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【クローズアップ・豚コレラ問題】養豚の危機 食料安保を直撃 谷口信和・東大名誉教授2019年9月26日

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国内需要に向け土台強化こそ

東京大学名誉教授谷口信和

 26年ぶりに国内で発生した豚コレラは、発生から1年が過ぎても終息しない。殺処分頭数は14万頭を超えた。谷口信和東大名誉教授は、日本の食と農の現状と食料安全保障問題を直視した対応が求められると課題提起する。

豚コレライメージ

◆新たなステージへ

 2019年9月20日、江藤拓農林水産大臣は苦渋の選択として、豚コレラの防疫指針の改定によって飼養豚への予防的なワクチン接種を可能とするように農水省の防疫方針を大きく転換することを表明した。これにより、豚コレラ問題は新たなステージに入ることになった。折しも、基本計画の審議が本格化する中で、食料安全保障を揺るがしかねない豚コレラ問題の深刻化は養豚業界の枠を大きく超え、日本の食と農のあり方に再考を迫る第一級の政治的な課題の地位を占めつつあるといってよい。
 大臣就任直後の逸早い決断は内容の吟味以前に積極的に評価されるべきであろう。なぜなら、安倍内閣の下で、もしかすると「政治的責任」を取ろうとした初めての閣僚となるかもしれないからである。


迅速な決断の背景

 そこでは、第1に、2018年9月の岐阜での豚コレラ感染確認から1年が過ぎたにもかかわらず、終息の気配すら全く感じられない上に、第2に、本年9月には埼玉県で感染が確認され、東海を中心とした地域から、九州に次いで二番目に豚の飼養頭数が集中する関東(全国の26%)への拡大が危惧され、食をめぐる不安が消費者を巻き込み始める局面に移行しただけでなく、第3に、岐阜県(18年12月)・愛知県(19年8月)・長野県(19年9月)では最も防疫水準が高いはずの畜産試験場や農業大学校にまで感染が及び、従来の防疫方法の徹底だけでは事態が収拾できないことが明らかになりつつある中で、第4に、日本養豚協会を中心とする生産者団体や感染地域の知事からのワクチン接種を求める強力な要請に応えることができなければ農政の根本的な信頼を失うかもしれないという恐れが一挙に現実のものとなったからであろう。

◆豚コレラとは

 2013年6月26日農林水産大臣公表の「豚コレラに関する特定家畜伝染病防疫指針」では「豚コレラは、口蹄疫に比べて伝播力が強くないことから、予防的殺処分を実施する必要はないが、一般的には伝播力が強く、致死性の高い伝染病であるため、発生時には迅速かつ的確な防疫対応が求められる」とされていた。しかし、26年ぶりに岐阜市で豚コレラが発生したのに対応した2018年10月31日の改正で、この部分は削除された。
 本病は、(1)発熱・元気消失・食欲減退、(2)便秘・下痢、(3)結膜炎、(4)歩行困難・後躯麻痺・痙攣、(5)耳翼・下腹部・四肢の紫斑、(6)削痩、被毛粗剛、(7)異常産、(8)以上の症状を伴う死亡を特徴とする重篤な伝染病である。

◆防疫措置とワクチン接種

 そのため、防疫措置は「早期発見と患畜及び疑似患畜の迅速なと殺を原則とし、平常時の予防的なワクチンの接種は行わないことと」されている(防疫指針第13)。ただし、「発生農場におけると殺及び周辺農場の移動制限のみによっては、感染拡大の防止が困難と考えられる場合には、まん延防止のための緊急ワクチン接種の実施」を農水省が決定することができる。その際、予防的殺処分は認められていない。
 また、緊急ワクチンの実施にあたっては、(1)実施時期、(2)実施地域、(3)対象家畜、(4)その他の必要事項(本病発生確認のための非接種豚の配置や移動制限の対象)を定めた緊急防疫指針を策定し、公表する。ワクチンの接種はこの防疫指針に基づき都道府県が行うが、必要十分なワクチン及び注射関連資材を農水省が手配することになっている。


緊急ワクチンと予防的ワクチン

 ところが農水省が検討しようとしているのは国が主導して行うこの緊急ワクチン(地域限定)ではない。8月9日の「ワクチン接種の考え方について」(消費・安全局)によると、防疫指針の緊急ワクチン接種の条件には現在の状態は該当しないことから、防疫指針を改正して、都道府県知事に予防義務を課す予防的ワクチン接種(全国)を実施しようとしているように読める。しかし、全国レベルでのワクチン接種だと国際獣疫事務局OIEの基準により日本全体が「非清浄国」となることから、特定地域=非清浄地域のワクチン接種と域内の豚肉・豚肉製品流通によって他の地域を清浄地域とする方向が探られているようである。ブラジル・コロンビア・エクアドルの3ヵ国で採用されている方向である。これによって、清浄地域からの豚肉等の輸出が可能になるというものである。
 いずれにしても農水省の方針自体がかなり流動的であること、清浄国の地位または清浄地域の確保にかなりこだわった政策選択であるといえよう。前者の点は生産者団体・都道府県によって見解にかなりの幅があり、全国レベルでの予防的ワクチン接種(群馬県)、地域限定・期間限定の予防的ワクチン接種(日本養豚協会)、国の防疫指針に基づく国主導の緊急ワクチン(感染8県)などとなっている。これらの議論を早急に整理して分かりやすい実施策を構築することが求められている。


