言論規制の後にくる破局【森島 賢・正義派の農政論】2020年11月9日
学術会議の人事権を菅義偉首相が奪おうとしている。人事を握れば、その組織は自由に操れる。ことに学術会議は営利組織とは違って、カネで操ることはできない。人事が全てである。
首相は、人事権を握って、いったい何をしたいのか。
学術会議は、全国の科学者が集まって、自由に、かつ公開して議論し、科学の成果を社会に役立てようとする組織である。
ここには、会議の中での発言の自由と並んで、社会に向けて発表する自由がなければならない。つまり、言論の自由が保証されていなければならない。
このばあい、政府にとって不都合な言論もある。政府は、これを止めさせたいと考えているのだろう。そのための最も効果的な方法は、人事に介入することである。
組織を動かすのは、カネと人事だという。しかし、学術会議はカネとは無縁である。残るのは人事しかない。政府が人事権を握れば、科学者たちは、政府の意向を忖度しながら発言することになる。つまり、言論の規制である。
首相は、言論を規制して、いったい何をしたいのか。
政府は、学術会議問題で、学問の自由を侵す考えはない、といっている。つまり、誰がどんな研究をしても自由だ、といっている。
これは、問題のすり替えである。問題のすり替えという特技は、現内閣が前内閣から引き継いだ悪しきDNAである。早急に組み替えねばならない。
学術会議は学問研究の場ではない。研究成果で社会に貢献するために科学者が集まって、そのためにはどうすればいいかを議論し、社会に発表する場である。
時には、それは政府の方針を批判することもある。だが、ここで必須なことは、政府が科学者に対して、政府の意向を忖度させることではない。忖度も前内閣から引き継いだDNAだが、早急にワクチンを開発してこのDNAを不活化しなければならない。絶滅させれば、もっといい。
ここで必須なことは、自由に議論し、自由に発表するための言論の自由である。戦後、学術会議を創設し、政府から独立した組織にした意義は、まさに、ここにある。
◇
ひるがえって歴史をみると、昭和初期、そのときの政府は言論を弾圧して、戦争を始めた。まず初めに、戦争に反対する言論を弾圧しておいて、多くの国民が戦争に賛成するように仕向けた。そうして、アジアを侵略し、搾取の場を広げようとした。しかし、アジアの弱者、また日本の弱者に塗炭の苦しみを与えただけで終わった。
いまの首相は、このことを反省することもなく、またしても、アジアに対して搾取を広げるために、戦争を仕掛けたいと思っているのだろうか。まさか、そうではあるまい。
しかし、全くあきらめている訳ではない。戦争をしようとは思っていないようだが、戦力で威嚇し、搾取の場をアジアに広げたい、と考えている。そうして、この考えに反対する言論を抑え込もう、と考えている。それと同時に、国内での搾取の強化を図っている。
そのためには、この基本政策に反対する言論を抑え込まねばならない。そこで、第一番目にやり玉に上げたのが学術会議なのである。
◇
学術会議に対して、にわか権力者らしく威令を見せつけて、日ごろ政府を批判する科学者に対する鬱憤を晴らしたい、と考えているのだろう。だが、そうした愉快犯というだけではない。国民からの信頼の厚い科学者を屈服させ、言論を封じたいと考えている。そうしておけば、科学者だけでなく、大多数の国民を意のままに操ることができる。学術会議問題は、言論を封じるための突破口なのである。
この突破口の先にあるものは何か。
それは国内では、搾取の強化のための非正規労働の拡大であり、そのための労働規制の緩和であり、格差の拡大である。
そして国外では、アメリカの目下の同盟者として、アジアへの搾取の拡大を狙うことである。アメリカとの軍事同盟は、そのためにある。
◇
学術会議問題は、このように科学者だけの問題ではない。言論の自由を守るかどうか、という国民の基本的権利に関わる問題である。それと同時に民主主義の根幹に関わる問題である。そこを政府が攻撃しているのである。
もしも、学術会議問題を突破口にして、それが破られれば、国内では格差がひろがり、国外では軍事力を背景にしたアジア侵略が進むだろう。この道は戦前の日本が辿った道である。その先には破局しかない。
科学者だけでなく、全弱者が力を合わせて、この道を閉ざさねばならない。
(2020.11.09)
(前回 言論規制としての学術会議問題)
(前々回 コロナ禍のなかの学術会議問題)
(「正義派の農政論」に対するご意見・ご感想をお寄せください。コチラのお問い合わせフォームより、お願いいたします。)
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(159)-食料・農業・農村基本計画(1)-2025年9月13日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(76)【防除学習帖】第315回2025年9月13日
-
農薬の正しい使い方(49)【今さら聞けない営農情報】第315回2025年9月13日
-
【人事異動】JA全中(10月1日付)2025年9月12日
-
【注意報】野菜類、花き類、豆類にハスモンヨトウ 県内全域で多発のおそれ 兵庫県2025年9月12日
-
【注意報】果樹カメムシ類 県内全域で多発のおそれ 佐賀県2025年9月12日
-
【石破退陣に思う】農政も思い切りやってほしかった 立憲民主党農林漁業再生本部顧問・篠原孝衆議院議員2025年9月12日
-
【石破首相退陣に思う】破られた新しい政治への期待 国民民主党 舟山康江参議院議員2025年9月12日
-
【石破退陣に思う】農政でも「らしさ」出しきれず 衆議院農水委員会委員・やはた愛衆議院議員(れいわ新選組)2025年9月12日
-
ドローン映像解析とロボットトラクタで実証実験 労働時間削減と効率化を確認 JA帯広かわにし2025年9月12日
-
スマート農業の実践と課題を共有 音更町で研修会に150名参加2025年9月12日
-
【地域を診る】個性を生かした地域づくり 長野県栄村・高橋彦芳元村長の実践から学ぶ 京都橘大学学長 岡田知弘氏2025年9月12日
-
(452)「決定疲れ」の中での選択【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年9月12日
-
秋の味覚「やまが和栗」出荷開始 JA鹿本2025年9月12日
-
「令和7年台風第15号」農業経営収入保険の支払い期限を延長 NOSAI全国連2025年9月12日
-
成長軌道の豆乳市場「豆乳の日」前に説明会を実施 日本豆乳協会2025年9月12日
-
スマート農園を社会実装「品川ソーシャルイノベーションアクセラレーター」に採択 OYASAI2025年9月12日
-
ご当地チューハイ「寶CRAFT」<大阪泉北レモン>新発売 宝酒造2025年9月12日
-
「卵フェスin池袋2025」食べ放題チケット最終販売開始 日本たまごかけごはん研究所2025年9月12日
-
「日本酒イベントカレンダー 2025年9月版」発表 日本酒造組合中央会2025年9月12日