黒いものは黒い2016年2月22日
「ならぬことはならぬものです」。これは会津の少年たちが守るべき掟である。会津育ちの友人のMさんが、そう言っていた。
愛しいわが子のいたずらを、こう言って諭す母親の目には、涙がいっぱい溜まっているのだろう。この掟には、そうした厳しさと、そして優しさがある。
表題は、それに似せたものだが、TPPの性質である。TPPは黒い協定だ。しかし、政府は、白いと言い張っている。そうして、全国を走りまわり、TPPは白い、と宣伝している。滑稽というしかない。農村の人たちは、あきれている。
黒いものは黒いのだ。
TPPは黒いか白いか、それをどう判断するか。
それは、TPPが国会決議を守っているか、破っているか、で判断しよう。守っていれば白で、破っていれば黒である。
国会決議では、TPP交渉で重要5品目が、「再生産可能となるよう」強く要求している。再生産が確保できないときは「除外又は再協議の対象とすること」、さらに「脱退も辞さない」こと、を要求している。つまり、再生産が可能かどうか、が白黒の判断の基準になる。再生産が可能なら白で、不可能なら黒である。
重要5品目は、農産物の主要な品目である。だから、再生産が可能なら食糧自給率を維持できる。しかし、不可能なら今でも39%という低い自給率を維持できない。
◇
政府は、TPP交渉でこの国会決議を守った、といっている。再生産は可能だ、といっている。だから白だ、というわけだ。たとえば、X村の0さんは、TPP以後も再生産できる、と紹介している。Y村のPさんも再生産できる、と紹介している。
だが、そうした事例を、全国を駆け回り、苦労していくつ見つけ出してきてもだめだ。国会決議は、日本の主要農産物が全体として再生産できることを要求している。つまり、食糧自給率を下げないことを要求している。TPPが白だ、と言いたいのなら、このことを説明しなければならない。それは不可能である。
◇
たとえば米をみてみよう。TPPで7万8400トン追加して輸入するという。これは、確実に自給率を下げる。輸入が増えるのだから、その分だけ国産米は再生産できなくなる。自給率が下がるのは明らかである。
輸入した分だけ備蓄して、その後、飼料にするという。だが、そうしても、その分だけ国産の飼料米が再生産できなくなる。
肉はどうか。TPPが発効すれば、肉の関税が下がる。そうなれば、安い価格の肉が輸入される。その分だけ国産肉は再生産できなくなる。その分だけ自給率が下がる。
つまり、米と肉だけをみても、TPPはマッ黒である。
◇
TPPが発効すれば、食品の輸出が増えるから、食糧自給率が上がるという。これがTPPは白だ、とする根拠だという。だが、理屈倒れで、実効性はほとんどない。
輸出食品の中に占める農産物の割合をみると、それは極めて僅かでしかない。
米をみると、2015年の輸出量は7640トンに過ぎない。追加輸入米の7万8400トンと比べて、1桁少ない。国内収穫量の798万6000トンの0.1%にもならない。
◇
米輸出は、いわゆる攻めの農政の切り札にされてきた。日本の米は旨いから、どしどし輸出できる、という訳だ。20年前から、そう言われつづけてきた。しかし、20年経ったいまも、輸出の実績は、この程度である。今後、かりにTPPが発効したとしても、輸出量が急に増えるとは考えられない。
もう一つ留意すべきことは、攻められる国の農業者の苦悩である。それは、農産物輸入大国の日本の農業者が味わっている苦悩と同じである。
◇
そのうえ、米の輸出による自給率の向上は、机上の計算にすぎない。非常時になれば、輸出を禁止して、その分を国内で消費できるから、その分だけ自給率が上がるという計算である。
しかし、非常時になれば、膨大な量の食糧輸入ができなくなる。その結果、食糧安保が危機に陥る。
食糧安保のためには、国内農業を振興して、自給率を上げるしかないのである。だが、TPPはこれに反して、再生産を確保せず、国内農業を振興せず、食糧安保を危うするのもである。だから、TPPはマッ黒なのである。
◇
政府は、農政新時代キャラバンと銘打ち、全国をまわってTPPは白だ、と宣伝した。そうして顰蹙をかった。その後は、農水省の地方参事官ホットラインというもので、TPPは白だ、という宣伝を続けている。そうして、マッ黒いTPPを、白だ、と言いくるめようとしている。無駄な努力だ。
そんなことを、何度くりかえしてもダメだ。黒いものは黒い。
◇
最後に、もう一言いっておきたい。
政府は、農協の頭越しで、農業者に直接宣伝している。それは、農業者が結集する組織としての農協の無視であり、否認である。全中の代表機能を損なうものでもある。
農協組織は、これを見過ごしていいのだろうか。組織の存亡にかかわる重大な問題である。
(2016.02.22)
国会決議 はココを...
(前回 参院選直前の異例な農政論議)
(前々回 小泉農政には食糧安保論がない)
(「正義派の農政論」に対するご意見・ご感想をお寄せください。コチラのお問い合わせフォームより、お願いいたします。)
重要な記事
最新の記事
-
第21回イタリア外国人記者協会グルメグループ(Gruppo del Gusto)賞授賞式【イタリア通信】2025年7月19日
-
【浜矩子が斬る! 日本経済】「政見放送の中に溢れる排外主義の空恐ろしさ」2025年7月18日
-
【特殊報】クビアカツヤカミキリ 県内で初めて確認 滋賀県2025年7月18日
-
【注意報】水稲に斑点米カメムシ類 県内全域で多発のおそれ 滋賀県2025年7月18日
-
【注意報】水稲に斑点米カメムシ類 県内全域で多発のおそれ 兵庫県2025年7月18日
-
『令和の米騒動』とその狙い 一般財団法人食料安全保障推進財団専務理事 久保田治己氏2025年7月18日
-
主食用10万ha増 過去5年で最大に 飼料用米は半減 水田作付意向6月末2025年7月18日
-
全農 備蓄米の出荷済数量84% 7月17日現在2025年7月18日
-
令和6年度JA共済優績LA 総合優績・特別・通算の表彰対象者 JA共済連2025年7月18日
-
「農山漁村」インパクト創出ソリューション選定 マッチング希望の自治体を募集 農水省2025年7月18日
-
(444)農業機械の「スマホ化」が引き起こす懸念【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年7月18日
-
【サステナ防除のすすめ2025】水稲害虫の防ぎ方「育苗箱処理と兼ねて」2025年7月18日
-
最新農機と実演を一堂に 農機展「パワフルアグリフェア」開催 JAグループ栃木2025年7月18日
-
倉敷アイビースクエアとコラボ ビアガーデンで県産夏野菜と桃太郎トマトのフェア JA全農おかやま2025年7月18日
-
「田んぼのがっこう」2025年度おむすびレンジャー茨城町会場を開催 いばらきコープとJA全農いばらき2025年7月18日
-
全国和牛能力共進会で内閣総理大臣賞を目指す 大分県推進協議会が総会 JA全農おおいた2025年7月18日
-
新潟市内の小学校と保育園でスイカの食育出前授業 JA新潟かがやきなど2025年7月18日
-
令和7年度「愛情福島」夏秋青果物販売対策会議を開催 JA全農福島2025年7月18日
-
「国産ももフェア」全農直営飲食店舗で18日から開催 JA全農2025年7月18日
-
果樹営農指導担当者情報交換会を開催 三重県園芸振興協会2025年7月18日