あるはずのコメがないという事態を想定して買う卸【熊野孝文・米マーケット情報】2025年9月9日
コメに関する情報をこまめに収集しているところから「今現在、市中相場の価格が上がっている理由がわかる資料はありません。販売状況が悪くなっている資料は、いくつもあるのですが」というメールがあった。なぜこれほどまでに7年産の値上がりが続いているのか質問したところこうした返事が返ってきたのだが、コメに関する様々な公表データを見る限り、その通りとしか言いようがないのだが、現実には新米が出回り始めてから1ヶ月経ていないものの銘柄によっては1俵3000円も値上がりしているものもある。そもそも高い水準でスタートした7年産は収穫が進んでいるにも関わらず、値上がりし続けている原因を突き止めるには、公表されるコメに関する統計データそのものを疑う必要があるかもしれない。

コメの消費動向は、総務省の家計調査によると今年6月の購入量(2人以上の世帯)は4550gで前月に比べ1.6%減少、前年同月比でも1.9%減少している。コメの消費が減っている一方で伸びているのが麺類で、今年2月から6月まで毎月のように前年同月を上回っている。米穀機構の調査では、今年6月の一人当たりの精米消費量の内訳は家庭内精米消費量2886g、中食・外食の精米消費量は1427g、合計4313gになっている。前年同月と比較すると家庭内消費は11.1%減、中食・外食の精米消費量も8・3%、合計で10・2%も減っている。コメの消費量が前年同月に比べ1割も減るという結果はこれまで見られない。対前年同月比の減少率推移を見ると4月9・4%、5月9.5%、6月10.2%と著しい減少率を記録している。これはコメの価格が異常に高くなっていることが要因と考えられる。ちなみに家計調査による1世帯当たりのコメの支出金額を対前年同月比で見てみると4月201.4%、5月185.2%、6月175.9%になっており、物価指数ではいずれの月も200%を超えている。総務省の小売物価統計ではコシヒカリの価格も調査されており、それによると今年7月の価格(東京都区部)は5kg当たり5036円で前年同月の2683円に比べ188%の値上がりである。
コメ消費量が減っていると販売業者の販売数量も減少するのが当たり前だが、これについては農水省が調査している。今年7月の調査結果では、販売先別で小売向け6.1%減、中食・外食向け6.6%減、合計6.4%減となっており、今年2月から7月まで毎月のように前年同月を下回っている。このように消費面・販売面ではコメの価格が値下がりする要因が目白押しなのだが、現在の価格動向を見る限り、こうした要因は反映されていないというしかない。
全体の需給見通しはどうなっているのかというと農水省は需要量等の検証が必要として需給見通しを公表していないが、民間団体や卸等はさまざまな需給見通しを作っている。国の米穀年度(当年7月から翌年6月末)を踏襲したものや旧米穀年度(当年11月から翌年10月末)さらには当年9月から翌年8月末と言った年度で需給見通しを作っている流通業者もいる。これは年度末在庫をより分かりやすくするためで、コメの出回りが早まっている現在こうした需給見通しも必要なのかもしれない。国の年度を踏襲した需給見通しでは、集荷団体、卸業者団体、大手卸業者とも来年6月末の民間在庫はいずれも200万t以上を見込んでいる。最も少ないところでさえ196万tと見込んでおり、適正在庫も目安とされる180万tより多い。つまり需給は緩和すると見込んでいるのだが、これらの需給見通しの基本的供給量のベースである7年産米の生産量は、農水省は公表した735万tという数量を用いている。全国ベースの水稲生産量を調査しているのは農水省しかないのでこれを用いるしかないのだが、果たして農水省が予想するように前年産に比べ56万tも主食用米が増加するのかという点に疑問がもたれている。需給見通しの中には今年6月末の民間在庫が121万しかなかったとし、この数量は異常で、その分7年産米の早食いが進み、今年度の需給は緩和しないと見る向きもある。
出回りのピークを迎えている関東の早期米も依然引き合いが強く、銘柄によってはハシリ価格から2000円以上高くなっているものもあるが、これらはすぐに新米セールように精米されるわけではなく、在庫の積み増しの買いもあるという。高値を承知で買いを入れている卸はその理由について「昨年のことがあるから」と言っている。昨年、あるはずの銘柄米が入手困難になり量販店に対して終売宣言をせざるを得なくなった。同じ轍を踏まないように買えるときに買っておこうというスタンスで、そうした思惑を招いているのが6年産米では農水省の公表通りであればあるはずのコメがなかったことに因る。農水省は新米の収穫進捗状況や検査データをこまめに公表して、コメがあることを周知できるようにすべきだ。
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