協同組合国家への展望2015年1月13日
新しい年が明けて、いよいよ本格的な農協攻撃が始まった。農協の激しい反撃も始まった。
一昨日の佐賀県知事選は、農協などが推薦した山口祥義氏が自公推薦の候補者を破った。マスコミは「佐賀の乱」と囃していたが、明治維新のときとは違い、こんどは地方勢力が中央政府の官軍を分裂させて、打ち負かした。
分裂させた張本人は、地方の実情を知らずに、農協攻撃の司令部である財界を代弁する規制改革会議や、足元の内閣官房である。
いま、地方は政府にたいする怨嗟の声で満ちあふれている。
西川公也農水相は、こうした地方の状況を事前に察知できず、また昨年末の総選挙で、あれほど批判されたのに農協攻撃を強め、全中の農協監査を法律的に否認しようとしている。全中が単協の自由を、前時代的に縛っているからだ、とくり返し言っているが、この根拠は根も葉もない。
農協は前時代的どころか、協同組合として時代の最先端を走っている。行き詰まった資本主義を打開するものとして、世界の協同組合の希望の星になっている。
だから、世界の10億人を擁するICA(国際協同組合同盟)は、日本政府の一連の農協攻撃に対して「家族農業の価値を認めず、企業による農業を促進しようとしている」として「非難声明」を出している。
◇
世界の協同組合をみると、それは当面、資本主義と共存しながら、しかし、次第にそれに取って代わろうとしている。
かつて、多くの人は資本主義の後にくるものは社会主義だ、と考えていた。しかし今は、この考えはすっかり自信を失っている。
誤りだったのだろうか。
◇
資本主義経済の根本は、土地や施設や機械などの生産手段の私的所有にある。
資本主義経済に限らず、生産手段を所有する者は、生産過程を指揮し統括し、生産物の分配を決定する。つまり、経済を支配する。経済を支配する者は、社会を支配し、国家を支配する。文化さえも支配する。このことは、古今東西の歴史に例外がない。彼らが社会のかたち、国のかたちを決めている。
つまり、いまの日本の社会や文化と人心の混乱は、彼らに責任がある。生産手段を私的に所有することを基本にする資本主義に、その根本原因がある。
したがって、日本を再興するには、生産手段の私的な所有権にメスを入れるしかない。
◇
所有権とは、教科書的にいえば、絶対的な支配権である。
「この紙は私の物だ」となれば、その紙に美しい絵を描いて飾ってもいいし、勝手に破ってゴミ箱に捨ててもいい。
しかし、生産手段は、そうできないことがある。自分の土地だからといって、それが住宅地の中にあれば、勝手に工場を建てて、大きな騒音公害を出すことは許されない。
所有権は絶対的な支配権だとはいっても、それは絵空事で、実際には何らかの制約を受け、現実的には相対的である。
◇
生産手段の私有を全否定して、社会有にするのが社会主義である。資本主義の全否定である。だが、その実像が描ききれていない。
生産手段の私有を全否定するには、政治の力で行うしかない。国家の仕事である。そうして社会主義国家になるのだが、これまでの経験では、社会主義国家は国民に社会主義という1つの世界観を強制するし、政治体制は一党独裁になる。ここに問題がある。
◇
これに対して協同組合は、生産手段の所有権は組合にあって、組合員が均等に持っている。だから、生産を支配し統括する権利は大出資者ではなく、全ての組合員が均等に持っている。そもそも、組合員は均等に出資するので、大出資者はいない。
協同組合を1つの社会とすれば、生産手段は協同組合という社会有になる。この点で社会主義に近い。しかし、社会主義という1つの世界観を強制しないし、一党独裁を容認しない。そうして、資本主義という世界観を全否定するのではなく、資本主義との切磋琢磨は積極的に評価する。
◇
そうかといって、協同組合は資本主義を全肯定はしない。資本主義がもたらす社会的害悪をたえず監視する。低賃金による労働者の搾取を厳重に監視して格差をなくす。それだけではない。資源の浪費や、環境の破壊も厳しく監視する。それは、協同組合と労働組合の組合員による全人間的な監視である。
監視の結果を無視して、資本主義が社会的害悪を流しつづければ、国家権力でそれを阻止する。そうして、生産手段の所有権の絶対性を制限して相対化する。それに耐えられない資本主義なら、縮小し、消滅するしかない。
◇
このようにして、協同組合を助長する国家体制が、ここでいう協同組合国家の原像である。世界の潮流は、試行錯誤を重ねながら、この方向へ向かって力強く進んでいる。
今年から本格的に始まる農協をめぐっての攻防は、こうした世界史的な潮流のなかで位置づけられるだろう。世界は、日本の農協を暖かい目で見守っている。
(前回 アメリカ的競争からアジア的協同へ)
(前々回 選挙の上手な自公)
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