(022)「食料」と「食糧」、「学習」と「学修」2017年3月10日
「食料」と「食糧」はどこが違うのか?この件については過去数年間、様々な機会を活用して話をしてきた。簡単に言えば、「食料」は食べ物全てのことであり、「食糧」は主食のことである。そうなると、「日本の主食は何か?」という問題に突き当たる。
誤解を恐れずに言えば、現代日本においては、コメとコムギが車の両輪のように主食として機能しているし、その背景を説明することは授業や講演・研修の内容の一部である。
さて、今回の焦点はそこではない。先日、あるテレビ番組で偶然、これら2つの言葉の違いを説明している場面を見た。ちなみに以下はその番組とは何の関係もない。
手元の辞書によれば、2つの用語は以下のように記されている。
「食料」
・魚肉類・野菜・果実など、主食以外のものを指すことが多い。(明鏡)
・一般に主食以外の、肉、野菜、調味料など。(新漢語林)
・食べ物とするもの、食料品。(広辞苑)
「食糧」
・食用とする糧。糧食。食物。主として主食物をいう。(広辞苑)
例のテレビ番組の説明も概ね、似たようなものであったと記憶している。
※ ※ ※
それでは、この2つの用語はどちらが「古い」のであろうか?一般的な印象としては、ほぼ間違いなく「食糧」であろう。ところが、こういう内容は、しっかりと調べてみるに限る。勤務先の大学の図書館で日本国語大辞典と大漢和辞典を調べたところ、以下のように記されていた。(記述そのものは筆者がわかりやすくまとめなおしている。)
「食料」
(1)食物の原材料。食用にするもの。また、食べ物。じきりょう。
(2) 食事の代金。毎日の食事の代価。まかない料。
中国では魏書・高恭之伝に記載あり。日本では正倉院文書・天平2(730)年、大倭国正税帳に「食料」の記載あり。
「食糧」
食用とする「かて」食物。特に旅や戦争などに携帯する米・麦などの主食。糧秣。
中国では漢書巖助傳に記載あり。日本では続日本紀、天平4(732)年5月に記載あり。
魏書は三国時代となれば成立は概ね3世紀の終わり、漢書は前漢の歴史書であり、成立は1世紀頃と見れば「糧」の方が「料」よりもはるかに古い。ところが、わが国の記録では「料」の方わずか2年ではあるが古いことが面白い。普通に考えれば、8世紀の時点では既に両方の字が用いられていたということであろう。「料」も「糧」もいずれも古い字ということになる。このあたりは本職の研究者と話をしてみたい。
メディアや研究者によっては、本来「食料自給率」と書くべきところを「食糧自給率」と記しているし、学生のレポートや卒論発表を見ても混在している例は数限りない。どちらもfoodと言えばそれまでだが、それでは身もふたもない。筆者も授業等で一度はしっかりと伝えてはいても、これだけ混在させられると、もはや語源まで遡り正す気にもならないのが率直なところである。
少し気をつけていれば、農業に関する最も重要な法律のひとつに、かつては「食糧管理法」という法律が存在したし、「農業基本法」は「食料・農業・農村基本法」となっていることがわかる。たかが1文字、されど1文字ということだ。
※ ※ ※
さて、似たようなものに「学習」と「学修」がある。
「学習」はもちろん、「論語」の「学而時習之。不亦説乎。(学びて時に之を習う。またよろこばしからずや)」から来ている。中高時代の漢文で辟易した人でも恐らくは覚えている表現であろう。これは孔子の生きた時代から考えれば、約2500年という時間の試練を耐え抜いた古人の知恵の結晶である。
これに対し、「学修」は2012(平成24)年8月の中央教育審議会答申から一般的に用いられたとされる。現在、大学教育の現場ではありとあらゆる公式資料の文言が「学習」から「学修」に代わり、どちらが本家かわからない学生も多い。今では小中高でも同様な動きが出ているようだ。「音」は同じでもこの新しい言葉、はたして今後、同じだけの時間の試練に耐えきれるのであろうか。
将来、後代の日本人が「この時代の日本人が...」とならないことを祈るのみである。
である。
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(140)-改正食料・農業・農村基本法(26)-2025年5月3日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(57)【防除学習帖】第296回2025年5月3日
-
農薬の正しい使い方(30)【今さら聞けない営農情報】第296回2025年5月3日
-
【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】「盗人に追い銭」「鴨葱」外交の生贄にしてはならぬ農産物2025年5月2日
-
【2025国際協同組合年】情報を共有 協同の力で国際協力 連続シンポスタート2025年5月2日
-
イネカメムシが越冬 埼玉、群馬、栃木で確認 被害多発の恐れ2025年5月2日
-
九州和牛をシンガポール人に人気のお土産に 福岡空港で検疫代行サービスを開始 福岡ソノリク2025年5月2日
-
就労継続支援B型事業所を開設し農福連携に挑戦 有機農家とも業務提携 ハピネス2025年5月2日
-
宮崎ガス「カーボン・オフセット都市ガス」 を県庁などに供給開始 農林中金が媒介2025年5月2日
-
5月29日から「丸の内 日本ワインWeeks2025」開催 "日本ワイン"を学び、楽しむ3週間 三菱地所2025年5月2日
-
協同心の泉 大切に 創立記念式典 家の光協会2025年5月2日
-
【スマート農業の風】(14)スマート農業のハードルを下げる2025年5月2日
-
(433)「エルダースピーク」実体験【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年5月2日
-
約1cm程度の害虫を強力捕獲「吊るしてGET虫ミニ強力タイプ」新発売 平城商事2025年5月2日
-
農中情報システム 自社の導入・活用のノウハウを活かし「Box」通じたDX支援開始2025年5月2日
-
洗車を楽しく「CRUZARD」洗車仕様ホースリールとノズルを発売 コメリ2025年5月2日
-
戦後80年の国際協同組合年 世代超え「戦争と平和」考える パルシステム神奈川2025年5月2日
-
生協の「地域見守り協定」締結数 全市区町村数の75%超の1308市区町村に到達2025年5月2日
-
ムコ多糖症ニホンザルの臨床徴候改善に成功 組換えカイコと糖鎖改変技術による新型酵素2025年5月2日
-
エフピコ×Aコープ「エコトレー」など積極使用で「ストアtoストア」協働を拡大2025年5月2日