農政 シリーズ詳細

シリーズ:どうするのか この国のかたち―食料・農業・農村を考える

2018.01.12 
【インタビュー・希望の党代表 玉木雄一郎衆議院議員】農政を基本政策の柱に土着の保守政党めざす一覧へ

 昨年の衆議院総選挙では、政治変革への期待の高まりが、一瞬にして失望に転じる状況に直面した。その渦中から新たな政党のトップに就いたのが農政通でもある希望の党代表の玉木雄一郎衆議院議員である。野党第2党としてこの新しい政党は何をめざすのか。玉木代表は農政が政策の軸だと強調する。聞き手は谷口信和東京農業大学教授。

◆土の匂いのする政党に

希望の党代表 玉木雄一郎衆議院議員 谷口 どんな政党、政治をめざすのかということから、お聞かせいただけますか。
 
 玉木 野党第2党ですから、少し先を見ながら、いわば「未来先取り政党」になりたいと考えています。日本の人口が減っていくのは客観的には分かっていますが、それに政治がなかなか対応できていない。私はそこに対応する政治をやりたい。従来の発想にとらわれない対応が必要です。
 たとえば、わが党も憲法を議論するならスイスのように食料安保を憲法に書き込むぐらいのことを検討しようと言っています。
 結局、国家の基本として、地方をどうするのか、農業をどうするのか、といった議論が安倍政権にはない。今の農政も産業政策と地域政策の両方が大事だといいながら、やはり産業政策だけに行きがちです。現実的な国家安全保障政策、持続可能な社会保障制度に加えて、食料安全保障も重要だと考えます。2050年には世界人口はかなり増え、食料の需要も今の1.5倍から2倍になるなか、自国民を食べさせる食料は一定程度、自国の国土で自国民によって作り上げる。その基本を忘れると国家は滅びます。
 しかし、今のような農政なら、農水省は経産省の一部局で済んでしまう。

(写真)希望の党代表 玉木雄一郎衆議院議員

 
 谷口 事実、そのようになりかかっていますね。
 
 玉木 農産物輸出を否定はしませんが、そこばかりやっていて、いざというとき国内需要を満たせないのであれば、農水省はいらないことになります。オランダはよく農産物輸出が世界第2位だといいますが、たとえばケニアで作ったチューリップをオランダ経由でロシアに輸出するという実態もあります。そして農水省はなくなって、経済省の一部局となり、何人かの副大臣の1人が農林水産業を担当している。わが国もそうなっていいのかということです。
 代表になって改めて考えたのは、国家のあり方をどうすべきか、そこに流れる基本的な哲学をしっかりさせないといけない、ということです。初当選以来、農政に携わってきて野党も与党も経験し、今、曲がりなりにも党のトップになって一体自分は何を訴えるのかといえば、やはり農業を柱としたい。
 それを改めて自覚し、希望の党を土の匂いのする政党にしたいと思っています。これが政治の原点だし、われわれの考える保守主義の原点です。中国や韓国がけしからんというような偏狭な保守ではなくて、地域のコミュニティを大切にし、先祖からの時間の流れが脈々とあって、その一部をお預かりしているという謙虚な気持ちで物事にあたっていく。私たちが党の綱領で掲げている「寛容な改革保守」というのはそうした本来の保守、土着の保守です。

 

◆今、「保守」とは何か?

 谷口 今は改革と称してぶち壊すことばかりですからね。ところで一方、何も変えないのが保守だとわれわれは思いがちですが果たしてそうか。これほど世界が激動しているなかで、昨日と同じように今日を淡々と生きていくには大変な努力がいる。つまり、保守とはいちばんの革新であるという時代になってきたともいえます。その意味でぜひ保守という言葉を磨き上げて使っていただきたい。
 
 玉木 誤解を受けやすい言葉ではありますが、われわれが繰り出す政策のなかにきちんとその理念を入れていきたい。その点でいえば、今の官邸主導の農政には保守の香りをまったく感じません。改革の名のもとで壊しているだけではないか。
 
 谷口 規制改革推進会議がその典型で自分でも何を変えているのか分からなくなってしまい、変えること自体が自己目的化している。
 
 玉木 やはり少し落ち着いて検証すべきだと思います。農協改革や農業委員会改革が、どういう変化を現場に与えているのか検証していかないと、取り返しのつかないことになってしまうのではないか。というのも、官邸による何か上から目線の改革だと感じるからです。田舎の人たち、農家のみなさんは何もやっていないだろうという目線。実際はそんなことはなく、農産物を育てるにも現場の農家は非常に苦労し工夫もしています。
 肥料の問題にしても海沿いと山沿いでは肥料を使い分けていますね。銘柄を集約することもコスト削減という側面はありますが、そんなことは民間に任せればいいのであって、あまり国が、しかも農業などやったことがない人たちがあれこれ言うこと自体、さまざまな歪みを現場に生んでいくのではないか。

希望の党代表 玉木雄一郎衆議院議員(左)と谷口信和・東京農業大学教授(写真)希望の党代表 玉木雄一郎衆議院議員(左)と谷口信和・東京農業大学教授

 

