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食文化異論2014年1月14日

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【森島 賢】

 日本の食文化が、昨年暮れにユネスコの無形文化遺産に登録された。まことに喜ばしいことである。
 先日、テレビをみていたら、ある若い評論家が、日本食は世界一だ、と口走って、同席していたフランス生まれのフランソワーズ・モレシャン女史に諭されていた。文化に序列をつけるとは何事か、というわけである。
 ここでは、食文化の基礎に農業があること、その農業が食文化だけでなく、社会の基礎を形作っていることを見てみたい。

 筆者の友人が、かつてアメリカで下宿に住んでいたことがある。その下宿では、彼の好物の味噌汁と焼き魚を作ることを禁じられた。日本人は彼一人だけで、隣人の他国人から、不快な匂いがするという苦情が絶えなかったからだという。
 また、日本食の自慢は、ダシの旨さにあるという。コンブや鰹節のダシである。だが、それらは、他国人にとって、生臭いだけの不味い飲み物にすぎない。
 一方、フランスでは、うら若いお嬢さんたちが、食卓の上の血だらけの豚の頭を、丸ごとフォークでつついて食べるのだという。そのことに心的抑制は、まったくないという(鯖田豊之『肉食の思想』、以下の論説は、この著書に負うところが多い)。
 日本とフランスとの間に、これほどの違いがあるのは何故だろうか。それは、農業の違いである。

 農業の役割りは、いうまでもなく食糧の生産である。その第一義的な目的は、なるべく多くの食糧を生産することである。食糧を多く生産できれば、それだけ多くの子供を育てられるし、次三男を結婚させて家庭をもたせることができる。
 そうすれば、家族にとって、労働力が増え、多くの所得を稼ぎ、豊かな生活ができる。国家にとっては、経済力を増やせるし、兵力になって軍事力を増強できる。

 だから、各国はなるべく多くの食糧を生産するために、風土に順応し、風土を利用して、それぞれ違った農業を営んでいる。
 このばあい、風土とは、単純にいえば作物の生育に必要な温度と湿度である。積算温度と降雨量といってもいい。
 このようにみると、世界の農業は、積算温度と降雨量が、ともに多い東アジア農業と、ともに少ないヨーロッパ農業の2つの典型にわかれる。
 そして、それに伴って2つの食文化に大別される。下の図は、その様相を示したものである。

各国の食糧エネルギーの摂取源

 この図から分かるように、左側の東アジアは濃い緑色の部分が多い米食文化であり、右側の欧米は赤色の部分が多い肉食文化である。

 なぜ、これほど違うのか。
 それは、農業の違いによるし、風土の違いによる。
 東アジアには、高温多湿の季節がある。だから、なるべく多くの人を扶養するために、カロリー生産力が最も高い米を作る。
 だが、ヨーロッパの風土は、低温乾燥のため米を作れない。麦などの穀物さえ作れないところが多い。草だけは作れるので、それを家畜に食べさせて、その家畜の肉を食べる。なるべく多くの人を扶養するには、そうするしかない。
 ヨーロッパの草は、東アジアの草と違って柔らかい、という事情もある。だから、家畜が好んで食べる。アジアにあるような硬い草は、低温乾燥のために育たないのである。
 つまり、東アジアの農業は稲作農業で、ヨーロッパの農業は畜産である。その上に、図で示したような、それぞれの食文化が栄えている。
 日本の肉食などは、鯖田教授がいうように、パリのお嬢さんたちがみたら、ままごとのように見えるのだろう。

 農業の違いに基づく食文化の違いは、社会生活の違いをもたらす。それは、動物と人との関係にみられる。
 人が動物を食べるためには、動物は人とは全く違う、と考えねばならない。動物と人との間には絶対に越えられない断絶を設けなければならない。そうして動物の生命を絶つことに対する心的抑制を回避する。
 これがヨーロッパの考えである。ちなみに、キリスト教が進化論を公認したのは、つい最近の1996年で、断絶の弛緩である。
 これとは違って、東アジアには輪廻転生という仏教の考えがある。いま目の前にいる牛は、ご先祖さまの生まれ変わりかもしれない、と考える。動物と人との間には薄い壁しかない。

 ヨーロッパに肉食文化を作り上げた過酷な風土は、人と神との間の断絶をももたらす。人は神に絶対服従するしかない。そうしなければ生きていけないほどの過酷さである。だから、宗教は唯一の神だけを崇める一神教で、神と人との間には断絶がある。
 神を最上段に据えて、その下に人がいて、最下段に動物がいる、という階層秩序が形成される。
 東アジアには、これとは違って、どこにでも親しい神様がいる。トイレにも神様がいるそうだ。日本では、仏教伝来以前の古事記でも、八百万の身近な神様について語られている。

 ヨーロッパの過酷な風土に基づく断絶の思想は、さらに人と人との間の断絶にまで敷衍される。他人をむやみに信用していたのでは、生きてゆけない。こうして、強固な階級社会を作り上げる。神を最頂点にいただき、その下に王、神官、貴族、戦士、市民と続き、最下位に被征服者がいる。その下には断絶があって、動物が続く。
 だが、これは近代の平等思想と相容れない。にもかかわらず、階級はしたたかに残滓を残す。食文化はほとんどそのままの形で続く。農業の形も続く。

 欧米の人間主義や個人主義は、以上のような、農業に基づく文化的背景のなかで理解すべきなのだろう。
 結論を急ごう。
 図で示したような食文化の実態を無視した農産物の輸出政策は、成功しないだろう。
 多様な食文化を支える農業の多様性を無視したTPPなど農産物の自由貿易は、双方の利益にならない。
 経済格差を生み出す新しい階級社会の到来を警戒しよう。それは、欧米人のDNAに、肉食文化を通じて、深く、密かに組み込まれている。それを発現させてはならない。

 

(前回 米価下落の兆し(増補改訂版)

(前々回 農村の底力を見せつけよう

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