水を取るか、病害菌から身を守るか 決め手となる植物の遺伝子を発見2017年6月2日
乾燥した土地に強い植物、湿地を好む植物など、自然界ではそれぞれの植物がさまざまな環境に適応している。その環境に適応するための決め手となる遺伝子を、東京農業大学の大治輝昭教授らが発見した。
干害、塩害や冷害は、植物が水を吸えなくなるストレス(浸透圧ストレス)によって引き起こされる。こうした被害は農業にとってもっとも大きな被害の一つだ。
しかし、自然界にはこうしたストレスに極めて高い耐性を示し、砂漠のような土地でも生存できる植物も存在する。一方で、同じ種であってもそのような耐性が失われいる例もある。
これまで、植物が同じ種内でも耐性を持つものと持たないものに分かれてきた進化的な要因やどんな遺伝子が働いてそうなったのかは、不明だった。
今回の研究では、世界中のさまざまな地域に生息し、その数が1000以上もあり、モデル植物として分子生物学的研究に広く利用されているシロイヌナズナを用いて行われた。シロイヌナズナは、さまざまな環境に適応した結果、同じ種でありながら浸透圧耐性に違いがあることが知られている。ちなみにシロイヌナズナは「ぺんぺん草」の一種で、日本にも数種類の自生種がある。
数百グループのシロイヌナズナを比較研究することで、ACQOSと名付けた遺伝子が浸透圧耐性の有無を決定することが解明された。このACQOSは植物の免疫応答に重要な遺伝子であった。
この研究で解明されたことは、(1)ACQOSを有するシロイヌナズナは病害抵抗性に優れているが、浸透圧耐性が損なわれており乾燥に弱いこと、一方(2)ACQOSを失ったシロイヌナズナは高い浸透圧耐性を獲得し乾燥には強いが、病害抵抗性が低下するということだった。つまりACQOS遺伝子の有無が、病害抵抗性を取るか、浸透圧耐性をとるかの決め手となることが明らかになったということだ。
このACQOS遺伝子は、その植物の環境への適応過程で何種類もでき、シロイヌナズナでは150種、稲では500種くらい存在しているという。
この成果は、植物工場のような乾燥にさらされない環境ではACQOSを有することで病害抵抗性を向上させ、逆に乾燥が頻繁に起こるほ場ではACQOSを無くすことで著しく浸透圧耐性を向上させるなど、環境条件に応じて植物のストレス耐性を最適な方向にデザインすることが可能になると期待されている。
この研究成果は、東京農業大学生命科学部バイオサイエンス学科の太治輝昭教授らが、奈良先端科学技術大学院大学、千葉大学、理化学研究所などとの共同研究で得られたもので、科学雑誌「Nature Plants」に掲載されている。
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