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シリーズ:どうするのか この国のかたち―食料・農業・農村を考える

2017.12.08 
【インタビュー・石破茂・自民党衆議院議員に聞く】農業の潜在力がこの国を創る一覧へ

・大転換求められる国家政策
・聞き手:谷口信和・東京農業大学教授

 人口減少時代を迎え持続的な社会の実現に向け「この国のかたち」が改めて問われている。農業、農村をどう再構築していくかは国のかたちに関わることでもある。主要政党の国会議員に食料・農業・農村政策をふまえたビジョンを語ってもらう。今回は昨年末に引き続き農相、防衛相、地方創生相を務めた自民党の石破茂衆議院議員に聞いた。聞き手は谷口信和東京農業大学教授。

◆国家・食料・社会 安全保障を考える

 谷口 今、日本には国家安全保障と食料安全保障、それから人間の安全保障という点で社会保障の3つの安全保障がセットで求められていると思います。防衛大臣、農林水産大臣両方のご経験からどうお考えですか。

 
seri1712080903.jpg 石破 安全保障とは自分の国でできることを最大限やったうえで、他国と協力すべきものです。しかし、日本の場合、現在の安全保障体制はアメリカの来援が前提となっていて、是非はともかく憲法9条と日米安全保障条約がセットになって成り立っています。
 食料安全保障も「自給率」ではなく日本のなかでどこまで「自給力」を高めるべきなのかということが大事で、自給率は結果だと私は考えています。防衛と農林水産業は似た面が非常にあると思います。
 ただ、日本が防衛に恵まれていると思ったことはありませんが、農業は土と光と水と温度の産業であって、この4つを日本ほどバランスよく満たした国はあまりない。加えて勤勉な農業者と非常に目の厳しい消費者を持っています。なのに、日本農業はどうしてこう厳しい状況になってしまったのか。今後の地方創生を考える上でのいちばんのコアではないかと思っています。

 

◆「票田」は守っても「水田」は守らず

 谷口 日本農業のなかでも水田は根幹です。来年から米政策が見直されるわけですが、いち早く具体的な米の生産調整見直しを打ち出したのは石破農相時代でした。

 
石破茂・自民党衆議院議員 石破 私が見直すべきだといったので大騒ぎになりましたが、日本を養ってきたのはやはり水田農業です。これだけ多くの人口を養うことができたのは、水に恵まれると同時に急峻な国土条件の下で老廃物が溜まらずに連作障害が起きないという水田農業のおかげです。
 しかし、我が党は、票田は守ってきたが水田は守って来なかった。そう言われる面があると思っています。
 戦後、GHQは共産主義の台頭をどうしても阻止せねばならないということから農村を民主化し、自作農を生み出す農地改革を行った。そして保守政党が農村部を基盤として安定した政権運営を行うために、農業者の票は絶対に必要であり、零細な農業者がたくさんいることは自民党にとってはいいことで、農協の果たした役割も確かに大きかった。米の値段は政府が決めており米価は農業者の給料であると、米価闘争では私たち議員も三晩徹夜は当たり前でした。
 しかし、戦後の高度経済成長は公共事業と企業誘致によって地方に雇用と所得を創出するというもので、その方が農林水産業のポテンシャルを伸ばすよりも手っ取り早かったのだと思います。
 昭和30年代、40年代は、テレビ、冷蔵庫、洗濯機、そして車などみんな同じものが欲しい、だから同じものをたくさん作って安く供給する、というビジネスモデルでした。高齢者はまだ少なく、政府も自治体も企業も、社会福祉にあまりコストをかける必要がなく、設備投資と賃上げに注ぎ込めばよかった。
 そういう時代は平成の始めには終わっていたのですが、そういう姿を相変わらず追い求めていた。しかし、はたと気づくと全部成り立たなくなっていた。
 だからこれからの時代は今までその力を伸ばして来なかった農業、漁業、林業の力を最大限に伸ばさなければならないが、農業者が二種兼業も含めて恐ろしい勢いで減っている。たしかに、日本人は今1億2700万人いますが、このままでは西暦2100年には5200万人に減り、200年経つと1391万人、300年経つと423万人になってしまう。いったいこの国をどうやって維持するのか、ということです。

(写真)石破茂・自民党衆議院議員

 

◆農林水産業を軸に 国のモデルを転換 

谷口信和・東京農業大学教授 谷口 今以上に都会にだけ人を集めてそこに投資をし、地方や農山村はどうでもいいということになれば、人間がどう生きていくのかが見えてきません。

 
 石破 おっしゃるとおりです。今から47年前の1970年には男女とも50歳時点での未婚率は2%でした。その生涯未婚率は今や男性24%、女性14%ですから、男性は12倍、女性は7倍になっている。しかも、これは今の50歳の統計です。これからは結婚する人が激減します。結婚してもその年齢が5年遅くなっていますから2人目、3人目は産まれにくいということです。
 今、子供がいちばん生まれるのが沖縄、次に徳島、宮崎、鳥取、熊本と続き、圧倒的最下位は東京です。エネルギーを作り食料を作り子供が生まれる地方が滅んで、エネルギーも食料も作らずに消費するだけで、出生率最低の東京だけが残る日本などあり得ません。都市にだけ人が集まればいいというのは大きな間違いで、こんな大国でそんなことはあり得ないし、世界に対しても次の時代に対しても大いなる無責任です。これが国の危機でなくて何が危機かと思いますか。
 農業、林業、漁業のポテンシャルを最大限引き出すように、国として政策を大きく変えますということを政府がはっきり国民に訴えなければいけないし、そういう観点からJAや農業委員会の方々にも「一緒に考えてください」というべきだと思います。