◆主食用米に岩盤政策を

谷口信和・東京農業大学教授 谷口 30年産からの米の生産調整の見直しについては、どうお考えですか。
 
 玉木 JAグループを中心に自主的な全国組織をつくって需給調整をしようということですが、10aあたり7500円の交付金が廃止され生産調整に対する金銭的なインセンティブがなくなるわけですから、果たしてどれだけ実効性があるのか、慎重に見極めなければなりません。
 今、主食用米の需給が締まっているのは、飼料用米に10aあたり最高で10万5000円を助成しているからです。しかし、財政制度審議会から毎年のように削減すべきだと言われているように、本当に飼料用米への助成金が続くのかという懸念があります。衆院本会議で安倍首相にも聞きましたが、明言しない。
 本当にやるのであれば法制化して恒久化すれば農家も安心して飼料用米の生産ができます。しかし、本当に持続可能性があるのか、現場の農家もとまどっています。水田面積が小さい地域で飼料用米と主食用米を分けて作るのは実際なかなか難しいなど、問題はまだまだありますから、もう一回整理し直すべきです。 そこで私は岩盤政策が大事だと思います。特に人間が食べる米をつくることをきちんと推奨すべきです。もちろん飼料用米も一定は必要ですが、需要に応じた生産といいながら、実際は補助金の多寡に応じて何を作るかを決めるということになってしまっています。
 
 谷口 飼料用米支援については、私は交付金の支出先が間違っていると思っています。畜産農家が国産飼料を購入した場合に支払う交付金というかたちにすればいい。それをもとに耕種農家が飼料用米を生産し販売しようと判断する。
 畜産農家も国産飼料の重要性を理解し、確実に切り替えています。ただし家畜の育種・選抜に始まり、さまざまな飼養方法の確立には10年はかかる。その点でも持続的な政策が求められます。
 
 玉木 大事なのは制度の持続可能性で、いちばん避けなければならないのは猫の目農政です。お金がなくなったからやめますということは、絶対にやってはいけない。
 
 谷口 基本的に主食用米と飼料用米の栽培体系は論理的に異なっています。主食用米は窒素の施肥を少なくして、お米のアミノ酸含有量を減らして食味を上げようとしすますが、飼料用米は窒素肥料を多投して単収を引き上げ、タンパク質含有量が多くて栄養分が高いほうがいい。本来的に矛盾する栽培体系を一緒だと考えてしまっている。 もっと合理的な土地利用体系を考えるべきで、たとえば大豆の後作は土壌中の窒素分が多くなっているので食味のいい米を作れないから大豆の増産がなかなか進みませんが、それなら飼料用米にすれば窒素が多くてかえっていい。そうした長期の輪作体系を確立し地力を活用してトータルで収益を上げていくようにする。こうした工夫がまだできていません。
 米を基本にしつつ新しい水田農業体系を作るというのは、2000年続いたこの瑞穂の国の次なる革命です。これはアジア諸国に対しても日本農業が技術上の盟主になるべき大革命であって、それぐらいの気概をもって挑戦してほしいと思います。
 
 玉木 モンスーンアジア全体を考えなければならないというこということですね。おっしゃるようにわれわれの議論も、もう一段レベルを上げないといけません。やはり土地利用型作物、そして水田をどうしていくのか、大きな体系を考えていきます。

 

◆農政を野党再編の要に

希望の党代表 玉木雄一郎衆議院議員 谷口 野党はもとの仲間が分かれてしまったかたちになっていますが、希望の党として農政についての野党連携についてはどうお考えですか。
 
 玉木 ぜひやっていきたいです。常に考えておかなければならないのは、農政とは現場がすべてだということです。思想信条というより、現場の問題にしっかり向き合っていくべきです。
 私は野党再編の鍵は農政だと考えています。政府・与党に対するもうひとつの選択肢を示すのが野党の役割だとすれば、今、現場のみなさんから、官邸主導のこういう農政しかないのか、という疑問と不満をひしひしと感じます。われわれはそれに応えていかなければならない責任と義務を負っています。
 
 谷口 そこに国民の期待感があり、それが実現すればまた求心力が生まれると思います。
 
 玉木 私は、この道しかない、という言い方が嫌いです。もっと他に道がないかと絶えざる探索を続ける精神が必要です。楕円形のように焦点が2つあるのが現実の社会だと思います。
 野党としても、いいことはいいと応援しつつ、足らざるものを現場から聞いて発見し、しっかり補って政策に昇華させていく。こう言うとよく与党の補完勢力だと言われますが、補完勢力になるつもりはなく、よりよいものに向けてきちんと言うべきことは主張する姿勢で政権とも向き合っていきます。

 

インタビューを終えて

 玉木氏とのインタビューは二度目だが以前にも増して話によどみがなく流れるように進んだ。▼それは氏が党代表としての責任ある立場から野党再編の軸に農政を据えることに並々ならぬ熱意を示したからであろう。▼憲法・自衛隊・原発といった国論を四分五裂するような問題とは異なって、農政は現在の官邸主導型農政の是非という単純な指標で国論が二分でき、野党が小異を捨てて大同につける数少ない重要分野である。▼だからこそ野党の再編ではなく、野党の連携・結集の焦点の一つとして農政が国政の楕円の中で然るべき位置を占めることを是非とも期待したい。

 

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