つれづれの記(語り部の話材) みちのく 人・所・時代
- 著者
- 秋田義信
- 発行所
- 秋明社
- 発行日
- 2018年10月6日
- 定価
- 900円+税
- 評者
- 新谷優 / JA青森中央会総務課
92歳にして、今でも新聞やJA広報誌等にコラムを掲載する。その情熱と弛まぬ歩みには敬意を感じる。
著者は、大正15(1926)年7月生まれ。昭和22(1947)年、青森県農協中央会の前身となる青森県農業会に入会、その後農協中央会で要職を歴任、県農協学園長を勤められた。本書は、著者の体験や仕事を通じた交友、青森県内の風習や歴史の調査、研究などから得た知識をまとめた随想である。
冒頭の「頭に思い浮かぶままに」で満州での陸軍兵士時代の同僚のエピソードからはじまる。そこからむのたけじ、山下惣一、東畑精一、大槻正男等の著名人の言葉に著者の所感が続く。
「思い出す人々」「一言集」では、渋川伝次郎(青森県りんご協会創設者)、淡谷勇蔵(農民運動家,元衆院議員、歌手淡谷のり子の叔父)、佐藤建造(県農業会での著者の上司)、竹内俊吉(元県知事)、佐々木信介(弘前大学名誉教授)はじめ多くの農家、政治家との交遊の記録、人物録が記されている。著者の幅広い知見を裏打ちするもので、青森県の農業、社会、政治の戦中・戦後のうねりを知る上で貴重な資料と言える。その他「珍苗字・難読苗字」「青森県の多額納税者」「地主」等バラエティーに富んだ内容となっている。
「あとがき」では「先人、先輩のことを度々思い出す。その人の書いたものや語ったことなどを-。それには味がある。学ぶべきものがある。(略)埋没、消失してしまわないうちに書き留めておくのも老人の仕事」と執筆にいたった経緯が書かれている。齢92歳の大先輩が...。
また、著者が農業会に就職して間もない頃、夭折した作家の本ばかり読んでいるのを心配し、上司だった佐藤(前述)から勧められた内村鑑三の名著『後世への最大遺物』によって救われたエピソードが書かれている。おそらく著者の座右書ではないかと思われる。「勇ましい高尚な生涯」「真面目」という内村の一貫した主張が、本著に息づいているように感じられるからである。
ところで、著者の地元紙等や機関紙への寄稿の際、使用される肩書きは「元農協学園長」が多い。実際青森県内の農協役職員、組合員には著者の教え子が多く、現在も多くの方々が第一線で活躍している。
内村の精神が、藤井武、三谷隆正、南原繁等にその精神が受け継がれたように著者の精神もまた、多くの教え子に引継がれている。著者同様、農協人文化賞を受賞されたJA十和田おいらせの代表理事専務の小林氏はじめ、秋田イズムは脈々と受け継がれている。「協同組合の種を蒔く」ことが著者にとっての『後世への最大遺物』であり、著者が高く評価されるところである。
既成の価値観が大いに揺らぐ状況の中で、先人たちはどのような歩みをたどり、時代を切り開いていったのか。このようなとき過去の出来事を教材とし、対処していくことが肝要だと改めて感じさせる。
変化の激しい時代を生きた人々の生きざまに、関心と愛情のこもった著者のメッセージが、これからの農業・社会・人々のあり方をどのように捉え「あなたならどう考えるか?」と私たちに宿題を与えているように思える。
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