(写真)谷口信和・東京農業大学教授

 
 谷口 地方を支えている農業や漁業の力を発揮させるという場合に、特定の人や経営ではなく地域全体をどうするかという発想が大事だと思います。単純に儲かる農業をつくるというだけではない、もう少し包括的な戦略をとらないといけないと思います。

 
 石破 そうですね。市町村レベルで考えること、都道府県や国レベルでやらなければならないことがあるはずですが、まずはそれぞれの地域の農業がどうなっているのか、何が足りないのかという分析をすることが大事だと思います。しかし、小さな市町村では農業担当の職員はたぶん1人か2人でしょう。人口1万人ぐらいの町にいくと大体は「産業課」に包括されています。それでは無理ですから、農業に通暁した国家公務員が腰を据えて地域においてどんな農業、農村にするかサポートするような仕組みも必要でしょう。

 
 谷口 かつては政策が画一的でしたから、他の真似をすればよかったということもあったと思います。では、JAには何を望みますか。

 

◆「地域を守る農協」国民に事例を示して
 
 石破 総合農協であることを生かしていくためには「地域を守る農協」ということをもっと前面に出していけば国民の理解が広がるのではないかと思います。地方創生大臣のときもそれを言っていましたし、党の政調会長のときには「JAこそ地域の担い手」というスローガンも出しました。協同組合精神をいかに地域に活かすか。それができるのはJAだけではないか。規制改革推進会議の人たちとJAとの間には意識のずれがあると思います。

 
 谷口 もともと日本人には人を大事にする、地域社会で生きていくなどといった協同組合的な思想、共同体的な思想がありました。だからこそ、世界的にみても珍しい総合農協がここまで発展したのだと思います。日本に定着した理由があるはずでそこを再評価しなければならないのに、規制改革推進会議のように個人主義、競争万能ということになっている。なぜそれが受容されているのでしょう。

 
 石破 農業サイドからの発信が弱いという気がします。JAに対して信用や共済の利益を経済事業の補てんに回すことに批判がありますが、「儲からないけれども大切な事業を通じて、総合農協が農村を支えた」ということを見せる必要があるのではないかと思っています。JAががんばって農村を再生させたという事例をいくつもみたいです。そうすると、世間の見方はがらっと変わると思います。

 
 谷口 自分たちに与えられた条件のなかでどうやれば新しいことができるのか、地域ごとに考えていくことが大事ですね。

 

◆無限ではない金融緩和 今こそ地域活性化策を

 石破 今、日本人が何か刹那的になっていると思います。「大胆な金融緩和」として日銀が民間銀行にある国債を買うことによってマネタリーベースは上がりました。そうなると円は安くなり、金利も下がる。日本の株式市場の7割を外国人投資家が売買していますから、外国人からみれば買い得だということで株も上がります。ただ、この金融緩和は無限ではありません。言ってみればこれによって私たちは時間を稼いだ。そのなかで地方をはじめとする実体経済をどれだけ改善できるかが問われています。株価が上がって大都市では何となく景気がよくなったように見えている間に、地方や中小企業が稼げるようになるための改革を進めていかなければなりません。

 
 谷口 そのことになぜ国民や政治家は気がつかないのでしょうか。

 
 石破 この間の選挙でわが党は大勝しましたが、それは野党のおかげとも言える面があって、このままいったらどうするんですか、とは言うけれども、みんなバラバラに言うので、そんなバラバラ野党よりも自民党のほうがいいという選択になったのでしょう。だとすれば自民党の中から、いま金融緩和や財政出動で時間を稼いでいる間に地方の経済、とくに農業、漁業、林業、これを国としていかにして活性化するかを明確に打ち出さなければなりません。
 ただし、それはわが町の農業をどうするのか、それぞれが考えることから始めなくてはならないのではないか。

 

◆本来の民主主義を 地方から取り戻す

 谷口 その場合、農林水産省や総務省などといった垣根を作らないでいい取り組みを支援していく国の役割に期待します。

 
 石破 今、地方には都会から移り住んでいる人、とくに若い女性が増えてきています。いろいろな起業もして、人が大事にされ、本当に生きていて楽しいといいます。都会から移り住んだ人に聞いてみると、3.11の衝撃が大きかったと。お金を出しても並んでもモノが買えない都会とは何だろうと思ったというのです。地方には都会のような便利さはないけれどもちゃんと食べるもの、住むところがあり、そのことのほうが人間として大事ではないか、と。
 まずは中央から地方に人を還流させること、これが国家としてやらなければならないことではないか。そのためにこれからはたとえば今住んでいる都会の住宅のほかに、住みたい、戻りたいという地域にも住宅を持てるような中古住宅市場を活性化する政策や、割安で行き来できる航空運賃制度など地方に住むことが楽しいと思える政策を考える必要があると思います。
 「自分が必要とされている」という実感は、地方のほうが感じられる。都会から地方へという循環を国民運動としても起こしていく。その際、国にお願いします、助けてくださいではなく、自分たちはこうするから、こういう支援を、という考え方に変わる必要もあります。実は民主主義というのはそういうものではないか。本来の意味の民主主義を地方からもう1回取り返していきたいとも思っています。

 

インタビューを終えて

 日本には健全な保守主義というものがなくなってしまったのではないか、という危機感にも近い不安感を抱いていた私が、石破議員とのインタビューを終えた後に、何かホッとした感懐を抱いたのは偶然ではないだろう。▼農水相・地方創生相・防衛相を経験しただけに、農林水産業、地域・地方、国家のかたちという三つの課題について首尾一貫した政治哲学を聞くことができたからである。▼民主主義の復権を地方から実現しようと説く氏の締めくくりの言葉が実に印象的であった。(谷口信和)

 

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