堆厩肥による地力の維持増進(2)【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第123回2020年11月5日
生ゴミや人間が食用等にできない残滓物も糞尿などと同様に不要物ではなかった。腐熟させて堆肥として土地に返してきた。あるいは家畜のえさにしてその排泄物を土に返し、その家畜を人間が食べてその一部を排泄することにより土に返す。こうして土から取れたものは土に返してきた。
もちろん、生ゴミや残滓物はできるかぎり出さないようにした。たとえば農産物はすみからすみまでさまざまな形で利用した。余った野菜は漬け物にしたり、間引きしたものも食用として利用した。食べ物ばかりでなく、その他の生産・生活資材、たとえば古材や古着、古紙等々もゴミにはしなかった。さまざまな形で再利用した。
たとえば古新聞紙、これは包み紙として利用した。肉屋さんに買い物に行くと肉を経木で包み、それを新聞紙にくるんで渡してくれた。また新聞紙は適当な大きさに切ってちり紙として利用した。子どものころその新聞紙で鼻をかむものだから鼻のまわりが印刷インクで真っ黒になっていたものだった。また便所紙としても利用した。その鼻紙は生ゴミといっしょに、便所紙は人糞尿とともに土に還った。
こうした利用が不可能なもの、不可能になったもの、あるいはどうしても使えなくなったときは燃料とし、それでできた灰は田畑に戻した。ともに土から取れたもの故に返せるのである。まさに今でいう「リサイクル」をしていた。したがって不要物はほとんどないといってよかった。
家畜糞尿も処理に困る不要物ではなかった。自給飼料にもとづいた小規模畜産だったことから自分の田畑に十分に還せるし、それどころか堆肥の確保のために家畜を飼育した。家畜糞尿は必要物だったのである。
都市の生ゴミも農業で利用した。仙台などでは養豚農家が二日に一度ずつ都市部の家々を回って歩いて生ゴミを集めて馬車もしくはリヤカーで運び、それを煮沸して豚の餌にしていた。いわゆる残飯養豚がなされていた。そしてその糞尿も厩肥として土地に還した。
養豚農家の集めない地域の生ゴミやそれ以外の都市ゴミは焼却もされたが、分解して土地に帰ることのないプラスチックが今と違って入っていないし、金属屑やガラスのかけらもほとんど入っていなかった(屑屋さんに持って行けば再利用のために買ってくれたのでゴミとして捨てることはあまりなかった)ので、それを堆肥としても利用した。
私のもの心ついたころ(昭和初期)、春の雪解けが過ぎると市役所のゴミ収集車(といっても大八車だが)が町の家々のゴミ箱から集めてきたゴミを私の生家などの農家の前の畑に運んで来てくれたものだった。そのゴミを農家は稲わらなどとともに「温床」(=野菜の育苗施設)の土の下に投入し、自然のうちに発酵させて発熱源として利用した。さらに、その発酵の役目を果たし終えて腐熟したゴミを今度は堆肥として利用した。
このように稲わらや生ゴミは堆肥として作物の養分補給材、土壌改良材としてだけでなく熱エネルギー源としても役割を果たしたのである。
早春、北海道の畑はまだ一面雪である。早く雪を融かして農作業を始めたい、そこで農家は融雪剤を撒き、畑は薄い灰色に汚れる。飛行機の窓からみると白い畑に灰色の筋状の模様がついているのが見えるが、それを見ると北海道ももうすぐ春だなと季節を感じさせる。
もう20年も前の春になるが、東京農大の網走の農場でその畑を見ていたとき、隣にいた事務部長(当時)のFさんがこうつぶやいた、「その昔は春先になるとあの畑は精農の畑か堕農の畑かがわかったものだった」と。堆肥をきちんと撒布した精農の畑の雪は堆肥の発する熱で早く消えるのでわかるのだそうである。作物の栽培期間の短い北海道ではそれが収量を大きく左右したものだったと言う。作物の栄養源としてだけでなく、作物の暖房としても堆肥は役にたったのである。
それを意図的に利用したのが先ほど言った「温床」だった。というだけではおわかりいただけないかもしれない。また聞こうとしても、知っているのはみんな私のような年寄りで聞けなくなりつつある、しかも地域によってはやっていなかったところもある。そこで次回は約70年前の東北の一地域の温床について私の記憶をたどって説明させていただきたい。
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