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【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第8回 村の子どもたちの衣服2018年6月21日

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【酒井惇一(東北大学名誉教授)】

 小学校の学級の集合写真、写真屋さんが来て毎年春に撮ってくれたものだったが、戦中戦後の混乱の中でどこかに行ってしまい、手元に残っているのは1943(昭18)年、私の小学2の時に撮ったものだけになってしまった。今から75年も前に撮ったのだからもうセピア色になっているが、画像は鮮明だ。
 この写真を見てまず感じるのは、みんな背丈が小さいことだ。今の幼稚園の年長さんくらいではなかろうか。男は全員クリクリの丸坊主、五つボタンの学生服、女は全員おかっぱ頭、セーラー服である。でも、その服はお下がりが多いからだろう、みんなよれよれ、バラバラ、春に撮ったはずなのに冬の黒い服もあれば夏の白いあるいは国防色(もちろん白黒写真だからはっきりとわからないが、たしかそうだったはずだ)の服もある。こうした服にランドセルを背負って学校に通ったものだった。
 この話をたまたま高校の時の同級生にしたら、自分たちの小学校では全員着物で学校に通っていた、洋服など着ているものはいなかったという。さらに言う、ランドセルなどだれも持っておらず、風呂敷に教科書などを包み、それを背負って通ったものだと。一人は私の小学校から東に3kmくらい離れた山村、もう一人は北西に10kmくらい離れた純農村の小学校、わずかそれくらいしか離れていないのにこんなに違うとは、これには驚いた。
 私の小学校はいわゆる混住地帯(農家は少数派)の都市部に位置しているのだが、農山村部とこれだけの格差があったのである。だからといって都市部に住んでいた私たち農家の子どもたちがいい暮らしをしていたとは言えず、たまたま当時の交通条件のもとでの地理的優位性から衣服を手に入れやすいのでそうなっているにすぎなかったのだろうが。
 当時の農家の子どもは、都市部であれ純農村地帯てあれ、新品の衣服などめったに着られなかった。兄姉や叔父叔母のお下がりや古着屋から買った中古の服を何日間もくりかえし着るのが普通だった。高くて買えないからである。食うのがせいいっぱいのとき、服などに金をかけてなどいられない。
 そのうち服にほころびが出てくる。転んだり、けんかしたりで穴があく。母や祖母は子どもを怒りながら、つくろってくれる。だからつぎはぎだらけの服を着ているのが当たり前である。縫い直し、編み直し、染め直し、打ち直しは当たり前だった。女たちは暇さえあれば針をもってつくろっていた。衣服を捨てるなどということはほとんどなかった。ぼろになってもう使えなくなったら雑巾にするなど、最後の最後まで使い切った。
 その衣服も「着たきり雀」だった。何日も何日も同じ服を着ていた。着替えはそんなにないし、朝から晩までの農作業に追われて洗濯などする時間はなかなかとれなかったし、石鹸もろくに買えなかったからだ。風呂のない家もあった。風呂があっても、水の便や燃料代の節約などから毎日沸かさなかった。
 だから身体は汚く、衣服はさらに汚れた。それでもみんな何とも思わなかった。こんなものだと思っていた。
 子どもばかりではない、大人もそうだった。冠婚葬祭用の衣類は義理を欠かさないために最低限のものは何とかそろえてはいるが、洋服などもちろん持っていなかった。山村出身の先輩がこう言って笑っていた、「背広を着て歩いている人とすれ違うと子どもたちはおじぎをしたものだった、村で背広を着ているのは学校の先生かお役人だけ、頭を下げておけば間違いないからだった」と。
 大人の普段着については子どもの場合とまったく同じだった。それに加えて大人の場合は農作業が効率的に遂行できるようにつくられた衣服いわゆる野良着が必要になるのだが、それも容易に手に入れられなかった。

 

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酒井惇一(東北大学名誉教授)のコラム【昔の農村・今の世の中】

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