【浅野純次・読書の楽しみ】第50回2020年5月12日
◎岩田健太郎『感染症は実在しない』(インターナショナル新書、1078円)
日本のウイルス対策はどこが間違っているのか。感染症の専門家である著者は、政治家や厚労省の勘違いこそが問題の根源であると厳しく追及します。本書の大半は11年前に書かれたのですが、内容的には、今こそ重要さを増していると言えるでしょう。
大事なのは、感染症(だけでなくガンも糖尿病も)が実在するものではなく、そうした症状というコトとして認識されるべきだということ。だとすると患者への対応の仕方は今の硬直的なものからまるで変わってこなければなりません。
話題の陽性・陰性でいえば、ぴんぴんした人でも陽性という規定(モノ)によって対応を迫られます。これは厚労省と感染症法によって、がちがちにしばられています。本書は陽性でも軽症なら自宅に閉じこもることを推奨しています。
著者はクルーズ船に乗り込んで二次感染を警告し、厚労省の職員とトラブルを起こしてしまいますが、今では著者の判断が正しかったことは明白です。
日本政府の歴史的弱点は、一度決めたプランにしがみつき方針転換できないことだと著者は喝破します。正論でしょう。その指摘に関係者が学んで、初動時からの間違いが一日も早く修正されることを期待します。
◎長尾和宏『歩くだけでウイルス感染に勝てる!』(山と渓谷社、1320円)
歩くだけでウイルス感染に本当に勝てるのか、と思う人が多いでしょう。正確にいえば、しっかり歩けば重症化するリスクは大幅に削減できるというのが著者の言い分です。
きちんと歩けば病気の9割は治る、認知症も防げる、という歩くシリーズで人気の著者の本も、いよいよ新型コロナ編が登場。でも基本的原理は同じ、歩行習慣で免疫力が高まるというのです。
前半ではウイルスをめぐる知識がたっぷり述べられていて、かなり知っていたつもりの私も結構、勉強になりました。正しく怖がるなどと言いますが、正しくという以上はこの程度の知識は知っておく必要があります。
とにかく歩くことは最重要です。今回は良い機会なので本書によりこまめに歩き回る習慣を身につけてはどうでしょうか。
なお前田浩『ウイルスにもガンにも野菜スープの力』(幻冬舎、1320円)も参考にしたいタイムリーな本です。野菜スープの抗酸化力は、歩くのとセットで大いに威力を発揮するはずです。
◎全卓樹『銀河の片隅で科学夜話』 (朝日出版社、1760円)
書名からは天文の本かと思いますが、22のエッセイのうち天空編は4編だけ、ほかに原子編、数理社会編、倫理編、生命編からなり、最先端の科学知識や最近話題のテーマを幅広く楽しめます。
天空編ではブラックホールや彗星など、原子編では真空、放射線、量子力学の話。かなりの程度まで易しく書かれていますが、それでも物理は苦手という人には数理社会以下がお勧めです。多数決の決まり方とかジャンケンの勝ち方とか付和雷同が決める世の中など、案外、役に立ちそうな話が続きます。
著者は高知工科大学教授で物理系が専門ですが、私のお勧めは生命編です。人間以外で農業を営む生物とは何かとか、同種の敵に奴隷化された後、自由を求めて反乱を起こす生物とか。わかりますか。答はどちらもアリ。軽飛行機に率いられて越冬するツルの話も感動的です。内容、文章、挿絵がそろった、昨今、出色の出来の科学書と言えるでしょう。
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