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コラム:地方の眼力

【小松泰信・(一社)長野県農協地域開発機構研究所長】

2019.06.19 
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 6月18日午後10時22分ごろ、新潟県下越で震度6強の地震が発生。被災された方々には心よりお見舞い申し上げます。被災者と被災地への手厚い支援を期待し、1日も早い復旧を願うばかりです。

◆コラムのネタには困りません

小松 泰信(岡山大学大学院 環境生命科学研究科教授) 「毎週コラムを書かれて大変でしょう。ネタ切れで困ることはありませんか」と、声を掛けていただくことも少なくない。喜ぶべきか、悲しむべきか、取り上げたい話題は毎日毎日湧いてくる。
 毎日新聞(6月14日付)が、「政府に逆風三重苦 老後2000万円 イージス 特区」の見出しで、夏の参院選を控え、にわかに巻き起こった三つの「逆風」に政府・与党が警戒感を強めていることを伝えている。夫婦の老後資金として公的年金以外に「30年間で2000万円が必要」とした金融庁の審議会の試算への批判、秋田市での設置をめざす陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」を巡る防衛省の不手際や住民感情を逆なでする報告会での職員の居眠り、そして国家戦略特区ワーキンググループ(WG)の不透明さ、この三点セットである。
 懸念が大きいとするのが、「2000万円」問題。確かに、当コラムでも取り上げたように、ほんの数週間前は、「下々の皆さん、ちゃんと準備しておかないと大変な老後ですよ。私には関係ありませんがね」と言わんばかりのしたり顔で、記者の質問に答えていた麻生太郎金融担当相。ところが、風向きが変わったとみるや、「政府のスタンスと異なる」と、試算をまとめた報告書の受理を拒否。さらには、委員会で担当者に謝罪させるなど、相変わらずの「アホウの俺様」状態。
 ポヨヨ~ン狸の森山裕国対委員長は「報告書はもう(存在し)ない」と繰り返し、存在しないものについての質疑や討論は成立しない、とばかりの奇妙な屁理屈で火に油を注いでくれた。これほどまで国民を愚弄する議員たちに投票した有権者の顔が見たい。
 陸上配備型迎撃ミサイル「イージス・ショア」については、陸上自衛隊新屋演習場(秋田市)以外の19の検討地を「不適」と結論づけた防衛省報告書の仰角データに複数の問題があった。しかし、「新屋ありき」の決め打ちの疑いあり。防衛省は、頭は下げるが、同演習場を「唯一の適地」とする姿勢を変えぬ上から目線。
 特区WGでは、原英史座長代理が申請団体を指南し、原氏の協力会社がコンサルタント料を受け取っていた。さらに、座長代理が指南した規制緩和提案を巡るヒアリング開催を非公開としている。まさに、特区を食い物にする利権誘導の疑念を禁じ得ない。

 

◆やはり隠蔽。でも驚きません

 翌15日付の同紙では、「特区審査 隠蔽認める 内閣府WG座長が決定 委員指南案」という見出しで、内閣府が14日に、提案者と水産庁へのヒアリング2件を2015年秋に開催していたことを明らかにした、と伝えている。内閣府や水産庁は「記録がない」などとしていたが、一転して隠蔽を事実上認めたわけである。この2件、官邸HPや政府答弁書に一切記載がなく、透明・中立をうたう特区制度の信頼を揺るがしかねない、とする。
 ヒアリングには、民間委員では少なくとも八田達夫WG座長(大阪大名誉教授)と、原氏が出席し、「非公開扱い」の決定は八田氏。内閣府は正式なヒアリング開催時に義務づけられている議事要旨や議事録を作成しなかったとのこと。八田、原、両氏によれば、提案者の真珠販売会社から「秘密保持」を強く要請されたからだそうだ。この提案者の指南役が、原氏と氏が協力する「特区ビジネスコンサルティング」とくれば、疑惑は深まるばかり。
 記事では、「野党からは、WG委員の判断で完全に『非公開扱い』とされた規制緩和案件が他にもあるのではないか、と疑う声が相次いだ」ことも紹介されている、
 「解説」のコーナーでは、この問題が加計学園問題に続き、国家戦略特区の制度に二つの大きな疑念を突きつけているとする。一つが「特区審査の透明性」。「明確な基準やルールの説明もなく、政策決定過程の完全な非公開がWGの裁量だけで決まる仕組みは、情報公開とのバランスを明らかに欠く。役所内部の記録さえ残さないなら後世の検証にも堪えない」とする。もう一つが、「審査の公平性・中立性」。「民間委員がコンサルタント会社とともに提案者を指南する一方、提案を受け取って審査する立場も兼ねていた。『関係ある特定の提案者を優遇したのでは』という疑念を国民にいささかも抱かせるべきではない」とする。
 また、「賛否があるからこそ、正々堂々とすべきだ。議論の前提が崩れている」と憤るのは佐藤力生氏(三重県・鳥羽磯部漁協監事、元水産庁資源管理推進室長)。氏はさらに「役所は何らかの圧力がなければ隠したりはしない」と、経験者ならではの指摘も。

 

◆特区ブローカの正体

 そして今朝(19日付)の毎日新聞は、「水産庁は18日、15年10月に実施されたヒアリングの記録文書が存在していたと明らかにし、公表した。政府は開催自体を隠蔽し、これまで『非公式の会合で、記録もない』と説明していたため、野党が追及を強めるのは必至だ」とする。このヒアリングには内閣府職員も同席したという。
 国民民主党の舟山康江参院国対委員長が、18日の記者会見で「国家公務員でもみなし公務員でもないWG委員の発言が、結局(昨年の漁業)法改正の端緒になった。本当に必要な規制緩和なら隠さず堂々とやればいい。これは特区の構造的欠陥だ」と強調したことも紹介している。
 また、文書では、内閣府が所管する特区制度について尋ねた水産庁に対し、「そんなことをこちらから説明しなければならないのか! 水産庁で調べるべき話だろう!」と、原氏が反発する記述が確認される。職員が、行政文書にびっくりマークが付けるほどの剣幕だったようだ。虎の威を借りる特区ブローカーの正体ここにあり。

 

◆スクープのきっかけ

 「あの山がそんなに高いはずは――。スクープのきっかけは記者の素朴な疑問だった。地上配備型迎撃システム『イージス・アショア』の配備を巡り、防衛省の適地調査に重大な誤りがあった。地元の秋田魁新報の取材で発覚した」で始まるのは、西日本新聞(6月13日付)のコラム「春秋」。「納得いかない記者が分度器と地図で測ってみると、山を見上げた角度がおかしい。実は9カ所で過大に報告されていたのだ▼地元紙ならではの『土地勘』と、不安を募らせる住民の側に立って粘り強く取材した成果だ。地方に拠点を置くメディアとしてお手本としたい」とする。しかし、「ミスが判明して住民の信用を失っても、『新屋が適地』」は変えないという。地元の声に耳を貸さず強引に進めるやり方は、沖縄の基地問題と二重写しのようにも」と、怒りを抑えながら結ぶ。
 次々に出てくるホコリや降りかかる火の粉を、諦めることも怯むこともなく払いのけ、元凶を絶つ。
 「地方の眼力」なめんなよ

 

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