【小松泰信・地方の眼力】安倍政権にこそタックル2018年5月23日
東京新聞(5月22日)の佐藤正明氏による風刺漫画、落語家の一席風四コマ仕立て。「なんでしょうね 『働き方改革』ってんで 働き方もお上の世話になる時代でございまして」「私なんざ高度プロフェッショナルだから 残業代はつきませんけどね ええ」「かたやIR法案っていうんですか? これがまた働いたらギャンブルでいやしなさいよ てなことで『遊び方改革』」「なんでも 愛あーる法案らしいですよ」、お後はよろしくありません。困ったことに…
◆愛の創生で悪魔祓い
愛といえば、「親が憎くて嫌いです」ではじまる人生相談(毎日新聞、21日)への作家高橋源一郎氏の回答は示唆に富んでいる。
「親は子どもに、愛情も注ぐけれど、『呪い』もかけるのです。それは、あなたが親から受け継ぐマイナスの部分です」と"親の呪い"を説明し、「家を出るだけでは、あなたの『自立』は完成しません。あなたは、『親の呪い』も解かなければならない。『親への憎しみ』を、別の何かへの愛に変えてゆかなければならないのです。その『愛』がどんなものであるのかはわからないけれど」と、愛への転生を教えています。確かに、憎しみだけでは相手の思う壺、負のスパイラル。愛を育み、新しい希望を生み出すことではじめて、悪魔祓いは成就する。
作家高村薫氏が、河北新報(5月15日)に、「もはや腹を立てるだけ虚しい、それほどの惨状です」ではじまる、鋭い時評を寄せている。題して"不祥事にしら切る官邸・官僚"。冒頭の文はさらに、「一国の首相の配偶者の振る舞いに振り回されている政治の現状も、取り繕うのに必死の内閣も、ひたすら追従するだけの与党や官僚も、そして次元の低さを冷笑するだけの有権者も、全てが最低・最悪。けれども、これが民主主義国家を標榜する日本の、掛け値なしの実像なのです」と続く。そして、「政治を私物化して公文書の改ざんまで引き起こした上に誰も責任を取らない。こんな政治家に重要法案の審議などさせてはならない。これが原理原則です。政治の停滞がもたらす不利益は、こんな政治を許してきた私たち有権者の自業自得なのです」と、有権者の責任に言及する。さらに、「今回の不祥事では、官邸も官僚も一線をはるかに越えていても、のうのうとしらを切る。...これは真実や正義が価値を持たなくなった世界の出現を意味する」とし、「文明の終わりの始まりなのかもしれません」と、憂慮する。
有権者が憎悪や怒りだけに終始するなら、文明の終わりに加担するだけ。いかなる愛を創るべきかが問われている。
◆農業保護の約束は反故
いつまでモリ・カケやってるんだという、一方の世論に後押しされて、いわゆるCPTPP(米国を除く環太平洋連携協定)の承認案が18日、衆院を可決・通過した。重要法案の一つでありながら、6時間程度の審議での凶行とも呼ぶべき強行採決。憲法61条【条約の承認に関する衆議院の優越】により、承認・発効間違いない。諦めの境地なのか、社説等で取り上げているのは、日本農業新聞としんぶん赤旗ぐらい(両紙とも19日)。
日本農業新聞・論説は、「そもそもTPPは、利害関係者だけでなく識者・専門家を含めて国論を二分する大問題だ。政府・与党は最低限、丁寧に議論ができる環境を提供すべきだった。拙速な審議運営に強く抗議する」と、怒りを隠せない。そして、「特に懸念されるのが農業だ」とする。彼の首相が、17日の衆院内閣委員会で、「農家との約束がある。農業分野でこれ以上の譲歩はない」と、踏み込んだそうだが、虚言亡者の台詞ゆえに、農業保護は反故となるはず。そうはさせじと、「議論すべきことは多い。拙速主義は国民の不信を膨張させるだけだ」と、訴える。
しんぶん赤旗・主張は、「農業が壊滅的な打撃を受け、食の安全や医療、雇用、地域経済も脅かされるため、広範な団体・個人が反対」してきたにもかかわらず、「農業や国のあり方に関わる重大な協定の批准を、まともな審議もしないで強行するのは断じて許せません」と、糾弾する。そして「経済主権や食料主権を尊重する平等・互恵の貿易ルールを目指すべきで、そのためにもTPP11の批准は断念すべき」として、それに向けた世論の集中を促している。
◆それでも支持するようです
共同通信社が5月12、13日に実施した世論調査(回答者数1045人)によれば、安倍内閣の支持率は38.9%。分からない・無回答の10.8%を消極的支持者とすれば合計49.7%。国民のほぼ半分が支持している。しかし、首相は信頼されていない。
支持する政党は、自民党がダントツの37.1%。これに消極的支持者と見なされる、支持政党なし34.2%を加えると71.3%。国民の7割は自民党支持と見ておくことが肝要である。
そして、つぎに示す三つの状況から、内閣も自民党もしばらく安泰であることが予想される。
(1)売り手市場の就職戦線。文部科学省と厚生労働省が18日に発表した資料によれば、今春卒業した大学生の就職率は98%で、過去最高。高校生も98.1%で1991(平成3)年3月以来27年ぶりの高水準。「景気が回復基調にあることや企業の採用意欲が改善したことで、学生の希望に合う機会が増えた」とは厚労省の担当者のコメント(日本農業新聞19日)。
(2)今夏のボーナス増。日本経済新聞(21日)によると、同社が20日にまとめた賃金動向調査によれば、今夏のボーナス(8日時点、中間集計)は支給額が昨年同期比4.62%増。
(3)好調な株価。同紙(22日)は"日経平均2万3000円台 先進国に資金回帰 3ヶ月半ぶり、業績期待も"との見出しで、その好調振りを伝えている。市場関係者も、「年後半にかけて株高基調が強まっていく」とのご託宣。
放言居士副総理のまねをすれば、「これだけの好材料にもかかわらず、恩恵に浴していない人は、"よっぽど運の悪い人"」となる。子弟の就職戦線に異状なく、懐具合も好転し、株価が安定上昇傾向にある時に、退場させようとするうねりは生じにくい。
◆常識の賦活剤出現
安倍政権、岩盤支持層に支えられ、堅固で安定しているように見えても内実が空洞化していることは衆目の一致するところ。
前述の世論調査において、柳瀬唯夫の説明に75.5%が納得していないこと、69.9%が加計問題の手続きを適切だとは思っていないこと、これらも明らかになった。まだ多くの人の常識は生きている。
この常識の賦活剤が二つ出現した。一つは、愛媛県が21日に明らかにした文書。そしてもう一つが昨日行われた、日大アメフト部員の謝罪会見。成人になったばかりの若者が、自らが犯した悪質タックルを心から謝罪するとともに、事の経緯を余すことなく明らかにした勇気に、罪は憎めど涙した。そして、彼に罪を犯させた、より罪深き人と組織に義憤を覚えた。
誠意を持って謝罪し、説明する彼の会見は、膿の親であるアベのシンゾウに突き刺さったはずである。
「地方の眼力」なめんなよ
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