政府対応 遅れの背景

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 図は2018年9月上旬から旬ごとに豚コレラ感染農場数と殺処分された頭数の推移を示したものである。
 これによると、第1に、2018年末までは発生地域が岐阜県内に止まり、農場数も頭数も小さかったことが分かる。この期間の感染拡大の「緩慢さ」が抜本的な対応を遅らせた背景にあるだろう。
 2010年に宮崎県で発生した口蹄疫の場合、殺処分頭数は29万頭に及んだが、発生後1カ月でワクチン接種が開始され、4カ月後に終息宣言が出されたことと比較すると今回の対応には疑問符が付く。
 第2に、経営数・頭数とも急激な増加に転じたのは2019年2月6日の愛知県豊田市の農場とその関連農場への感染拡大が契機となっていた。県内に封じ込めて4カ月で終息した宮崎に対し、今回は5か月後に県境を越えて一挙に6県に拡散してしまったからである。
 その際、これに先立って18年12月18日に開催された第3回拡大豚コレラ疫学調査チーム検討会において、中国等の豚コレラ発生国から「違法に持ち込まれた食品が、家庭ゴミとして廃棄されたり、行楽地などで廃棄されたりすることにより、野生イノシシが感染した可能性」が指摘され、最初の感染農場には「遅くとも8月上旬にはウイルスが侵入していた」との指摘があったわけだから、農場間、あるいは交差感染とは異なる野生イノシシを通じた感染防止対策を強力に推し進めない限り、感染拡大のスピードが飛躍的に高まる危険性に細心の注意を払うべきだったといわざるをえない。 換言すれば、この段階ですでに飼養豚へのワクチン接種の是非についての議論が開始されていなければならなかったのではないかと思われる。野生イノシシへの経口ワクチン投与の検討が始まっていただけに悔やまれる対応だったとすべきであろう。
 第3に、2019年1月に中国から中部空港に持ち込まれたソーセージ2件からアフリカ豚コレラASFのウイルスが分離され、これが4月に感染力のあるウイルスと確認されるなど、ワクチンや治療法がないASF侵入の危険にすら晒されていることも忘れてはならないだろう。インバウンドの増加による国内観光業の盛況の陰で、日本の食と農が脅かされている現実に対しては水際での動物検疫・植物防疫の重要性の意義を強調しておきたい。2017年に不正に畜産物を持ち込んだ9万4521件のうち、中国が44.1%、ベトナムが13.8%、フィリピンが8.5%など、豚コレラ・ASF感染国が大部分を占めている厳しい現実を直視せねばならないのである(農水省動物検疫データ)。


◆接種をめぐるジレンマ

 ところで忘れてはならないのは、日本は昨年まで豚コレラ清浄国の地位を確保していたが、それは三つの段階を経て獲得されたものだったことである。1969年に弱毒性生ワクチンが開発され、組織的な接種により1992年を最後に発生がなくなった。そこで、欧米養豚先進国と同様にワクチンを用いない防疫体制の確立による清浄国化をめざして、第1段階(1996年度~):ワクチン接種の徹底と抗体検査の推進、第2段階(1998年度~):段階的なワクチン接種の中止、第3段階(2000年度~):原則として全国的なワクチン接種中止の方針で臨み、2006年に全面的にワクチン接種を中止した。そして、2007年4月から豚コレラ清浄国としてOIEに報告するに至ったのである。


外需ではなく国内生産基盤の強化を

 今回のワクチン接種をめぐる議論で示された懸念は、一方での接種豚の買い控えと価格下落といった風評被害であり(これは流通制限と密接に関連する)、他方で非清浄国化することによる豚肉輸出の制限であった。前者は原発事故後の福島県産農産物で今日でも残存する問題と同根であるが、きちんとした関係機関・組織による安全性の説明と価格補填といった政策的支援で克服すべき課題であろう。
 後者については、江藤大臣は香港など輸出実績のある地域・国との交渉に活路を見出しているが、むしろアベノミクス農政による外需依存型農政からの脱却の機会にすべきではないかと思われる。
 詳細な検討は省略せざるをえないが、畜産物は国内消費需要が近年増加傾向にあり、それに牽引されて国内生産も増加に転じている。しかし、旺盛な国内需要に見合うほどには国内生産が追いつかず、大量の輸入畜産物によって自給率が低下しているところに特徴がある。ワクチン接種で外需を失うとぼやく前に国内消費需要に対応した国内生産の土台をこそ強化すべきときである。むしろ、数量的には1%にも満たない外需に期待する代わりに、ワクチン接種の適期を失って、養豚の国内生産基盤を瓦解させることをこそ回避すべき政策選択ではないか。
 基本計画の審議においては禍を転じて福となすべく、豚コレラ問題を直視する中で食料安全保障の確保と国内農業のあり方を議論することが求められるであろう。


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