【鈴木宣弘・食料・農業問題 本質と裏側】「FTAではない」と言い続ければ、新協定は発効できないという墓穴2018年10月11日
「TAGなる捏造語の非を認めてFTAに訂正しろ」と言いたいところだが、実はそのままにしておいたほうが日本の国益を売り飛ばされなくてすむ可能性を指摘したい。
「日米FTAは拒否する」と言ってきた手前、共同声明を悪質に誤訳してTAGを捏造し、国民に「FTAではない」と言い張る厚顔無恥さは言語道断であるが、実は、これは完全に墓穴を掘っているのである。日本政府が「FTAでない」と言い続ければ、日米が関税撤廃などで合意したとしても、国際法違反で発効できないからである。
いずれかの国に与える最も有利な待遇(例えば、関税撤廃やサービス貿易自由化)は、他の全ての加盟国にも適用されなくてはならないとする最恵国待遇(MFN)がWTO(世界貿易機関)による貿易自由化の大原則である。
それを例外的に認めるのがFTAである。特定国または地域間だけでモノとサービスの貿易自由化を行うFTAは、WTOの大原則に真っ向から反するが、モノの貿易についてはGATT第24条において、サービス貿易についてはGATS第5条において「実質上のすべての貿易」(substantially all trade)についてモノとサービスを自由化し、域外国に対する障壁は引き上げないこと等を条件に、最恵国待遇原則の例外として認められている(ただし、「実質上のすべての貿易」についての明確な基準、例えば、90%ならいいのか、量・額・品目数等のどれで測るのかなどは曖昧なままである)。
つまり、国際法に違反しない形で2国間のみで関税撤廃するには、FTAを締結しない限り不可能である。それなのに、米国からの牛肉・豚肉などの関税引き下げ要求を受け入れる姿勢を示しつつも、日米FTAは拒否すると言い続けてきたのを見て、どうするつもりか、どんな裏技を出してくるのかと不思議に思っていた。
そうしたら、「モノとサービスなどの自由化交渉を開始する」(まさにFTA交渉入りそのもの)との共同声明から、モノだけを切り取って、TAG(物品貿易協定)なる捏造語で、これはFTAでないと言い張る始末である。
これは確かに言語道断だが、「FTAではない」と言い続ければ、国際法違反の協定だから関税撤廃・削減を約束したと主張しても発効できなくなる自己矛盾に気づかないのだろうか。こうなったら、恥ずかしい捏造語TAGを最後まで主張していただいて、墓穴を掘っていただくほうが得策である。「今回はこれで乗り切りましょう」と進言した経済官庁の悪知恵の浅はかさに失笑せざるを得ない。
実は、協定を発効させるために、ある段階で、恥ずかしげもなく、「これは実はFTAでした」と言い出す「腹積もり」だろうが、これ以上、国民を愚弄するのを許してはならない。
(鈴木宣弘教授の最近よく読まれている記事)
・TAGは「実質FTA」でなく「FTAそのもの」【鈴木宣弘・東京大学教授】(18.09.28)
・【鈴木宣弘・食料・農業問題 本質と裏側】言葉の破壊の行きつく先は国の破壊(18.10.04)
・【鈴木宣弘・食料・農業問題 本質と裏側】従順な日本がグローバル種子企業の世界で唯一・最大の餌食にされつつある~種子と関連問題の再整理~(18.09.21)
・【鈴木宣弘・食料・農業問題 本質と裏側】「強い農業」は災害に「弱い農業」? ~9月10日(月)テレビ収録用質疑資料~(18.09.13)
・「農協改革」は農協潰し:東京大学教授 鈴木宣弘氏(17.02.12)
・【鈴木宣弘・食料・農業問題 本質と裏側】欧米農政への誤解(18.08.23)
重要な記事
最新の記事
-
【特殊報】ブロッコリーの黒すす病にSDHI剤耐性菌が発生 北海道2025年12月25日 -
【注意報】イチゴにハダニ類 県内全域で多発のおそれ 佐賀県2025年12月25日 -
家庭での米消費、前年比11.7%減 マイナス幅拡大、「新米不振」裏付け 米穀機構11月調査2025年12月25日 -
米価高騰に対応、「4kgサイズの米袋」定番化 値ごろ感出し販売促進 アサヒパック2025年12月25日 -
協同組合の価値向上へ「鳥取県宣言」力強く2025年12月25日 -
【世界を診る・元外交官 東郷和彦氏】トランプ再来の嵐 自国利益に偏重2025年12月25日 -
【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】なぜ日本は食料難の経験を教科書から消したのか?2025年12月25日 -
【Jミルク脱粉在庫対策】基金初発動1.2万トン削減 なお過剰重く2025年12月25日 -
すべての都道府県で前年超え 2024年の県別農業産出額 トップは北海道2025年12月25日 -
【農と杜の独り言】第7回 祭りがつなぐ協同の精神 農と暮らしの集大成 千葉大学客員教授・賀来宏和氏2025年12月25日 -
国連 10年に一度「国際協同組合年」を決議2025年12月25日 -
秋田と山形の3JAが県越え連携協定2025年12月25日 -
日本産の米・米加工品の輸出促進策を議論 「GOHANプロジェクト」で事業者が意見交換 農水省2025年12月25日 -
26年産米の農家手取り「2万5000円めざす」 暴落の予兆に抗い再生産価格を確保 JA越前たけふ2025年12月25日 -
笹の実と竹の実【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第370回2025年12月25日 -
茨城県で鳥インフル 97万羽殺処分へ 国内10例目2025年12月25日 -
ホットミルクと除夜の鐘 築地本願寺でホットミルクお振舞い JA全農2025年12月25日 -
JA共済アプリ・Webマイページに「チャットボット」機能を導入 JA共済連2025年12月25日 -
5県9JAの農産物・加工品を販売 第46回マルシェ開催 JA共済連2025年12月25日 -
短期プライムレートを年2.125%に引き上げ 農林中金2025年12月25日


































