ポリシーブックに期待2016年5月31日
本紙4月30日号に掲載された太田原高昭氏による、自民党新人が野党一本化の無所属新人に、僅差で勝利した衆院北海道5区補選結果の分析で注目したのは次の2点である。
(1)自民党新人の勝因は、「自衛隊と農協」に圧倒的な強みを見せたこと。
(2)農村部では自民党新人の票が、前回の自民票を上回った。
その仕掛けは、農協に対する自民党のオルグの徹底。殺し文句は「TPPは大筋合意で終わった、あとは国内対策だ」。安倍総理は選挙区内の全農協組合長に直接電話をかけたという。農協もTPP問題を棚上げにしたまま、農政連(農協と表裏一体)が早々と自民党新人の支持を表明した。
太田原氏は、「TPP反対運動の先頭に立っていた農協が推進側の候補を支持することは明らかに道理に合わないのだが、その矛盾は矛盾のままに置かれたように見える」と、至極常識的なコメントをしている。
しかしTPP、農協法改悪、解釈改憲による安保法制等々、これだけ好き勝手にやられていても、大票田であった農協陣営にはこの常識は通用しないようだ。
政府に不満あるが
これを裏付けるような興味深いエピソードが日本経済新聞4月14日号の「暗闘農政改革3」に載っている。
〝4月上旬、自民党が札幌市内で開いた衆院北海道5区の補欠選挙対策会議。「また俺たちをだますのか」。突然、怒気をはらんだ声が響いた。声の主は5区内にあるJAの組合長。政府の規制改革会議が8日に提言した生乳の流通自由化に反発した。同組合は今もTPPに反対している〟とのことだが、選挙の時はどうされたのだろうか。
あるJAの中期経営計画に、「農業とくらしを守り地域にくらす人々の共感をよぶ農政活動」を行うことがあげられていた。
だまされてもだまされても、JAの常識をくり返していたら、共感はおろか取り返しのつかない反感を呼ぶこと必至である。
共感をよぶ農政運動のヒントを『地上』6月号の〝アメリカの農政運動はなぜ強いのか〟という記事が教えてくれている。
まず、アメリカの農業団体(AFBFとかNFUなど)は、選挙では一方の党だけを支持することを避けるとともに、農業団体のほとんどが民主、共和両党の政治資金管理団体に献金しているとのことである。理由はもちろん、農業団体はできるだけ中立姿勢でいるほうが有利だと考えるからである。
この農業団体がロビー活動をするときに活用されているのが、構成員の経営発展に軸足をおき、関係する法律や制度についての立場を表明した〝ポリシーブック〟(以下、PBと略す)である。
青年部活動に共感
これをルーツとして、JA全青協においても、行動目標と政策提案を兼ね備えた「JA青年部の政策・方針集」としてPBの作成がすすめられている。導入の契機は、2009年の政権交代である。新政権との関係がほとんどないため、若手農業者の課題や意見を政府・与党に伝える機会を失うことになった。
それまでの農政活動では、政権交代が起きるたびに若手農業者の声を届けられなくなり、全国組織としての役割が果たせなくなることを危惧した当時の執行部が、頻繁に政権が交代している米国の農業団体の取り組みを視察し、PBの存在と有効性を学び導入することになった。
今年1月のPBに関する米国視察の感想を中心とした『地上』の対談で、黒田栄継氏(JA全青協参与)は、〝どこの政党というのではなく、PBを支持して推進してくれる議員を応援する。これがまさに『政治的中立』なんだよね。われわれのJA青年組織綱領にも、「食と農の価値を高める責任ある政策提言を行う」とある。この点は見習うべきところかもしれない〟と語り、横尾隆登氏(2015年度JA全青協理事)も、〝おれたちの世代の多くがJAの組合長や理事になったときに、JAグループ全体のPBができあがれば、農政運動はもっと強くなる〟と、語っている。
残念ながら、ポリシーブックの取り組みはいまだ道半ばである。しかし、その作成の過程は、若き農業者の世界を広くて深いものにしてくれるはずである。 広さと深さに裏打ちされた矛盾なき農政活動こそが、多くの人々の共感を呼び起こすことになる。
重要な記事
最新の記事
-
「良き仲間」恵まれ感謝 「苦楽共に」経験が肥やし 元島根県農協中央会会長 萬代宣雄氏(2)【プレミアムトーク・人生一路】2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(1)2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(2)2025年4月30日
-
アメリカ・バースト【小松泰信・地方の眼力】2025年4月30日
-
【人事異動】農水省(5月1日付)2025年4月30日
-
コメ卸は備蓄米で儲け過ぎなのか?【熊野孝文・米マーケット情報】2025年4月30日
-
米価格 5kg4220円 前週比プラス0.1%2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間にあたり】カビ防止対策徹底を 農業倉庫基金理事長 栗原竜也氏2025年4月30日
-
米の「民間輸入」急増 25年は6万トン超か 輸入依存には危うさ2025年4月30日
-
【JA人事】JAクレイン(山梨県)新組合長に藤波聡氏2025年4月30日
-
【'25新組合長に聞く】JA新潟市(新潟) 長谷川富明氏(4/19就任) 生産者も消費者も納得できる米価に2025年4月30日
-
備蓄米 第3回は10万t放出 落札率99%2025年4月30日
-
「美杉清流米」の田植え体験で生産者と消費者をつなぐ JA全農みえ2025年4月30日
-
東北電力とトランジション・ローンの契約締結 農林中金2025年4月30日
-
大阪万博「ウガンダ」パビリオンでバイオスティミュラント資材「スキーポン」紹介 米カリフォルニアで大規模実証試験も開始 アクプランタ2025年4月30日
-
農地マップやほ場管理に最適な後付け農機専用高機能ガイダンスシステムを販売 FAG2025年4月30日
-
鳥インフル 米デラウェア州など3州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入停止措置を解除 農水省2025年4月30日
-
埼玉県幸手市で紙マルチ田植機の実演研修会 有機米栽培で地産ブランド強化へ 三菱マヒンドラ農機2025年4月30日
-
国内生産拠点で購入する電力 実質再生可能エネルギー由来に100%切り替え 森永乳業2025年4月30日
-
外食需要は堅調も、物価高騰で消費の選別進む 外食産業市場動向調査3月度 日本フードサービス協会2025年4月30日