「攻めの農政」に黄信号2016年5月16日
先週末、農水省が発表した資料をみると、3月の農林水産物の輸出額は昨年同月と比べて減った。いよいよ農林水産物の輸出に、黄信号が灯ってきたようだ。
政府は、2020年までに農林水産物の輸出額を1兆円に増やすといい、「攻めの農政」の主柱にしている。しかし、今年に入ってから輸出額が増えていない。
昨年同月と比較すると、1月は4.7%減少した。2月は5.9%増加したが、今年は閏年だったので、昨年と比較するために修正すると2.2%の増加にすぎない。3月は再び減少して、0.7%の減少になった(下の図を参照)。3か月連続の停滞である。こんなことは、最近3年間になかったことである。
やや詳しく見よう。
最近の3年間で、農林水産物の輸出額は増え続けてきた。そうして、2015年の輸出額は0.745兆円にまでなった。これは対前年比で21.8%の増加だった。2014年は対前年比で11.1%の増加、2013年は対前年比で22.4%の増加だった。
この勢いで増え続ければ、2020年までに1兆円になる、と思う人も一部にいる。しかし、今年に入って、この勢いは頓挫した。何故か。
◇
過去3年間、輸出額が猛烈な勢いで増えたのは、円が安くなったからである。1ドル80円以下だったが、昨年は120円を超えて円安になった。このため、円で計算した輸出額が増えた。
このように、増えた主な理由は円安である。だから、輸出額をドルで計算すると、過去3年間、ほとんど増えていない。横ばいである。
その円ドルレートが、今年に入って円高に逆転した。その結果、円で評価した輸出額が逆転して減ったのである。
◇
だから、今後、円で計算した輸出額を増やすには、いまの円高を再逆転して円安にするしかない。2015年は1ドルが120円だったから、輸出額の0.745兆円を1兆円にするには、円をさらに安くして、1ドル160円にするしかない。
しかし、国際的にみて、アメリカなどが、それほどの円安を許容するとは思えない。通貨安競争は、各国の非難の的になっていて、来週行われる仙台G7会議の重要議題の1つは、通貨安競争の自粛である。
また、たといアメリカなどが許容しても、ドルで評価した輸出額は、あいかわらず増えない。それだけではない。日本国内は輸入インフレが深刻になって、国民生活を脅かす。だから、国民は許容しないだろう。
つまり、1兆円の農林水産物輸出は、国際的にみても、国内的にみても、画餅に終わるだろう。
◇
最後に言っておきたい。
1つは、現状の農林水産物輸出は、わが国の食糧自給率の向上には、ほとんど貢献しないことである。
もう1つは、輸出金額のうち、農業者の所得になる部分は、きわめて僅かな金額でしかないことである。
だからといって、輸出振興政策に反対するわけではない。
しかし、「攻めの農政」などと大げさに言って、農政の主要な柱にし、他に目ぼしい柱がない、という政策の貧困を指弾したい。
また、TPPで農林水産物が輸出しやすくなって、それがTPPの主要な利点だ、とする主張は、現実をみない空論である。厳しく糾弾したい。
(2016.05.16)
(前回 わが村は理想社会に最も近い)
(前々回 北海道5区の衆議院補選の教訓)
(「正義派の農政論」に対するご意見・ご感想をお寄せください。コチラのお問い合わせフォームより、お願いいたします。)
重要な記事
最新の記事
-
「良き仲間」恵まれ感謝 「苦楽共に」経験が肥やし 元島根県農協中央会会長 萬代宣雄氏(2)【プレミアムトーク・人生一路】2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(1)2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(2)2025年4月30日
-
アメリカ・バースト【小松泰信・地方の眼力】2025年4月30日
-
【人事異動】農水省(5月1日付)2025年4月30日
-
コメ卸は備蓄米で儲け過ぎなのか?【熊野孝文・米マーケット情報】2025年4月30日
-
米価格 5kg4220円 前週比プラス0.1%2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間にあたり】カビ防止対策徹底を 農業倉庫基金理事長 栗原竜也氏2025年4月30日
-
米の「民間輸入」急増 25年は6万トン超か 輸入依存には危うさ2025年4月30日
-
【JA人事】JAクレイン(山梨県)新組合長に藤波聡氏2025年4月30日
-
【'25新組合長に聞く】JA新潟市(新潟) 長谷川富明氏(4/19就任) 生産者も消費者も納得できる米価に2025年4月30日
-
備蓄米 第3回は10万t放出 落札率99%2025年4月30日
-
「美杉清流米」の田植え体験で生産者と消費者をつなぐ JA全農みえ2025年4月30日
-
東北電力とトランジション・ローンの契約締結 農林中金2025年4月30日
-
大阪万博「ウガンダ」パビリオンでバイオスティミュラント資材「スキーポン」紹介 米カリフォルニアで大規模実証試験も開始 アクプランタ2025年4月30日
-
農地マップやほ場管理に最適な後付け農機専用高機能ガイダンスシステムを販売 FAG2025年4月30日
-
鳥インフル 米デラウェア州など3州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入停止措置を解除 農水省2025年4月30日
-
埼玉県幸手市で紙マルチ田植機の実演研修会 有機米栽培で地産ブランド強化へ 三菱マヒンドラ農機2025年4月30日
-
国内生産拠点で購入する電力 実質再生可能エネルギー由来に100%切り替え 森永乳業2025年4月30日
-
外食需要は堅調も、物価高騰で消費の選別進む 外食産業市場動向調査3月度 日本フードサービス協会2025年4月30日