【浅野純次・読書の楽しみ】第36回2019年3月14日
◎吉田敏浩
『横田空域』
(角川新書、907円)
著者の『日米合同委員会の研究』は本欄で激賞しましたけれど、同書でも詳しく取り上げられた横田空域(いわゆる横田ランプ)に象徴されるあまりに不平等な日米関係には、今回も驚きました。
首都の横っ腹に広大な横田基地があることに大抵の外国人は驚くでしょう。でも首都を中心に1都9県の上空が横田基地の管制下にあり、日本の民間機が事実上、締め出されていると知ったらなんと言うでしょうか。
しかもこの空域では米軍機が縦横無尽に戦闘訓練を行っているのです。例えば群馬の市町村は低空飛行する米軍機の恐怖と騒音にしばしば脅かされています。抗議しても日本政府は取り合いません。
なぜか。日米合同委員会で決まった事柄で手が出ないのです。翁長沖縄県元知事の「日本国憲法の上に日米地位協定があり、国会の上に日米合同委員会がある」は至言で、かみ締めたい言葉です。
ドイツでもイタリアでも、米軍はきちんと規制されています。独立国なら当然でしょう(韓国はどうかと考えてしまいました)。
こんな猛訓練をした米軍機が世界へ飛んでいって「戦果」を挙げるなんて。でも政治家も外務官僚もひたすら米国の要求に従っています。読むほどに腹の立ってくる良書です。
◎保阪正康
『山本五十六の戦争』
(毎日新聞出版、1728円)
山本五十六の本はあまた出ていますが、本書は「五十六と同時代の五十六論」ではなく、「歴史の中に位置づけられた五十六論」を目ざして書かれたと著者は言っています。
そのためには、五十六は(1)親英米派であった、(2)明確な戦争観を持っていた、(3)指導者の義務と責任を自覚していた、の3点を立脚点としなければならないというのです。
そのうえで著者が最もこだわったのが五十六の最後でした。死を覚悟して前線視察に赴きブーゲンビル島上空で撃墜されたことはよく知られていますが、実は20時間あまりジャングルの中で生存していたらしい。早く救出に向かえば死ぬことはなかったかもしれません。しかし責任を逃れたい海軍は即死説を貫き通します。
本書の終章は、もし五十六が命を大事にして早期講和のための内閣組閣へ動いていたらどうだったかと問いかけます。沖縄、広島、長崎の悲劇は避けられたはずなのに、幻の内閣となったのは痛恨の極みで、歴史のifがここにもありました。
◎板倉弘重
『薬に頼らず血糖値がぐんぐん下がる!』
(知的生き方文庫、702円)
隠れ糖尿病が増えています。糖尿病合併症ほど怖い病気は少ないそうですよ。神経障害、網膜症、腎症、心臓と脳疾患、そして認知症。特段の症状はなかったのに一挙に表面化するのが特徴で、非常に治りにくいのだとか。
予防にいちばんなのは食事です。でもクリニック院長である著者によればカロリー制限など難しいことをする必要はなく、糖質を減らす、食べるときは最後にする、よくかみ、ゆっくり食べる、が大事だそうです。
糖質といえば穀類と糖分ですが、白米、白パン、麺類は避けること、食べるなら未精製のものがよい。健康に良いはずの果物は果糖が多いので、ビールともども(!)控えめに。だそうです。逆に肉、油、卵はなんの問題もないとはいうのはちょっと意外ですね。
食以外では運動、良い睡眠、ストレス解消などが推奨されます。ズボラにらくらく血糖値は下がるそうです。確かにそんな気にさせられて、軽く読めます。
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浅野純次・石橋湛山記念財団理事の【読書の楽しみ】
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