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コラム:地方の眼力

【小松泰信・(一社)長野県農協地域開発機構研究所長】

2019.05.08 
【小松泰信・地方の眼力】どうする道厚生連個人情報漏えい事件一覧へ

 4月27日から2泊3日の北海道。札幌市で行われた義理の甥の結婚披露パーティーに出席し、函館市に足を伸ばした。改元令下にも関わらず、すべてがすがすがしい旅だった。

◆暗雲垂れ込めるJAグループ北海道

小松 泰信(岡山大学大学院 環境生命科学研究科教授) だからといって、北海道のJAグループがすがすがしいわけではないようだ。
 理由は、JA北海道厚生連西一司会長による個人情報漏えい事件。
 毎日新聞(4月24日付、25日付)の記事によれば、事件の概要はつぎの通りである。
 今年2月中旬、西会長は旧知の仲である現職道議KUから「パンフレットを配布するので、札幌市西区の職員の情報を提供してほしい」と依頼され、「パンフレット配布の政治目的と認識」したうえで、同区在住の医師、看護師を含む全職員72人分の氏名、職種、肩書、住所、電話番号などの個人情報を会長室にてKUに提供した。受け取ったKUは、道議選告示後、西区選挙区に立候補したKAに渡した。情報を受け取ったKAは、職員の了解なしに自身の後援会に入会させた。
 KAから送られてきたお礼の手紙を受け取った職員の指摘で、厚生連が事態を把握し、事件が発覚した。
 厚生連は、「職員や関係者に迷惑をかけ深くおわびする」とのコメントを発するとともに、個人情報保護法に抵触する可能性もあるとして、西氏の処分を検討とのこと。自民党道連は2人に事実確認ののち、厳重注意。
 毎日新聞(4月24日付、北海道版)は、「前代未聞の事態」で、「政治家が厚生連に職員の個人情報を要求し、選挙に活用したと見られかねない事案」として、野党からの批判を紹介している。
 「道議から道議選候補者に厚生連の個人情報が渡ったのは、結果的に目的を偽って個人情報を入手し、流用した重大問題だ。2人は経緯を道民にきちんと説明すべきだ」(共産党道委員会書記長)
 「しっかり個人情報を管理すべき時代に、本人の同意なく、他人に情報を渡したり、後援会入会手続きを進めたりするのは問題だ。厚生連側の対応にも問題がある」(立憲民主などでつくる野党会派「民主・道民連合」幹事長)

 

◆個人情報を扱う意識の低さ

 北海道新聞(4月25日付)は、西会長が、処分されず、辞任することもなく、役員報酬の自主返納にとどまったこと。関係した道議は釈明と謝罪を繰り返したものの、所属する自民党道連幹事長は「そんな大きなことはない」と問題を軽視したともとれる発言をしたこと。これらから、関係者における「個人情報を扱う意識の低さがあらわになった」とする。
 さらに、オホーツクはまなす農協の会長も務める西氏は、KUと20年ほどの親交があり「信用していた。情報がKAに渡ったのは想定外だった」と説明し、「過去にも名簿を渡したのでは」との質問には「一切ない」と否定した。限りなく黒に近いグレー。
 また、道厚生連を巡っては、過去に患者情報の外部流出や、職員が患者の病名などが記された書類を持ち出し、私物と誤ってトイレに捨てた、という信じられない不祥事があり、再発防止に取り組んでいたとのこと。しかし、厚生連常務は会見で「職員の個人情報は管理不足だった」ことを認めている。でも、間違いなく管理以前の問題である。
 先の幹事長は「訴えられたわけではない」などと述べたようだが、「個人情報保護が叫ばれる時代に信じられない。道議の意識の薄さも甚だしい」と、身内からも発せられる驚きの声を添えている。
 同紙(4月26日付)は社説でも取り上げ、「同意なく個人情報を第三者に提供することを原則禁じた個人情報保護法違反の可能性が高い」にもかかわらず、処分がなかったことを「事態の重大さに対し、組織としての危機感がうかがえない」とする。また、幹事長の言動に対しても、「何が悪い、と言わんばかりだ。個人情報を尊重する意識が全く欠如している」と容赦ない。
 西氏とKUの関係や、農協組織が自民党の支持基盤であることから、「なれ合いの構図も透けて見える」と、正鵠を射る。

 

◆他人事然とした顔と顔にも問題あり

 北海道新聞(4月27日付)によれば、JA北海道中央会の飛田稔章会長は26日の定例記者会見でこの問題を、「大変なことが起きてしまった。心からおわび申し上げたい」と謝罪し、道内各地の農協を含むJAグループ北海道全体で再発防止策に取り組む考えを示すとともに、「農協は(組合員や職員などとの)信頼関係があって、はじめてしっかりした運営ができる。こういうことが起きると信頼がなくなる」と強調。すでに取り組んでいるコンプライアンス研修などに加えて「一層、強固な対策を講じる。具体策はこれから検討する」と述べた。
 具体策はシンプル。役員と幹部職員への研修、西氏の辞任、そして当該政党との腐れ縁の解消。この三点セットで如何か。
 ところで、飛田氏が会長を務めている全国農業者農政運動組織連盟(農政連)には、何の問題もないのだろうか。某県で聞いた話だが、連合会の管理職になると自動的に農政連のメンバーとなり、さらには自民党員にもなるとのこと。それを拒否することは管理職になる機会を放棄することを意味しているそうだ。これで良いのでしょうか。叩けばどんどん出るホコリ。
 翌28日の毎日新聞(北海道版)によれば、自民党道連会長であり厚生連を所管する農水省の大臣でもある吉川貴盛氏が26日の記者会見で、「役員が職員の情報を漏えいしたのは誠に遺憾だ」と述べるとともに、一昨年にも道厚生連で個人情報漏えいが起きたことを指摘し、「再発防止の徹底などを求めていた。今回の事実を受け、改めて指導したい」と、指導の強化を示唆した。
 この人も、政権与党病にかかり、ご自分のお立場をおわかりになっていないようだ。所管する団体で起こった事件。その事件に自分が長を務める政党の構成員が片方の張本人として積極的に関わっている。二重の意味で責任は免れない。どうされますか?

 

◆日本農業新聞はなぜ沈黙するのか

 どうされましたか? と問いかけたいのは日本農業新聞。この間の同紙を念入りに読んだが、当該事件の記事が見当たらない。
 「貿易では世界に『自由』を説き回るこの国が、この程度の自由度では説得力に欠くのではないかと、心もとなくなる」ではじまるのは、世界報道自由デーに寄せた同紙(5月3日付)のコラム「四季」。「平和と『報道の自由』を守る重みをかみしめる」と結ぶ言葉に嘘偽りがないならば、遅くはない。道厚生連会長による個人情報漏えい事件がなぜ起こったのか。道厚生連に限らずJAグループがこのような事件を今後起こさないためにすべきことは何か。参議院選挙を控えているこの時期だからこそ、膿をえぐり出す報道に取り組むべきだ。
 新たな罪を作らせないために、そして農業協同組合とその構成員の尊厳をこれ以上傷つけぬために。
 「地方の眼力」なめんなよ

 

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