家族農業が世界の未来を拓く
- 著者
- 国連世界食料保障委員会専門家ハイレベル・パネル著、家族農業研究会・(株)農林中金総合研究所共訳
- 発行所
- 農山漁村文化協会
- 発行日
- 2014年2月5日
- 定価
- 本体2000円+税
- 電話
- 03-3585-1141
- 評者
- 北出俊昭 / 元明治大学教授
国連が日本農政に
厳しい警告
◆「国際家族農業年」の意義説く
この構成からも明らかなように、本書の注目すべき特徴の第1は「小規模農業とは何か」を問い、その存在の実態と意義を明らかにしていることである。報告書は小規模農業の基本的な特徴として「家族が大半(またはすべて)を自らの労働によって営んでいること」および「所得の大部分をその労働から稼ぎ出している」こと、つまり家族経営に求めている。そして「世界共通の定義は存在」せず国や地域によっても異なるが、もっとも一般的な基準の土地面積でみると、世界の全農業経営の73%は1ha未満であり、2ha未満だと85%に達するという(FAO2012年。81ヵ国集計)。
したがって報告書は、「小規模経営はほとんどすべての国や地域に存在しており、例外的な存在ではなく標準的な存在」であり、「低開発国のみではなく、中所得国やEU、OECD諸国でも小規模農業は重要な役割を担っている」と強調している。この指摘は重要で、コーリン・クラークの「古典的発展経路」とは異なった発展経路もあるという注目すべき実態も示されている。
◆国家戦略で小農保護を
第2の特徴は小規模農業の特徴と多面的な役割について述べていることである。報告書では小規模農業は家族農業なので自己労働へのインセンティブが強く、したがって面積当たりの生産性は高く、自分のための生産なので安定的で土地など自然資源の持続的使用を重視することを強調する。つまり、小規模農業は生産的・環境的に効率性の高い農業生産で、食料保障と環境保全に役立つだけでなく、多くの国では経済成長に寄与し社会的、文化的にも重要な役割を果たしているのである。 これは食料主権の確立はもとより、国連が重要課題としている飢餓と貧困を撲滅するうえでも、小規模農業の維持・発展が不可欠なことを示すものである。
それにもかかわらず小規模農業には、貧困による複合的な生産条件(土地や水など自然財へのアクセスや信用供与・施設整備の不利など)、市場条件(価格の乱高下、価格交渉力の欠如など)、制度的条件(権利保障の不十分など)のリスクがある。原著のタイトルが「食料保障のための小規模農業への投資」となっているのも、このリスクを乗り越え小規模農業への投資を強化することが、現在最も重要な課題となっているからである。
そのためには小規模経営自身が自らの農場の生産性を高める必要があるが、重要なのは金融サービス、市場改善、研究開発などの制度の機能改善で、このため各国に「小規模経営投資国家戦略」の策定を求めているのである。 第3の特徴は内容にも関係し、本文のなかだけでなく別に「ボックス」として各国の多様な実例が紹介されていることである。その詳細は省略するが、これにより読者は世界における小規模農業への理解を深めることができる。
◆日本の改革、世界に逆行
本書の日本語版への序文で、同委員会専門家ハイレベル・パネル議長らは、日本が進めている「農地の集約化と規模拡大」や「企業参入を促進するための規制緩和」について「国民に対し十分な食料、雇用、所得と生計を提供できるのか」、「食料保障と持続的発展を実現できるのか」という強い疑問が示されている。これは安倍政権が進めている世界の動向に逆行するような農業・農村政策に対する厳しい警告でもある。政府はどう答えるのか。
本年の国際家族農業年を契機に、本書が多くの読者をえて小規模家族農業を維持し発展させるための運動が広く展開されることを心より期待したい。
重要な記事
最新の記事
-
スーパーの米価 前週から23円上昇し5kg4335円 過去最高値を更新2025年12月5日 -
支え合い「協同の道」拓く JA愛知東組合長 海野文貴氏(2) 【未来視座 JAトップインタビュー】2025年12月5日 -
【浜矩子が斬る! 日本経済】『タコ市理論』は経済政策使命の決定的違反行為だ 積極財政で弱者犠牲に2025年12月5日 -
食を日本の稼ぎの柱に 農水省が戦略本部を設置2025年12月5日 -
JAの販売品販売高7.7%増加 2024年度総合JA決算概況2025年12月5日 -
ポテトチップからも残留農薬 輸入米に続き検出 国会で追及2025年12月5日 -
生産者補給金 再生産と将来投資が可能な単価水準を JAグループ畜酪要請2025年12月5日 -
第3回「食料・農林水産分野におけるGX加速化研究会」開催 農水省2025年12月5日 -
新感覚&新食感スイーツ「長崎カステリーヌ」農水省「FOODSHIFTセレクション」でW入賞2025年12月5日 -
(464)「ローカル」・「ローカリティ」・「テロワール」【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年12月5日 -
【スマート農業の風】(20)スマート農業を活用したJAのデジタル管理2025年12月5日 -
「もっともっとノウフク2025」応援フェア 農福連携食材を日替わりで提供 JA共済連2025年12月5日 -
若手職員が"将来のあるべき姿"を検討、経営層と意見交換 JA共済連2025年12月5日 -
IT資産の処分業務支援サービス「CIRCULIT」開始 JA三井リースアセット2025年12月5日 -
「KSAS Marketplace」に人材インフラ企業「YUIME」の特定技能人材派遣サービスのコンテンツを掲載 クボタ2025年12月5日 -
剪定界の第一人者マルコ・シモニット氏が来日「第5回JVAシンポジウム特別講演」開催2025年12月5日 -
野菜との出会いや季節の移ろいを楽しむ「食生活に寄り添うアプリ」リリース 坂ノ途中2025年12月5日 -
施設園芸向け複合環境制御装置「ふくごう君III」に新機能「ハウスリモコン」搭載 三基計装2025年12月5日 -
クリスマスを彩る米粉スイーツ&料理レシピ・アレンジを公開 米粉タイムズ2025年12月5日 -
「クリスマスいちご」最高金賞は2年連続で埼玉県本庄市「べにたま-X-」日本野菜ソムリエ協会2025年12月5日


































