【リレー談話室・JAの現場から】「組合の先生」の薫陶忘れず2019年12月6日
私と組合員Kさんとの付き合いを紹介します。Kさんは水稲と果樹栽培を営み、米の集荷時期に人手が足りないときに短期雇用者として、農協の集荷作業の手伝いをお願いしていました。
食糧事務所がコメの検査をしていた時のことです。そのころの検査は米袋を全量検査していましたので、準備や検査にとても時間がかかりました。当時私は金融担当でしたが、米の検査日には組合員が持ってきた米袋を1列に並べる手伝いをしたり、等級が確定した米を入庫したりしていました。
ある米の検査時に、作業を手伝ってくれているKさんが職員を見て、「米袋に腰を下ろすものではない。昔だったら、どやされるところだ」と言いました。Kさんは続けて、「俺らが一生懸命に作った米だ。大切に扱ってほしい」ということを言いました。叱られた職員は申し訳なさそうに腰を上げ、詫びを言いました。
次年度の稲作について集落座談会で話し合っていた時のことです。米の品質向上のため土壌改良材を水田に一定量投入しようと提案しました。従来の施肥量を変えることになるため、組合員からはいろいろな意見が出ました。「水田ごとに必要な量が違うはずだから、農協が土壌分析して、必要量を提案すればよい」という意見も出ました。物理的に全地区の水田一枚ずつ分析ができないので、一定量の投入を提案しました。
しかし、提案を受容できないという組合員もいました。方向が2分化しそうになった時、Kさんが「組合が資料を揃えて提案してくれている。ここはみんなで組合の提案に乗ってみよう」と発言しました。この発言がきっかけとなって方向が一つになりました。
これまでの寄稿で私の経験を話してきました。過去のことですが、自分が協同組合の一員として存在するのは、組合の諸先輩との体験を通して教えてもらったおかげです。協同組合論は実学と言われます。事業と生活に密着しているからこそ、かかわりのある人の言動に普遍性が加わり、理論を強化すると思います。
3年前から、農協ではこれからのリーダーを育成するため、20人程度の組合員を対象に「組合員講座」を開講しています。農業情勢・農協を取り巻く環境変化、組合の経営層との話し合いを講座の内容としています。この講座には組合員のほか、その組合員を推薦した支店長が必ず出席します。同じ経験を通して、支店長と参加組合員の繋がりが、より強くなってほしいとの思いもあります。
組合員の中には専業農家や定年退職後に農業をする方もいます。中には、企業で経営管理をしていたエキスパートもいます。これらの人に協同組合の理念や特質を基本に据え、協同組合としての経営と組織運営を考え、引っ張っていってほしいと思います。
昔の農協は小学校区単位に支店がありましたが、支店再編整備によって支店の数が減少し、現場作業の中でじっくり話をする機会も少なくなっていると思います。組合が組合員に対し、組合のことを考える機会をつくる「組合員講座」は、組織活性化の選択肢の一つだと思います。
Kさんはすでに亡くなれたのですが、元気な時の言動は私にはとても良い「組合の先生」でした。私がその「組合の先生」に最初にお会いした時の先生の年齢になり、少しでも先生に近づけたらと思います。
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