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コラム:地方の眼力

【小松泰信・(一社)長野県農協地域開発機構研究所長】

2019.07.24 
【小松泰信・地方の眼力】民意、見えるか、聞こえるか一覧へ

 参院選から一夜明けた7月22日、安倍晋三首相は記者会見において、憲法改正に関し、「少なくとも議論は行うべきだ、という国民の審判は下った。野党の皆さんにはこの民意を正面から受け止めていただきたい」と語った。今回も沖縄選挙区では自民党は敗北。何回も下されてきた沖縄の「民意」を蹂躙してきたこのヒトに、「民意」の二文字を振りかざす資格なし。

◆痛快なり、信濃毎日新聞

小松泰信(岡山大学大学院 環境生命科学研究科教授) この会見を受けて、「声を聞き間違えている」と、ズバリ言うのは信濃毎日新聞(7月23日付)の社説。
 まず、(1)野党の多くは主要テーマとして取り上げなかった、(2)公明党も「争点として憲法は熟度が浅い」などとして、演説で憲法に言及していない、(3)世論調査において、有権者が投票で重視する項目としては憲法は大幅に少ない、(4)共同通信社の出口調査でも改憲「反対」が半数近くを占め、「賛成」を上回った。(5)自民党の獲得議席数は57議席で、改選過半数を下回っている。非改選を合わせても113議席で、単独過半数を下回った、(6)公明党代表も「議論すべきだと受け取るのは少し強引だ」と述べている、等々の状況証拠を指し示す。
 さらに、会見で「(国民投票にかける)案を議論するのは国会議員の責任」と強調したことを取り上げ、「首相の認識にも問題がある」と踏み込む。その根拠として、「憲法では、首相や閣僚、国会議員が憲法を尊重し擁護する義務を負う。改憲の議論を国会に義務づける条文は存在しない」ことをあげ、「首相は自らの信条に基づく改憲を国会に押しつけてはならない」と斬り、返す刀で「改めるべきは、首相や自民党の憲法を軽んじる振る舞いと、強引に議論を進める姿勢だ」とは痛快。

 

◆ここに民意あり

 甘やかされて育ったのか、「勝つまでジャンケン」が好きな首相に、この22、23両日に実施された共同通信による世論調査(回答者1029人、回答率51.5%)が直近の民意を教えている。
 「あなたは、安倍内閣が今後、優先して取り組むべき課題は何だと思いますか。二つまでお答えください」という質問(選択肢は、その他、分からない・無回答を含めた11)において、最も多いのが「年金・医療・介護」(48.5%)、これに「景気や雇用など経済政策」(38.5%)、「子育て・少子化対策」(26.0%)が続いている。「憲法改正」は6.9%の9番目で主要な選択肢の最下位。
 さらに「あなたは、安倍首相の下での憲法改正に賛成ですか、反対ですか」については、「賛成」32.2%、「反対」56.0%である。
 よって、偏執狂的な「憲法改正」へのこだわりに象徴される、国家の私物化を許すべきではない。

 

◆ヤジる者は許るしません! でも、ヤジるのは好きなんだよな、ってか?

 国会でヤジるのが好きな、みっともない首相は、ヤジられるのが大の苦手。毎日新聞(7月18日付)によれば、15日に安倍首相が札幌市中央区で街頭演説をした際、「安倍辞めろ」と連呼していた男性が、警備していた警察官に取り囲まれ、後方に排除された。また、「増税反対」などと叫んだ女性も、私服警官に囲まれもみ合いとなり、排除された。他所においても、大声でヤジを飛ばす男性が、私服警官数人によって排除された。道警警備部は「トラブルを未然防止するためで対応は適正」と説明し、専門家は「過剰警備と感じる」と語る。
 西日本新聞(7月21日付)の「永田健の時代ななめ読み」は、まずこの問題を「街頭で最高権力者の演説に対して批判の声を上げた市民が、何ら暴力的なことはしていないのに、(一時的にしろ)警察の実質的な拘束下に置かれた」と要約し、「これって...国際ニュースを見れば分かるが、共産党一党独裁の中国や、プーチン政権による強権支配のロシアで起きていることだ」として、日本の中国化、ロシア化と看破する。そして、北海道警がここまで神経質になった理由を、「極端なほどの『ヤジ嫌い』で知られる安倍首相への忖度」と、結論づける。
 ヤジは「大衆の批評」とする永田氏、「好き勝手なことをしゃべっている偉そうな政治家に『引っ込め!』『ウソつくな!』とヤジるのは、大衆の持つ当然の権利」で、「『表現の自由』の最も原初的な姿」と外連味なく言い切る。そして、「私は自分の住む日本が、現在の中国やロシアと違って『権力者に対し、自由に声を上げられる国』であることを誇りに思ってきた。私にその誇りを捨てさせないでほしいのだ」と、訴える。
 そう言えば、既成メディアが黙殺してきた山本太郎氏(れいわ新選組代表)、街頭演説で「クソ左翼死ね」というヤジを受けた時、躊躇うことも怯むこともなく、「クソ左翼死ねという言葉をいただきました。ありがとうございます」との謝意を表したうえで、「死にたくなる世の中を変えるためにわたしは立候補しているんだ」と返した。当意即妙の演説、アベちゃんの頭じゃムリムリ。

 

◆これも農業・JA関係者の民意ですよね

 さてさて、JAグループが全力を挙げて応援してきた組織内候補者。これだけ乳母日傘の支援を受ければ、当選して当たり前、落選する方が難しい。だけど、成績は見事に急降下。初当選時が44.9万票(党内2位)、2期目が33.8万票(党内2位、減票率24.7%)、そして今回が21.8万票(党内7位、減票率35.5%)。謙虚な人や組織なら敗北宣言すべきもの。
 日本農業新聞(7月23日付)によれば、全国農政連の飛田稔章会長は、「大変に厳しい状況の中、われわれ組織の農政に対する強い思いを示した」「(得票数が)これまでで最少となったことは厳しく受け止めなければならない」「結果を検証し、その課題の解決に向けて取り組む」との談話を発表。
 この談話の最大のポイントは、今回示した「組織の農政に対する強い思い」が意味するところである。敗北宣言すら必要な結果こそが、農業者やJA役職員の民意と受け止めるべきであろう。さもなくば、「声を聞き間違えている」というそしりは免れない。
 当選したご本人は、「期待してもらえるような訴えができなかったためで、残念だ」とのこと。24日付の同紙では、減票への感想を問われて、「准組合員の利用規制は......絶対認められない」という訴えが、上手く伝えきれなかったことを一番の理由にあげている。本気でそう思っているなら問題である。本当は、二番目にあげている「農協改革やTPP」において見せた及び腰の姿勢、と分かっているんでしょ。ところが、3期目における力のいれどころを問われて、またもや准組合員規制導入阻止をあげている。
 「7月の選挙後、大きな数字が出てくる」のをお待ちの方がいることを忘れたとは言わせない。
 早速始まる日米貿易協定交渉において、強硬な措置をちらつかせて圧力を掛けてくることは必至。
 我が国の農業が、これ以上大盤振る舞いの貢ぎ物とならないように、これが最後と覚悟を決めて捨て身で戦うべし。
 「20万票そこそこじゃ、JAグループもその程度かと言われて、話すら聞いてもらえなかった」との恨み節を聞く耳は無い。
 「地方の眼力」なめんなよ

 

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