【城山のぶお・リメイクJA】第13回 1国3制度~イコールフッティング2018年11月9日
1国2制度は、香港の中国返還にあたり中国共産党政権下で香港には資本主義経済を容認するという意味でつかわれた。だが、世の中は1国2制度ならぬ、1国3制度で運営されていることに気付いている人は少ないように思える。
今次農協改革のキーワードは、イコールフッティングである。イコールフッティングとは、同じ立場ということを意味する。政府は今次農協改革において、あらゆる場面においてこのキーワードを駆使して自らの要求を押し通してきた。
それは、現実的にどのようなことを意味するのか。協同組合の立場から考えてみる。協同組合についてのイコールフッティングは、経済的に効率が悪いから協同組合も会社と同じように運営しろというものである。
このイコールフッティング論に、JA側は研究者を含めてたじたじの体で、多くの場面でこれを論破することができなかった。イコールフッティングの考えの背景には、助け合いの原理よりは競争の原理が優れているという間違った思い込みがある。
だが、もともと協同組合は人間の本性(Human Nature)である助け合いの原理に基づいてつくられた組織であり、そもそも会社や、お役所(官僚組織)とは社会に対する役割が違う。
協同組合は、グローバルスタンダード(世界標準)としての協同組合原則(ICA・国際協同組合同盟作成)を持っているが、これは、基本的には協同組合の運営方法を定めたものであり、資本に対する利子制限など7つの原則がある。
世界の3大組織である(1)協同組合、(2)会社、(3)お役所は、それぞれ独自の運営方法を持っており、そうした意味では、それぞれの国において、これらの三つの運営方法を取り入れた、1国3制度の仕組みが働いていると考えるべきである。
JAはじめ協同組合に属する人々は、このことをしっかり認識して政府・政党・世論等と対峙しメッセージを発することが重要である。
このことについて、例えばJAの公認会計士監査への移行問題について、次のように考えることができる。結論から言えば、今回の措置は、協同組合たるJAという組織が持つ運営の独自性を全く無視するもので、いずれ修正が必要とされるべきものと考える。
この問題の本質は、公認会計士監査が、不特定多数を対象とした投資家の投資判断に資するため、会社組織が適正に運営された結果、財務諸表が適正に作成されたか否かを検証することを目的として行われるのに対して、中央会監査は、財務諸表の適正表示はもちろんのこと、JAが協同組合としてメンバーたる組合員に対して適切なサービスを提供し満足を得られたかどうかを検証するために行われる。
言い換えれば、基本的に、会社は営利、協同組合は非営利原則によって運営される。このように、会社組織の監査と協同組合の監査では、そもそもその目的が違う。したがって、これをイコールフッティングとして、同じ監査基準で監査するのはおかしい。
監査を公認会計士が行うか農協監査士が行うかは、本質的な問題ではない。まして、中央会監査が業務監査を行うから公認会計士監査とは違って意義があると主張するのは著しく説得力に欠ける議論というべきだ。
また、政府が説明するように、中央会監査は公認会計士監査に比べて信頼性が劣るとか、生協がすでに公認会計士監査に移行しているからというのも間違っている。
中央会監査から公認会計士監査への移行にあたっての政府・与党との議論で、JAは業務監査を行っていることに有意性があると主張したが、政府が説明するイコールフッティング論を覆すことはできなかった。それは,相手をこの本質議論に巻き込むことができなかったことによる。
なぜ、JAが公認会計士監査に移行せざるを得なかったのか総括が必要であるが、その主たる原因は、JAが協同組合として独自の監査基準を持っていなかったことにあったといえよう。
この問題を以上のように考えれば、今後の対処方向としては公認会計士移行後もJAは他の協同組合と連携し、助け合いという組織目的を持つ協同組合の監査基準(非営利法人を対象とした監査基準)の策定を急ぐべきだということになる。協同組合として独自の運営基準を主張していかなければ、協同組合としてのJAの存続は難しくなってくる。
ちなみに、JA系統とみなされる「みのり監査法人」は、自らの監査の特色を、業務監査を並行して行うことができるとしているようだが、本質的な対応策は別にあると考えるべきである。
また、監査以外の株式会社への移行問題について、例えば会社組織の本店中心の集権的なやり方を協同組合に押し付けるのも大きな間違いである。
協同組合の組織運営の基本である集中・分権的なやり方と会社運営の基本である集中・集権的なやり方は、それぞれが特徴を持っており一概にどちらがいいとは言えない。協同組合の運営が有効なことは、リーマンショック時の日本のJAでも証明されたことは記憶に新しい(農林中央金庫の資本不足へのJAの資本支援)。
また、信用事業を兼営する総合JAの仕組みは農業振興にとって不可欠で、これをイコールフッティングとして排するのは国益に反する。さらに、農業についても、イコールフッティングとして産業としての確立を他の企業と同様に考えるのもフェアーではない。
いずれにしても、JAはこれまで政府の支援の下にあったことから、自らの主張について深く考える必要がなかったように思える。今後は、自らの主張と他への説得力が生き残りの決め手になる。
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