米政府2014年6月10日
・米国の狙いはアジアの分断
・対米従属強め軍事の一体化
・JA手始めに抵抗勢力潰し
今の日本の政治を動かしているのは、「安倍革命」とも言うべき1945年以後の戦後政治の根本である「国民主権・平和主義・基本的人権尊重」を否定、または大幅修正をめざす安倍首相らの戦後平和主義・民主主義への否定の情念です。安倍首相は、第一次内閣のときに使った「戦後レジームからの脱却」を実行しているのです。
安倍首相らの「革命」的情熱の根底にあるのは、戦後の平和・民主主義社会への強い不信です。首相の言動には、靖国参拝への強いこだわりに見られるように、戦前の軍国主義への回帰の志向が目立ちます。このため首相には復古調の日本軍国主義のイメージが色濃いのですが、私は、安倍革命の真の指導者はオバマ大統領ら米国の政治指導者たちだと思っています。
◆米国の狙いはアジアの分断
安倍首相は、従来の自民党内閣の首相に比べると、従米志向が異常に強いのです。安倍革命の最大の利益の享受者はオバマ米大統領など米国政府指導者です。首相がつくろうとしているのは「米国政府のための日本」だと私は思っています。
安倍政権が集団的自衛権の行使容認を行うことによって、東アジアは新たな冷戦状況に入ります。悪くすると熱い戦争が起こるおそれがあります。私は、オバマ政権は早期に熱い戦争を企てているのではないか、との疑いをもっています。これによってアジアは分断されます。東アジアの二大国の日本と中国が冷戦状況になることは、オバマ米政権が強く望んでいることです。アジアの分断によって、中国も日本もともに力が低下します。米国の地位は相対的に上昇します。衰退期に入った米国政府の権威を維持するための起死回生の戦略の中心が、日本を従米軍国主義の国に変えて中国と対立させることなのです。
オバマ米大統領は、安倍首相の靖国神社参拝、歴史見直しなど、米国政府の本来の考え方に反する言動に寛容の姿勢をとる代償として、安倍内閣に早期の集団的自衛権の行使容認とTPPを受け入れさせました。安倍内閣は、オバマ政権の懐に飛び込んだのです。
米国政府がめざしているのは、2010年12月の日米防衛協力の指針(ガイドライン)改定による米国と日本の軍事力の一体化です。日本の軍事力を米国軍の一部として利用する体制を築くことです。日本を今まで以上に強く従属化させることです。米国の力は強くなります。
米国政府は、2014年12月の日米防衛協力の指針改定までに少なくとも二つのことを安倍政権に要求しています。一つは、憲法改正の手続きをとることなく安倍内閣の憲法解釈の変更によって集団的自衛権の行使が可能だと閣議決定すること、もう一つは集団的自衛権の行使容認を前提に自衛隊法を抜本改正し、日本の自衛隊が米軍と同じ行動をとれるようにすることです。
◆対米従属強め軍事の一体化
安倍内閣はこの二つのことを履行した上で、日米防衛協力の指針改定についての米国政府の要求を受け入れて、米国と日本の軍事力の一体化をはかろうとしています。これによって日本の自衛隊は事実上、米軍の指揮下に入ることになります。米国と日本の軍隊が、世界のどこでも、無制限に一緒に戦争できる体制をつくるのです。日本の軍事力を包摂した米国の軍事力は強大化します。米国は復活します。
米国が安倍内閣に求めているのは、日本を軍事面での集団的自衛権を行使するする国にするとともに、経済・貿易面で米国経済と日本経済を従属化し一体化することです。安倍政権は米国の強い要求を受け入れ、関税自主権を事実上放棄し、日本の農業・酪農を犠牲にしてオバマ米政権の要求に従う方向に動いています。
安倍内閣はTPP交渉にあたって日本の国益を守ることを国民に公約しました。国会も日本の国益とくに農業・酪農を守ることを決議しています。しかし安倍政権は、TPPが秘密交渉であることを理由にして曖昧な発言と詭弁を繰り返しています。真実は国民に知らせていません。
米国政府の日本への圧力は、表面には出ませんが、強まっています。5月28日の共同ニュースは「米、指針改定前の閣議決定要求 集団的自衛権」と報道しましたが、米政府の誰が言ったかなど、具体的なことは報道していません。このため、国民は米国からの水面下での圧力を知りません。
今、安倍政権が最も恐れているのは、安倍内閣の集団的自衛権行使容認の動きへの日本国民の警戒心の増大と世論の変化、TPPに関する公約違反、国会決議違反に対する国民の怒りの爆発です。この国民の不満の爆発が次の国政選挙や統一地方選挙の時に起きることを安倍政権と自民党は極度に恐れているのです。とくにTPPに関する公約違反に対する農業者と地方の不満の爆発に脅えています。
安倍政権と自民党は、悪魔に誘惑されてしまったように見えます。安倍政権と自民党は、国民の政治への不満が爆発した時にその最大の抵抗組織になりうる可能性をもった集団の解体を考え始めました。その一つが農業協同組合中央会(全中)の解体です。これを行うために使ったのが、政府の規制改革会議です。
◆JA手始めに抵抗勢力潰し
かつて小泉首相が強行した郵政民営化、郵政解体と同じやり方で、全中解体をはかろうとしているのです。
警戒すべきは、政府の規制改革会議が日本のよい伝統的仕組みを破壊する米国の新自由主義の論理で動いていることです。日本の農業は協同組合制度の上に成り立ち、今日まで日本の農業と食糧供給を支えてきました。協同組合を株式会社化するよりもむしろ両者の共存共栄をはかるのが、本道だと思います。日本の農業を、「角を矯めて牛を殺す」ごときことはしてはいけないのです。米国政府の圧力に負けて、農業に自由競争原理を持ち込むことは危険だと思います。大切なのは調和です。
最近、オバマ政権の対日政策に変化が見られます。米国の政治的・軍事的・経済的な力が低下してきています。それを、日本の軍事的・経済的能力を米国のものとして利用することによって補充しようとしているのです。軍事面での日本との一体化が集団的自衛権の行使容認です。経済面での一体化がTPPです。米国の力量低下による米国政府の動揺が「安倍革命」を後押ししているのです。
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