2016秋の政治課題―安倍政権が直面する三つの撞着2016年8月25日
「二兎を追う者は一兎をも得ず」(イギリスの諺)
◆「三兎」を追ってきた安倍首相
安倍首相は今まで「二兎」どころか「三兎」を追ってきました。
安倍首相の表看板は「デフレからの脱却(アベノミクス)」ですが、安倍首相はこの重要課題一つに全精力を集中することなく、同時に他の課題を進めてきました。
その一つは、秘密保護法、新安保法制制度でした。そしていま憲法改正に照準を合わせようとしています。
もう一つはTPP推進、米国の中国孤立化政策への同調・沖縄米軍基地増強などの日米協調(本質は従属)路線の推進です。
安倍首相は、少なくとも、以上の三大課題(デフレ脱却・安保と憲法・TPP)を同時並行的に進めてきました。
ところが、これは大きな矛盾です。
二つの問題―デフレ不況脱却とTPP、日本の経済成長と米国の中国孤立化政策への同調―だけをみても安倍政権の矛盾は明らかです。
日本のデフレ不況からの脱却とTPP推進とはまったく正反対の政策です。日本のデフレ不況からの脱却の実現は、新自由主義グローバリズムに反抗しなければ不可能です。しかしTPPは新自由主義グローバリズムに沿った政策です。
デフレ不況脱却のためには農業再生が必要不可欠ですが、TPPは日本の農業を崩壊させる恐れの強い政策です。安倍内閣の基本政策は矛盾しているのです。
また、デフレ不況脱却のためには日本とアジア諸国とくに中国との協調が必要ですが、安倍首相は米国政府に追随して反中国政策をとっています。この点も矛盾しています。安倍内閣は無理を押し通しているのです。
こんなことを可能にしたのは「安倍一強体制」が確立したからでした。自民党内に安倍政権政治への批判勢力は存在せず、また国会では野党勢力は虚弱です。マスコミは墜落し、「安倍一強体性」の用心棒的存在になっています。
しかし、2016年秋に、この矛盾が露呈する可能性が高まってきています。多くの国民はアベノミクスの実効性に疑問を抱き始めています。自民党内に弱小勢力とはいえ批判勢力が動き出しました。追いつめられた野党の中に「窮鼠猫を噛む」に似た気分がうまれてきています。
安倍内閣が二兎を追いつづけることは困難になってきているのです。安倍首相が念願の超長期政権を実現するためには少なくとも「デフレ不況脱却」の一事に政権の全精力を集中し、TPPを断念することが必要になっているのです。安倍首相が「二兎を追う」ことにこだわりつづけるならば、政府が危機に直面するのは時間の問題だと思います。
◆世界構造の大転換への対応能力の欠如
安倍政治は以上の問題よりさらに大きな矛盾に直面しています。それは、世界の構造変化が起きているにもかかわらず対応能力が欠如しているのです。
日米関係の根本変化はすでに始まっています。共和党のトランプ候補が当選すれば、今までの日米関係は瞬時に崩壊するでしょう。民主党のヒラリー・クリントンが大統領になった場合にも、トランプの場合よりも速度はおそくなりますが、日米関係は根本的に変わるでしょう。新大統領が登場するのは5ヵ月後に迫っています。その時、オバマ政権に忠実すぎるほど忠実だった安倍首相への態度が一変する可能性があるのです。
日本が依拠すべきはアジアです。とくに中国との協力関係が大切です。日本は、米国政府の対日政策の根本変化に備えて、中国との関係修復を急がなければなりませんが、安倍内閣はオバマ政権の対安倍感情を忖度(そんたく)していて動こうとしていません。安倍政治は薄氷を踏むような状況におかれているのですが、残念ながら気付いていないようです。
◆憲法改正がすぐにできると思うのは錯覚
安倍首相は憲法改正に前のめりになっています。自民党も野党もマスコミも、改憲4党(自公、おおさか維新、いのち)の議席数が衆参両院とも三分の二を超えたとして憲法改正が政治日程に上ったとみていますが、これは大きな錯覚ではないか、と私は思います。
今の時期の憲法改正には二つ問題があります。一つは現局面における優先課題の選択の問題です。現実に解決すべき政治、経済、外交上の問題よりも憲法改正を優先させるようなことが許されるか、ということです。憲法改正には巨大なエネルギーが必要です。簡単にできることではないのです。
もう一つは、衆参両院で三分の二以上の賛成によって憲法改正案を作成することは容易ではない、ということです。安倍首相と自民党が、憲法第九条の改正に固執するならば、改正案を作成することはほとんど困難だと私は思います。
政府もマスコミも、改憲4党のなかに公明党を含めていますが、公明党が九条を含む憲法改正に賛成することはありえないと思います。「安倍一強体制」は磐石ではないのです。秋の臨時国会と10月の二つの衆院補選は安倍政権にとって大きな試練となるでしょう。政治指導者が傲慢になれば崩壊が始まるでしょう。
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