【熊野孝文・米マーケット情報】コメ消費拡大より優先されるべき取組みとは?2018年8月21日
コメ卸の団体である全米販(全国米穀事業共済協同組合)から9日に開催された「RiceLifeプロジェクト」セミナーの取材依頼を受けた。RiceLifeプロジェクトとは全米販が始めたコメ消費拡大対策事業で、当日は講師が「大盛りご飯を食べてもやせる技術」と題して講演することになっていた。9日は乾田直播で高い収量を上げている生産者の取材予定が入っていたのでそちらを優先し、全米販のセミナーには取材に行かなかった。コメ業界にとってコメ消費拡大は喫緊の重要な課題になっていることは再三このコラムでも触れたが、それよりも乾田直播で移植より高い収量を上げている生産者を取材することの方が重要だと思ったからである。なぜ、そう思うのか国内と海外向け輸出の事例をそれぞれひとつずつ紹介したい。
◇ ◇
あまり知られていないが国内でコメの需要量が急増している分野がある。それは即席カップライス分野である。米飯加工食品分野は全体として伸びており、市場規模は推計で526億円程度になっているが、この内即席カップライス分野は74億円程度で、市場規模としてはまだ小さい。ただし、この分野の最大手食品メーカーの2017年度(昨年4月から今年3月)の売上は前年度に比べ1・7倍に拡大した。同社はこの分野を新しい食品カテゴリーにすべく今月和食をテーマにした新商品を販売、商品アイテムは合計8品目になったことから「量販店の売り棚に4品目ずつ2段に置けるようになり『カップメシ』という一般名詞化して消費者マインドを作ることが出来る」という商品戦略に打って出る。ところがここで大きな問題が起きている。それは肝心かなめの原料米問題である。
カップメシに使用するコメは同社が独自製法で加工したお湯をかけると5分でご飯になるアルファ化米で、一食80g使用している。お湯をかけると具材と合わせて出来上がりが380gになるため若い人でも1食で十分に満足感が得られる。メインの食材であるコメは原料コストを抑えるため加工用米を使っており、30年産も事前契約しているが、商品の好調な売れ行きが続くと契約した量では不足する恐れがある。かといって練りに練った現在の商品売価を変えることは出来ないため高い原料米を購入することは難しいというジレンマに陥っている。
もう一つの事例はアメリカ向けの日本米輸出で、アメリカは玄米、白米とも関税は3%で検疫証明書も燻蒸証明書も必要ない。輸入規制がない分自由に輸出出来る。
カリフォルニアの食品マーケットコンサルティング会社が全米で千人を対象に行った調査によると、普段食べているコメは、白米56.3%、玄米42.1%、ジャスミン米16.4%、バスマティライス10.4%。日本米を食べたことがあるかと言う質問に対して40%の人が日本食レストランで食べたことがあると答えているが、実際は日本食レストランではほとんど日本米が使われていない。次に高品質のコメを生産している国はどこかと言う質問に対して第1位は自国アメリカで38.9%、次が中国で21.2%、第3位が日本で10.2%になっており、アメリカ人は、日本米は中国米より品質が劣ると認識している。中国の評価が高いのは中華レストランが日本食レストランの2倍あるためだが、品質が劣るとみられている日本米をわざわざ高値で買う必要はないということになる。こうしたアメリカでの日本米への意識調査がなされていないので、農水省が資金を出してアメリカで日本米プロモーションを行っても効果がない。
結論として最も即効性のある日本米輸出拡大対策は、まず「日本は最高品質のコメを生産している国である」ことをアメリカ人に認識してもらうこと。第2は、国、人種によって美味しいと感じる味覚は大きく違い、特に日本米の美味しさを外国人に伝えるのは困難であり、ここで重要なことは「美味いと"好き"とは全く違う概念」で、日本米を「好き」と思ってもらうプロモーションが重要だとこのコンサル会社の経営者は言っている。
日本米を"好き"だとアメリカ人が思うようにするには、なによりもアメリカのスーパーの売り棚に日本米が置かれ、それを買ってもらうようにしなくてはならない。競合商品はアメリカ国内で生産されているジャポニカの短粒種コシヒカリなどで、これらは15ポンド32ドルから34ドルで販売されている。この価格と同値で日本米を販売すればアメリカ人も日本米を手に取ってくれる。それには日本米の輸出価格をFOB(本船渡し)で60kg当たり7000円にしなければならない。それを可能にする近道は乾田直播で生産コストを下げるしかないのである。それを旗印に「コメ産業にイノベーションを起こす」という会社が来月立ち上がる。
本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。
重要な記事
最新の記事
-
【JA全農の若い力】家畜衛生研究所(1)養豚農家に寄り添い疾病を防ぐ クリニック北日本分室 菅沼彰大さん2025年9月16日
-
国のプロパガンダで新米のスポット取引価格が反落?【熊野孝文・米マーケット情報】2025年9月16日
-
准組合員問題にどう向き合うか 11月15日に農協研究会開催 参加者を募集2025年9月16日
-
ファミリーマートと共同開発「メイトー×ニッポンエール 大分産和梨」新発売 JA全農2025年9月16日
-
秋元真夏の「ゆるふわたいむ」北海道訓子府町で じゃがいもの新品種「ゆめいころ」を収穫 JAタウン2025年9月16日
-
山形県産「シャインマスカット」品評会出品商品を数量限定で予約販売 JAタウン2025年9月16日
-
世界初 土壌団粒単位の微生物シングルセルゲノム解析に成功 農研機構2025年9月16日
-
「令和7年8月6日からの低気圧と前線による大雨に伴う災害」農業経営収入保険の支払い期限を延長(適用地域追加)NOSAI全国連2025年9月16日
-
農薬出荷数量は1.3%増、農薬出荷金額は3.8%増 2025年農薬年度7月末出荷実績 クロップライフジャパン2025年9月16日
-
林業の人手不足と腰痛課題解消へ 香川西部森林組合がアシストスーツを導入 イノフィス2025年9月16日
-
農業支援でネイチャーポジティブ サステナブルの成長領域を学ぶウェビナー開催2025年9月16日
-
生活協同組合ユーコープの宅配で無印良品の商品を供給開始 良品計画2025年9月16日
-
九州・沖縄の酪農の魅力を体感「らくのうマルシェ2025」博多で開催2025年9月16日
-
「アフガニスタン地震緊急支援募金」全店舗と宅配サービスで実施 コープデリ2025年9月16日
-
小学生がトラクタ遠隔操縦を体験 北大と共同でスマート農業体験イベント開催へ クボタ2025年9月16日
-
不在時のオートロックも玄関前まで配達「スマート置き配」開始 パルシステム千葉2025年9月16日
-
全国のうまいもの大集合「日本全国ふるさとマルシェ」東京国際フォーラムで開催2025年9月16日
-
産地とスーパーをつなぐプラットフォーム「みらいマルシェ」10月から米の取引開始2025年9月16日
-
3つの機能性「野菜一日これ一杯トリプルケア」大容量で新発売 カゴメ2025年9月16日
-
「国民一人ひとりの権利」九州大学教授招き学習会実施 パルシステム2025年9月16日