現代社会と協同組合に関する12章

- 著者
- 北出俊昭
- 発行所
- 筑波書房
- 発行日
- 2018年6月14日
- 定価
- 1400円+税
- 評者
- 山海野 玄
JA全中OBで明治大学教授などを歴任した著者の「現代協同組合論」である。『文化連情報』の2017年4月号から1年間連載した内容を「その後の状況に応じて加筆修正」し、新たに「補章」を加え、計13章から成る総ページ133のハンディー・タイプに取りまとめている。「補章」では懸案の「農協の職能的機能と准組合員問題」を取り上げ、政権の恣意的な目論見を射程に入れて協同組合の自主性を唱えるアップ・トゥ・デートな「JA論」に仕上げている。
著者の近著には『協同組合本来の農協へ』『変革期における農協と協同組合の価値』『協同組合と社会改革』『農協は協同組合である』(いずれも筑波書房)などがあり、協同組合としてのJAの現代社会における存在理由を一貫して真摯に究めてきた。そうした一連の著作の第5弾と見なしてもよい。
機関誌連載の初出時から各章に随時目を通してきたが、一冊に取りまとめられて再読し、JAの課題や可能性に寄せる著者の並々ならない熱情に改めて引き寄せられた。科学的で冷静な論考と共に、難解になりがちな解析のメス捌きを平易に見せてくれる展開が印象的だ。時局に対する著者の押え難い怒りや切歯扼腕の思いも行間から時に垣間見え、血の通った独自の「現代協同組合論」になった。
グローバル経済を加速させる新自由主義の思潮に、現代の協同組合はいかに対峙し、対抗し得るのか。この究極の課題を、本書は格差の拡大・固定化に伴って増加の一途を辿る「経済的弱者」の立場に身を置き、協同組合の存在理由とその可能性を複眼的に探究する。国内にはJAの弱体化(解体)を図る強権的な勢力が大手を振ってまかり通る一方、国際的には「協同組合の思想と実践」をユネスコの無形文化遺産に登録する新たな潮流が生まれている。
本書はそうした現状の分析に加え、オウエン、サン・シモン、フーリエの共同社会思想やフォーケの協同組合セクター論、レイドロウの協同組合地域社会建設論、ミルや宇沢弘文の経済学さらには1995年ICA大会決定の特徴などを再検証し、現代の経済・社会改革に寄与する協同組合の立ち位置や戦略的な課題などに言及。「協同組合による社会改革論」では、モンドラゴン組合の事例から、次のような4つの示唆を引き出している。
「理想を失わないリアリズム」「日々の長期にわたる革命」「自主性・主体性の重視」「多数者による改革」。そして、これらの4点を「(主権者の)主体的参加を基本とした多数者改革」と集約し、協同組合が広汎な「社会改革運動の一翼」を担うべきであると唱えている。
その他、「地域再生の課題」「安心・安全な食料の安定供給」「医療・保健・福祉事業」などにも具体的な事例を交えて論及し、コンパクトではあるが、著者入魂の「現代協同組合論」を世に問うている。その旺盛な探究心に敬意を表したい。
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