適疎な地方的生活の価値【小松泰信・地方の眼力】2020年6月10日
「コロナ以後の社会において自分にとって適切にまばらな度合いというのはどれぐらいなのか。僕はそれを“適疎”と呼んでいますが、適疎な場所とはどこなのか。自分にとって適疎だと思える場所を探し求めて移動し始めるということが起きるのではないか。あらためてその人たちを迎え入れて新しいタイプの地域をつくっていこうというきっかけになればと思っています」と語るのは山崎亮氏(コミュニティデザイナー)(NHKおはよう日本、6月3日)。全国約200の地域のまちづくりに関わってきた経験から、「自分にとって過密でも過疎でもない場所を選び取る時代」の到来を展望している。
適密ではなく適疎である点に興味をそそられる。なぜなら、適密は過密への誘惑から逃れられないからだ。
◆戦えるか知事会
適疎社会の形成には、地方自治体の果たすべき役割が大きい。
全国知事会が6月4日、オンラインで全体会合を開き、新型コロナウイルス対策の強化を国に求める提言をまとめた。
西日本新聞(6月5日付)は、提言のポイントとしてつぎの4項目に整理している。
(1)大都市部の人口集中は感染拡大リスクが高く、地方分散が必要。
(2)テレワーク環境の整備や、中央省庁の地方移転を進めるべきだ。
(3)新型コロナ特措法に基づく休業要請に従わない事業者への罰則を検討。
(4)多様な感染防止策を実施できるよう、知事の裁量権を拡大。
同紙(6月7日付)では、片山善博氏(早稲田大大学院教授、元鳥取県知事)が、知事会のコロナ対策について一定の成果を上げたと評価しつつ、休業要請に伴う協力金で国の負担割合を明確にするなど「国と対等にモノを言えるルールをつくるのが知事会の本来の役目だ」との、期待するが故のコメントを紹介している。
そして飯泉嘉門会長(徳島県知事)が「われわれの権限については知事会の場でしっかりと方向性を打ち出す。(国と地方の)新しい在り方がコロナの気付きとして生まれている」と語ったことを受け、「国と地方の関係を『主従』から『対等』に変えようと定めた地方分権一括法の施行から20年。国と地方は感染症対策を機に、より対等な関係を築けるかどうかの転換点に立っている」と、記事を締めている。
また愛媛新聞(6月5日付)は、同会議に参加した中村時広愛媛県知事が、新型コロナウイルス感染者が発生した高齢者施設で介護従事者が不足した経緯に触れ、全国的な応援体制の構築を国に要望するよう検討してほしいと提案したことを報じている。
◆政治の不作為で地域医療を崩壊させてはならない
介護の現場同様、医療の現場も切実な問題が生じている。
日本農業新聞(6月9日付)の1面には「JA病院窮地」という大見出し。コロナ禍により、地域医療を懸命に守る各地のJA病院の収入が激減し、経営が悪化していることを伝えている。
その典型例として詳しく紹介されているのが、神奈川県相模原市にある相模原協同病院。同院は、今年1月10日に日本で初めての新型コロナの陽性患者を受け入れ、2月上旬には横浜港に停泊していたクルーズ船の陽性患者も受け入れた。5月までに疑いも含め64人の陽性患者の治療に当たってきた。
感染症病棟のベッドは6床だったが、増え続ける受け入れ要請に、「断れない。患者の行き場なくなる」(井關〈いせき〉治和院長)と、急きょ緩和ケアー病棟の12床も使った。約1000人の職員が24時間体制で地域医療を守ってきたが、患者数の激減、人員や資材への投資で4、5月は前年同月比で収入が4割の収入減。極めて深刻な経営難に直面しており、「存続が危ぶまれる」事態とのこと。
すでに同院の窮状を報じていた東京新聞(6月5日付)によれば、井關院長は「過去最大級の赤字が発生し、この状況が数カ月続くと経営が成り立たなくなる」と危機感を募らせ、「新型コロナに対応する病院の多くは公立だが、うちは民間。一月から対応してきた経験を生かし、今後の流行に備えながら安全な高度医療を提供するには行政の財政支援が不可欠。病院がなくなってしまっては元も子もない」と、訴えている。
国が手をこまねいていたら、危険と引き換えに得た貴重なデータを失うばかりか、地域医療の拠点を失うことになる。それは、「政治の不作為による地域医療の崩壊」を意味している。
◆コロナ以前は正常だったのか?
「コロナ以前は『正常』だったのか?」と問いかけるのは、佐伯啓思氏(京都大学名誉教授)(西日本新聞、6月9日付夕刊)。氏が住む京都では、インバウンド政策が始まって以降、「住民の日常生活はかなり被害を受けた。聞こえてくるのは苦情ばかりであった」と嘆息する。
1960年代以降、都市生活こそが標準モデルとなり、「その後の経済は『不要不急』の生活によって成長してきた」とする。特にこの数年は、外国人観光客や多種多様のイベントやエンターテイメント、外食産業やグルメ、あげくの果てはカジノといった、「人を集めて快楽を与え消費につなげるという都市型の生活に経済の命綱が預けられた」と分析する。そして、コロナ禍がこの都市型生活を直撃し、政府によって不要不急のレッテルが貼られた、これら新手の産業が大打撃を受けた。それによって露呈したのが、「不要不急頼みの経済の脆(もろ)さ」とする。
脆さの実態は、「必要火急」すなわち「医療や日頃の養生、介護、教育、困窮事態に助け合える人間のつながり、必需品の自給等々」の絶対的不足である。
これら「必要火急」の財・サービスは市場経済にはなじまず、公共的なものであり、「本来、都市型生活というより、地方的生活にこそ適合するものなのである」と結び、地方的生活の価値に言及している。
◆アベノマスクいまだ届かず
現時点(6月10日早朝)で我が家に、アベノマスクは届いていない。特別定額給付金申請書は5月19日に届き、即日申請。6月4日にやっとご入金。マスクも当座の生活費にも困っていない身故に、ネタにして溜飲を下げているが、本来は必要火急のモノでありカネであるはず。政治は「不要不急」を語る前に、「必要火急」事項を可及的速やかに実践せよ。
「地方の眼力」なめんなよ。
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