どこへ行ったの国難は【小松泰信・地方の眼力】2020年6月17日
2017年9月28日招集の臨時国会冒頭において衆議院は解散した。安倍晋三首相は解散の理由を、核実験と弾道ミサイル発射を繰り返す「北朝鮮による脅威」と、世界的にも前例のない速さで進むわが国の「少子高齢化」、これらを国難と位置付け、国民と共に乗り越えていくことを問うためとした。
俗称「国難突破解散」だったが、加計学園問題や森友学園問題などの「疑惑隠蔽解散」であったことは衆目の一致するところ。
百歩譲って、ふたつの国難への対応は今どのような状況か。
◆「北朝鮮による脅威」への対応はどうだ
陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」を秋田県と山口県に配備する計画はストップ。
大臣になってから、人ではなく毒まんじゅうを食ったような言動が続いていた河野太郎防衛相は6月15日の記者会見で、「(迎撃ミサイル発射後に弾頭から切り離されたブースターを)確実にむつみ演習場に落とせることにならないと判明し、(改修の)コスト、期間を考えると配備のプロセスを進めるのは合理的ではないと判断せざるを得なかった」と、殊勝な顔で語った。
もともといわく付きの配備計画(米国製武器爆買い、ずさんな立地選定理由、そして住民説明会での担当官の居眠り等々)、故に計画停止に止まらず撤回を求めたい。
多くの反対に対し、北朝鮮の弾道ミサイルの脅威を煽りに煽って進めてきた計画の頓挫。これを待っていたかのように、北朝鮮は16日午後、南北共同連絡事務所を爆破した。朝鮮半島の緊張が高まるなかでの、国家安全保障上の大失態。
配備候補地として翻弄されてきた秋田県の秋田魁新報は16日付社説において、「これまで配備候補地周辺の安全性を強調してきたにもかかわらず、前言を撤回することは無責任極まりない。配備に大きな不安を抱き、反対運動を続けてきた地元住民をはじめとする県民の政府に対する信頼は根底から失われた」と、怒りをあらわにする。
さらに「計画停止の表明を受け、再調査対象の国有地を抱える県内自治体の首長から『現実的に配備の可能性はなくなったと受け止めている』との声が出たのは当然だ」、「これまでの政府の計画のずさんさや地元への説明の不誠実さには目に余るものがある。政府はこれ以上、地上イージス導入に固執するべきではない」と、容赦なし。
◆「少子化」への対応はどうだ
政府は、5月29日に「少子化社会対策大綱~新しい令和の時代にふさわしい少子化対策へ~」を閣議決定した。2019年に生まれた赤ちゃんの数が、統計開始以来はじめて90万人を割った「86万ショック」を踏まえてのものである。
南日本新聞(6月14日付)の社説は、大綱が実現を明記した、若い世代が希望通りの数の子どもを持てる「希望出生率」1.8を取り上げ、「2019年の合計特殊出生率は1.36で、全国6位の鹿児島県でも1.63。希望を達成するには相当な支援が必要だろう」とする。
「未婚率の高い若い非正規労働者の正社員化を支援することなどで雇用の安定化を図り、望む時期に結婚や子育てができる社会にすることを基本的な目標」にしていることを妥当としたうえで、「出産年齢に当たる人口が既に細っている現状では、出生数のV字回復は期待できまい。何とか減少傾向に歯止めをかけることに知恵と財源を集中する必要がある」と、冷静に提案する。
そして、「コロナ禍で、経済は『100年に一度の危機』とされる。企業倒産の増加とともに雇用も急激に悪化している。政府は若い働き手を全力で支え、『国家百年の計』として少子化対策を着実に進めてほしい」と訴える。
信濃毎日新聞(6月14日付)の社説は、18年度時点に6.16%の男性の育休取得率を、25年には30%へと目標設定し、「実現のために育休給付金の引き上げを検討課題」としている点を疑問視する。
「育休給付金は雇用保険が財源だ。コロナ禍で企業の収入が落ち込む中、労使に負担増を求めることになれば実現は難しい」ことから、「若者や子育て世代が直面する現実もつぶさに把握しながら判断」せよとする。
さらに、「安心して選択できる社会をつくる責務は、第一に国にある」と、国の責任を強調する。
◆産みにくく、育てにくい国、日本
「公益財団法人1more Baby応援団」は今年4月に既婚者2954名を対象に「夫婦の出産意識調査2020」を実施した。注目すべき結果は次の点である。
まず「日本は子どもを『産みやすい』国に近づいている」かについては、「近づいていない」と答えた人(「あてはまらない」「どちらかといえば、あてはまらない」の合計)が70.4%にも及んでいる。
また、「日本は子どもを『育てやすい』国に近づいている」かについても、「近づいていない」と答えた人(「あてはまらない」「どちらかといえば、あてはまらない」の合計)が69.5%となっている。原因の上位3項目は「社会制度が整っていない」75.7%、「給与が低い(または上がる見込みがない)」59.5%、「保育・学校にかかるお金が高い」58.1%である。
少子化を本当に国難とするならば、すべきことは明らかである。
◆介護施設での悲劇
NHKおはよう日本(6月16日)は、新型コロナウイルスの感染が広がる中、札幌市にある介護老人保健施設「茨戸(ばらと)アカシアハイツ」で入所者の7割以上にあたる71人が感染し、このうちの11人が病院で治療を受けることなく施設内で亡くなったことを放送した。介護老人保健医施設の感染者について、国は原則、入院という方針を示しているが、「搬送」が認められない中での悲劇である。感染者の最期をみとった現場の介護士Sさんは、当時の様子を語り、「割り切れない。今回の件はいつまでも背負っていかなければならない」と、涙ながらに語っていた。身体的接触が不可欠な施設で、感染者や職員の命を守るところまで制度が整備されなかった、と言えばそれまでだが、国難としての高齢化問題についても、口だけであった。
髙村薫氏(作家)は「サンデー毎日」(6月28日号)で、「同じコロナ禍の下で必死に高齢者を守っていた約190万人の介護職の人びとのことを、私たちはすっかり忘れていたのではないか。高齢者はデモや暴動は起こさないし、障害者や路上生活者も同様に静かな存在ではあるが、そんな彼らに気づきもせず、あまつさえ民度が云々(うんぬん)とのたまうような政治家の跋扈(ばっこ)する社会が、いったい人間らしい暮らしの何に気づけるというのだろうか」と、鋭く問いかける。
俺らこんな国いやだ、俺らこんな国いやだ。安倍さん、やっぱり国難はあんただよ。#国会やめるな安倍やめろ!
「地方の眼力」なめんなよ。
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