【熊野孝文・米マーケット情報】大潟村 減反廃止で玉ねぎ作り2018年12月11日
久しぶりに秋田県大潟村に行ってきた。最も印象に残ったのが、長さ1000m、幅150m、面積15haと言う1筆の玉ねぎ畑を見たこと。1筆の畑の面積としては日本一大きいそうである。その面積の広さもさることながら、この畑は原野を開墾して出来上がったもので、畑の脇には巨木と言っていいほどの伐木が無造作に山積みされている。元々八郎潟を干拓してできあがった村なので、原野があったわけではない。50年前に始まった減反政策で放置された農地予定地が原野になったのであり、その面積は200haもある。その玉ねぎ畑を眺めながら、減反が廃止されるまでのこの50年とはいったい何だったのか? そうした思いが、玉ねぎ畑とオーバーラップしてしまった。
以前、若手の米穀業者30名ほどを連れて大潟村を視察したことがあり、バスの中で減反闘争について知っているか聞いたところ半数が知らなかったことに驚いてしまった。戦後農政の中でこの闘争と結末ほど重要な出来事はないと思っている身としては、すでに過去の物語になってしまったのかと感じざるを得なかった。
◇ ◇
八郎潟干拓の構想は古くからあったが、それが急速に動いたのは戦後の食糧難時代で、昭和27年に国は秋田市に八郎潟干拓調査事務所を設置した。干拓ではオランダのヤンセン教授を招いて調査、昭和32年に工事に着手、20余年の歳月と852億円の巨費を投じ昭和52年に完成、「大潟村」と命名された。昭和42年から全国から入植者を募り、第5次入植者までで中止され、昭和46年に生産調整が始まった。著者が大潟村に行き始めたのは昭和の終わりごろで、その頃はまさに減反闘争真っ盛りの頃で、自主作付派の面々はまさに猛者揃いで、理論家もおり、コメ農政やコメ作り、販売まで、この村で教わったことはあまりにも多い。ヤミ米取り締まりで村が封鎖された時は、富山からコメを買いつけに行くという業者の大型トラックに同乗して村に入ったこともあった。転機になったのは、加工用米制度の運用を農水省が柔軟にした平成17年のことで、それまで全農・全集連といった全国団体しか扱いを認めていなかったが、地域流通という表現の下、生産者が直接実需者と契約・販売する道が拓かれたことにある。
とっかかりは秋田県内の米菓業者1社のみであったが、加工用もち米を柱にコメに因る減反で、あっという間に1万tを超える加工用米を生産するようになり、平成28年には100%を超える減反を達成するまでになった。平成23年には米粉用米を活用して村に食品企業を誘致、米粉餃子を作る工場が完成、村内でも米粉麺の製造工場が立ち上がった。米粉用食品が受け入れられるには多くの困難を伴ったが、グルテンフリー食品として着目され、今や米粉餃子やグルテンフリーのパスタなどが大手量販店の売り場に並んでいるほか、より長期保存可能なアレルゲンフリー食品は自治体などが災害用食品として備蓄するまでになっている。さらには海外に目を向け、大潟村輸出促進協議会も組織され、海外マーケットの開拓にも勤しむようになっている。
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大潟村の水田作付面積は約9000haあり、この内4000haが転作必要面積であった。平成29年産では4125haを転作、達成率は102.2%になった。ところが平成30年産は主食用米の価格が上昇したこともあって、主食用米の作付が増加、目安数量面積に対する達成率は82.4%まで下落した。コメ以外の転作作物も作っているが、その面積は大豆が254ha、かぼちゃが15ha程度で、飼料用米はWCSが1ha作られているに過ぎない。
そうした中で新たな転作作物として玉ねぎ作りが始まったのである。なぜ玉ねぎかというと第一に機械化体系が組めることで、広大な面積を耕作するには機械化され、栽培から搬出まで一体化させている作物でなければならなかった。第二は当然のこととして収益が見込める作物でなければならず、その点で秋田県は地の利が活かせると判断された。玉ねぎの大産地は北海道で、その後は淡路島など西日本になり、秋田県の収穫期は端境期に当たるため価格下落の恐れが少ない。すでに売り先として大手外食チェーンや大手食品会社が決まっており、需要先が確保されている。
玉ねぎ栽培を始めた生産者に「生産調整が廃止されるのに玉ねぎを作るのは逆張り戦法か?」と軽口を叩いてしまったが、実はそうではない。干拓地が完成して50年を経た大潟村は用排水路の改修時期を迎えており、その工費が488億円かかる。何としても国の予算を獲得しなければならないのだが、それを受け入れてもらうには「コメに代わる高収益作物」を作らなければならないのだ。
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